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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
序章 異世界召喚!?
3/68

2話 出会いは裸と剣と




 普段、部屋の中で全てのことを済ませているため、オレの体力は常人以下に成り下がっていた。

 30分ほど歩いただろうか、森から抜け出せる気配もなく、(のど)が干からびそうだ。

 そう言えば、昨日から何も口にしてないや。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 もう限界、これ以上歩けん。

 近くにあった木に片手を当ててゼェゼェと息を吐く。

 ついには座り込んで空を見上げる始末。


「どんだけ広いんだよ......」


 辺りを見回すが、元いた場所と大して変わらない景色にうんざりする。

 お腹も空いたし(のど)もカラカラ。

 しばらくボーッとしていると、微かに水の流れる音が聞こえてきた。


「み、水......」


 幽鬼のような足取りで水、水とつぶやきながら音のする方へと歩いて行く。




 水が、いや、泉があった。

 (のど)の渇きが限界に来ていたので、次第に足が速くなる。

 泉へダイブする勢いでいたが。


「――――ッ!!」


 泉の中にいた人を見て、言葉を失った。


 天使が、いた。


 腰まで伸びた美しい金の髪と玉の肌。

 そして、ほっそりとした肩からくびれた腰まで、すぅと伝わっていく一筋の水滴。

 一糸(まと)わぬ姿で、両手に溜めた水を自分の髪へ、体へと塗り込むようにして水浴びをしていた。


 もしかしてオレは天国に来たのだろうかと思っていると。


 一筋の光がオレの(ほお)(かす)めていった。


「誰だっ!」


 咄嗟(とっさ)に茂みに隠れるが、オレの居場所はバレているのだろう。

 こちらに向かって歩いてくる水の音がする。


「素直に出てきなさい。次は威嚇(いかく)じゃ済まさないわよ」


 泉の方からおびただしい量の光が輝きを放ち出した。

 オレは動物のモノマネでやり過ごそうとしたが、無理そうだ。

 こ、殺される。

 16年生きてきて初めて死を覚悟した。


 オレは決死の思いで叫んだ。


「こ、殺さないでくれ! 悪気はなかったんだ」


 両手を上げて茂みから出たオレが見た光景は。

 オレの、理解を遥かに超えていた。


 まず、天使がいた。

 いや、羽が生えていないから、正確には天使と見紛うような美少女だが。


 女性から見ても華奢な体でありながら、片手で隠す胸の膨らみは隠しきれていないほどあり。

 太陽よりも眩しく輝いている美しい金の髪に、まだ幼さが目立つ顔立ちは可愛らしくもあり美しくもある。

 そして、オレが目を奪われたのがルビーのように煌々と輝く(あか)い瞳。


 その美しさに見とれる間もなく、オレの喉元に突き出されているいかにもRPGで出てきそうな光の剣に顔をひきつらせる。


 人は自分の理解を超えた出来事に出くわすと、脳が情報を処理しきれなくなり思考を停止させると言われている。

 初めて生で見る同年代の裸体と。

 初めて受ける本物の殺気とで頭が真っ白になっていた。


 そんなオレのことを見た彼女は、その美しい紅い眼と可愛らしい口をいっぱいに開く。


「......魔族...なんで?」


「すみません悪気はなかったんです。歩き疲れて(のど)が干からびそうで水が飲みたかっただけなんです。いや、女の子の裸ラッキーとか思いましたが(のぞ)くつもりはなかったんです。ホントたまたまなんです。殺さないでください。すみませんすみません......」


 何を言っているのか聞き取れなかったオレは、とりあえず殺されるのは勘弁願いたいので、目にも留まらぬ早さで、五体を地面にこすりつけて言い訳がましく謝った。


「と、とりあえずそのままでいなさい。こ、こっち向くんじゃないわよ」


 オレの土下座が功を奏したのか、とりあえずすぐに殺されることはないようだ。

 彼女は若干動揺しているようだが、いきなり男に自分の裸を見られたのだ、動揺もするだろう。

 さっきまでオレを殺す気満々でいたのに、急に恥じらいを見せられて、こっちまで恥ずかしくなってしまった。


 すると、しゅるしゅると布切れの音が聞こえてきた。

 服を着ているのだろうが姿が見えない分、思春期真っ只中のオレには逆に刺激が強すぎる。

 考えまいとすればするほど、先程の芸術品のような彼女の体を想像してしまう。

 顔を赤くしてしばらくすると、彼女から声がかかった。


「もういいわよ」


「は、はいぃ」


 若干声が裏返ったが、やはりオレの目に狂いはなかった。

 天使や~天使がおるで。


 青と白を基調とした騎士団のような服装に包まれた彼女は、先ほどのあどけない容姿とはまた別の、凛とした美しさを(まと)っていた。

 その美しさに見とれていると、彼女は鋭い目つきで問い詰める。


「どうして魔族がこんなところにいるのかしら?」


「......ん?」


 魔族? えっ!? オレが?


