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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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22話 譲れぬ想い




 ローガを完全に倒したと思っていたレナは、爆煙の中を注意深く見据える。

 すると、黒い煙の中からゆらりと揺れる影が見えた。


「ちぃっ、しぶといっすね」


 煙の中から姿を現したローガは、ボロボロにやられて、立っているのがやっとという状態だった。

 羽織っていたギザギザのジャケットは、焼き尽くされて跡形もなくなっている。

 履いていた長ズボンは、うまい具合に短パンへと切り刻まれていた。

 

 そして何より目を奪われるのが、彼の腹から胸へかけての傷だろう。

 幾度となく剣で斬られたような鋭い無数の傷と、褐色の肌をより黒く焦がした火傷(やけど)が上半身のすべてに広がっていた。

 どくどくと流れる血を床にぶちまけ、盛大に肩を揺らし何度も嘔吐(えづ)いている。

 それでもローガは、二本の足でしっかりと立っていた。


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、やって、くれる...じゃねぇか。ぜぇはぁ......」


火球(ファイアーボール)


 レナは満身創痍のローガに追い撃ちの一撃を放つ。


「うるぅらああぁっ!」


 ローガは気合いの一声とともに、レナの魔法を片手で薙ぎ払った。


青鬼赤鬼の金剛剣オーガ・デュオ・スパーダ


 ローガの2メートルはあろうかという体躯が白く光りだした。

 モリモリという擬音が聞こえる勢いで、全身の筋肉が発達しだす。

 やがて、ボディビルダーも真っ青な筋骨隆々で褐色肌の巨人が出来上がった。

 

 ローガを(まと)っている白い光が、彼の右腕を鬼が持つ棍棒へと形状を変えていき、そこには肥大化した腕と一体化し、真っ赤に染まった巨大な棍棒があった。

 そして、左手で持っていた剣は再び棍棒へと姿を変え、青い輝きを放っていた。

 

 右手に肥大化した(とげ)付き短棍棒を、左手にはすらりと伸びた(とげ)付き長棍棒を手にしている。

 まさに、赤鬼の巨大な腕と青鬼の細長い腕といった感じだ。


 ブゥンッ。

 

 ローガがレナの視界の先でブレる。

 身の危険を感じ、すぐさま大きく後ろへ飛んだ。

 その直後、レナのいた場所に巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

 ローガは先ほどよりも速く、より強大な力を持ってレナを襲う。

 まさに鬼神のごとき速さとパワーである。

 

「うがああぁぁぁっ!」


 野獣のような野太い雄叫びをあげ、再びレナに向かって一歩踏み込む。

 踏み込まれた床面は大きく陥没(かんぼつ)し、一瞬にしてレナの目の前に現れた。

 

 亜音速にも匹敵する速度を持つ風魔法、【疾風の飛翔(デア・フルーグ)】を(まと)ったレナですら反応するのがやっとだった。

 アッパーカットの要領で突き出された巨大な右腕(棍棒)は、半身を少し横にずらしたレナをかすめていく。

 その風圧で、レナの(まと)っていた風のバリアの役目も果たす【疾風の飛翔(デア・フルーグ)】をぶち壊した。


「うきゃっ!」


 レナは自分の魔法が破られた衝撃で弾き飛ばされる。

 素早く立ち上がりローガを見るが、そこに彼はいなかった。

 慌てて周りを見渡すが、いない。

 不意に殺気を感じて、上を見上げると口によだれを携えたローガが両手を握り、レナめがけて振り下ろしてきていた。


「るぅああああっ!」


大地の防壁(アースウォール)


 とっさに土魔法で壁を作るも、ただの魔法ではローガのパワーに対抗できない。

 【大地の防壁(アースウォール)】はクッキーを叩いたようにボロボロと崩れて、ローガにレナの姿を見せつける。

 

疾風の飛翔(デア・フルーグ)


 一瞬とはいえ出来た隙に、レナは亜音速の風魔法で大きく横に飛び、ローガの攻撃を辛うじて(かわ)す。

 また一つ、巨大なクレーターが出来上がった。

 

 ヤバい、とレナは思う。

 

 まず、レナの亜音速にも達するほどのスピードを上回られた。

 パワーは、先ほどよりも圧倒的に差がついた。

 おそらく、二種属性結合魔法(デュアルコネクト)でも破られてしまうだろう。

 かと言って、三種属性結合魔法(トライデントコネクト)は魔力を使いすぎる。

 当たらなければ、ただ魔力を捨てているようなものだ。

 