 オレはいまいち自分の置かれている状況が理解できず、首をかしげることしかできなかった。

 その反応に苛立(いらだ)ちを見せる彼女は、さらに言葉を続ける。


「こんな人間領の深くまで、それもひとりとは、偵察かしら?」


「ちょ、ちょっとまってくれませんか? すぐに状況を理解するので......」


「ふんっ、図星をつかれて動揺しているのかしら?」


「......」


 何やら彼女はオレを挑発するような発言をしてるようだが、今はそんなことにかまけている場合ではない。

 まずはオレの状況を理解せねば。


 まず、オレは自分の部屋でゲームをしていた。

 だが、目が覚めると森で。

 それに、魔族とか人前で平気で発言するあたり、やはりここは日本ではないのだろう。

 まぁ、どこのコスプレ(レイヤー)だよっていう服装に、光の剣(?)という、いかにもなモノを見れば、これはもう異世界召喚ってやつで間違いないだろう。


 それに、この世界では魔族と人間とが分かれているみたいだ。

 だが、元の世界では人間とはオレのことで、彼女を見る限り、男と女という違いだけでこれと言って違いはない。

 ならオレが今言うべき言葉は、これだろう。


「魔族? オレが? どっからどう見ても人間だろ」


 胸を張って堂々と、君とオレの何が違うんだと言わんばかりのドヤ顔でいると、彼女はその吸い込まれるような美しい紅い眼を大きく開いて、次には笑いだした。


「......あっははははっ、面白いこと言うのね。魔族の証である金眼を片方しか隠せてないわよ」


「金眼......これが魔族の証...?」


「そうよ、何を今更。変装もろくに出来ない低俗な魔族が、よくここまで潜り込むことが出来たわね」


 そう言って彼女は、帯刀している刀を抜刀してオレに突き出してきた。

 彼女は先程オレに向けてきた殺気を放ち、今にも斬りかからんとする雰囲気だ。


「えっ? 魔力を、感じない......?」


 驚きをあらわにする彼女が発した小さなつぶやきは、死を目前に恐怖しているオレには聞こえなかった。


 オレは殺されるのか......。

 新たな世界へ来て、たった30分程度でゲームオーバーなのか?

 ただ、森を歩いただけで終わってしまうのか?

 異世界での初イベントで死亡するとか、マジで勘弁なんだが。


 オレはこの世界での出来事を走馬灯のように思い返していた。

 小説やマンガなら、ここからオレが魔法でも出して応戦とかするのだろうが、あいにくオレは魔法とか出せないし、出し方とか知らない。


 (この)眼になってから、オレはろくなことがなかったなぁ。

 こんな所で死ぬのかぁ。

 嫌だなぁ。

 でも、最後にこんな美少女に出会えたから、もう、いいかな。


 オレは人生の最後の言葉を心の中で締めくくり、死を覚悟して目を(つむ)った。


 いったいどれほどそうしていただろうか。

 剣で突き刺される感触も斬られる痛みもなく、ただ心地いい森の香りが体に伝わるだけだった。


「はぁ、いつまでそうやってるつもりなの!」


 恐る恐る目を開けると、彼女はため息と共に殺気と剣を収めていた。


「殺さ、ないのか......?」


 予想外の出来事に唖然(あぜん)とするオレは、気がつけばそうな事を口にしていた。

 その言葉を受けた彼女は、少しそっぽを向いて応える。


「私だって鬼じゃないわ。無抵抗な相手を攻撃するつもりは無いわよ。それに......」


「それに? 何?」


「もしあんたが偵察隊なら、どうやってこんな人間領の深部まで来れたのか気になるしね。それに、魔族なのに魔力が全くないのも気になるし......」


 最後の方は何を言っていたのかよく聞こえなかったが、彼女の納得するだろう答えなんて持ち合わせていないオレはごまかし気味に笑うしかなかった。


「それは......答えられない、かな?」


「こっちはあんたの命握ってるのよ。ちゃんと答えてもらいますからね」


 彼女は天使もうらやむ笑顔でそう言いながら、帯刀している剣をこれみよがしに見せてきた。

 その笑顔にオレは顔をひきつらせることしかできなかった。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


やはり出てきましたね~ファンタジーの定番。

見る人すべてを骨抜きにする美少女ヒロイン。


そして、出てきませんでしたね~主人公の名前。

ついでに、ヒロインの名前も......。


次話、ようやく彼らの名前が明らかに!?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。

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