「ほんと、聖法気使いは厄介っすね......」


 万事休すのレナはローガとの距離を取り、片手で口元をぬぐう。

 またもローガが視界から消えた。

 

「ぐぅっ」


 でたらめに横っ飛びするも、今度はローガの左手に持った細長い(とげ)付き棍棒がレナの脇腹をとらえる。

 レナの視界がブレ、部屋の壁に向かってジェットコースターのごとく吹っ飛んでいく。

 

 大音量の壁を破壊する音と共に砂塵が舞い上がる。

 ローガはレナを飛ばした先を見据えて、青く光る棍棒を突き出す。

 

 脇腹と背中に強烈な衝撃を受けたレナは、盛大に顔をしかめて何とか立ち上がる。

 砂塵の中から前を見ると、ローガが青く光る棍棒をこちらに向けているではないか。


火土二属性結合魔法(デュアルコネクト)豪炎砂塵壁サンドフレイムウォール


 先程よりも強力な防壁魔法を展開させる。

 全ての物体を焼き尽くし、衝撃波などの実態のないものは強靭な砂の壁が防いでくれる【豪炎砂塵壁サンドフレイムウォール】。


鬼の咆哮(オーガハウル)


 ローガは、レナが咄嗟(とっさ)に出した防壁魔法もお構いなく、棍棒の先から青い衝撃波を放つ。

 

 レナは、まるで大地震が起きたと錯覚するほどの振動を感じた。

 自身の防壁魔法が(きし)むのを目の当たりにして、自分の目を疑う。

 

「でたらめ過ぎっすよ」


 レナのつぶやきは轟音にかき消され、その場を大きく離れる。

 それを逃がすまじと、青い衝撃波がレナを襲う。 

 レナは迫りくる【鬼の咆哮(オーガハウル)】を辛うじてやり過ごしながら、何度目とも知れない衝撃波を(かわ)しながら右手をローガへと向ける。

 

火風二属性結合魔法(デュアルコネクト)新緑の業火(エアロブラスター)


「ふんっ」


 ローガは煩わしいと言わんばかりに、赤くなった巨腕を一振りしてレナの魔法を霧消させる。

 両者肩を上下させながら、互いを真っすぐ見合い静態した。

 

 パワー、スピードなど、全てにおいて上をいくローガは、口元を吊り上げ醜悪な笑みを見せる。

 一方、レナも笑ってはいるが、余裕が全くないひきつった笑みを見せた。

 

 異常な力を持つ肥大化した右腕の攻撃で、近距離は元より、左手に持つ細長く青い棍棒のせいで中距離も効かない。

 その上、【鬼の咆哮(オーガハウル)】で遠距離も封じられた。


「......マズいっすね」


 レナがそうこぼした一瞬のスキをついて、ローガが肉薄する。


「しまっ......」


 完全に初動が遅れたレナの体を、赤く肥大化したローガの右腕(棍棒)が襲う。

 咄嗟(とっさ)に左手で体をかばうのが限界だった。

 

 レナは弾丸ライナーで壁に激突する。

 大きな音と土埃をあげて壁に埋まったレナは、辛うじて意識を保っていた。


「油断したっす」と(かす)む意識の中で後悔するも、後の祭りだ。

 これからはローガの蹂躙が始まるのだろう。

 ゆっくりだが、彼が近づいてくるのが見えた。

 

 ――――......負けた。


「ユウ、エリシア......ごめんなさいっす。......でも、これだけは譲れないっす」


 どんな事をしてでも、ローガ(あいつ)を倒したかった。

 自分に手を貸してくれた彼らに報いたかった。


 レナは、自身の奥底に眠る禁断の力に手を伸ばす。

 やがて、黒いナニカに意識を奪われた。




 ローガは確実に仕留めた手応えを感じ、砂塵に埋もれるレナに向かって歩き出した。


「はぁっはぁっ、ったく、手間取らせやがって」


 そう言いつつも、その顔はこれから行われる見せ物(ショー)を考えるだけで、自然と口元がゆるんでいた。

 先程の攻撃でレナの左腕は、あさっての方向を向いている。

 ローガはぴくりとも動かないレナに向けて、赤い巨腕を振りかざした。


「さぁ、お楽しみの時間だっ!」


 レナの右腕めがけて勢いよく振り下ろしたローガの巨腕は不自然に止まった。


「はぁ!?」


 先程までまったく動かなかったレナは右手を前に出してローガの巨腕を受け止めていた(・・・・・・・)

 さすがのローガも驚いたことだろう。

 今まで一度たりとも防ぎきれなかった自分の渾身の攻撃を、自分よりも遥かに小さな、それも女の子が片腕で(・・・)受け止めていたのだから。


 体から黒い気流が発生し、レナを覆っていく。

 黒のオーラで全身を(まと)ったレナは、垂れ下がっていた顔をむくりとローガに向ける。

 

 ローガは、受け止められた右腕を必死に引きはがそうと試みるも、ビクとも動かない。

 感情が抜け落ちたような目をしたレナに、ローガはうろたえる。


「は、放せっ!」


 そう叫ぶと、ローガの右腕が自由になる。

 何が起こったのが理解が追い付かないローガは、数回のバックステップでレナから距離をとった。

 

 レナは埋もれた体を壁から引き抜き、その場で奇妙な格好で立っている。

 180度首をかしげて、無機質な金の瞳をローガへと向けていた。

 

 いったいどれほど互いに見合っていただろうか。

 その均衡を破ったのは、にぃと口を釣り上げたレナの笑顔だった。

 

 身の危険を感じたローガは、さらにレナとの距離をとる。

 レナは、ゆっくりと右手を掲げた。


黒の衝撃(ブラックインパクト)


「がふっ!......!?」


 突然、体内でものすごい衝撃を受け、ローガは吐血した。

 倒れはしなかったが、お腹を抱えて苦悶の表情を見せる。

 

 口から大量の血を流し(しゃべ)ることもままならないのに、それでも驚きを隠せなかった。

 

「バカなっ!?」


 その魔法はあの方(・・・)の、と心の中で疑問にさいなまれるローガは、再び聖法気を全開で(まと)い直した。

 

 いくら鍛えようが、それはしょせん体の外側しか強化できない。

 人は体の内側を鍛えることはできないのだ。

 しかし、聖法気の使い手は違う。

 強力な聖法気を(まと)うことで、多少は体内を保護することができる。

  

 だが、そんなもの焼け石に水だろう、とローガはレナを注意深く見据える。

 もし、あの小娘があの方と同じ闇魔法(・・・)を使えるなら、と。


 レナは掲げた右腕をそのまま、次の魔法を発動させる。


黒の衝撃(ブラックインパクト)


 ローガは自分の直感を信じ、大きく右へサイドステップを踏み魔法を(かわ)そうとするも、ボンッと左腕のすぐそばで空間がはじけ、衝撃に見舞われる。

 

 体内に多大なダメージを負った状態では、先ほどのような機敏な動きもできず、レナの魔法を避けきれなかったのだ。

 あの魔法は、スピードさえあれば避けることができるのだが。

 

「クソッ」


 ローガはこのダメージさえなければと、悔やむがもう遅い。

 

空間転移(テレポーテーション)


 突然目の前からレナの姿が消える。

 ぞわりと背後に悪寒(おかん)を感じ振り返ると、無機質に笑うレナがローガの背中に手を押し当てていた。


混沌墜落(マインドカオス)


「う、うわあああああああああああぁぁ」


 レナが魔法を発動させると、ローガはよだれを垂れ流しながら叫びだす。

 それから、よたよたと数歩進んで倒れ込み、頭を抱えて何かにおびえたように震えだした。

 

 レナは、そんなローガに向けて【黒の衝撃(ブラックインパクト)】10連撃を放つ。

 ローガの寝そべる地面に一度目の衝撃が走り、ローガの巨体が一瞬ふわりと浮かんだ。

 すかさず浮かび上がったすぐ下の空間に、二撃目を放つ。

 それを繰り返すこと8回、ローガの体は無気力に空中へ投げ出された。

 

空間転移(テレポーテーション)


 レナは瞬時に、ローガの目の前に現れて強烈な蹴りを繰り出す。

 声をあげることなく、ローガは先ほどのレナと入れ替わるように壁に力なく寄りかかっていた。


重力核弾(グラビティコア)


 レナの手元に描かれた魔法陣から、ソフトボール大の黒い球体がローガに向けて放たれる。

 スピードはなく、ゆっくりと進んでいく黒い球体は、地面から瓦礫などを吸い上げて、徐々に大きさを増していく。

 球体がローガの元へ近づくにつれて、ローガの体はじりじりと球体へ引き寄せられていった。

 

 やがて、ローガの体が球体の中へ吸い込まれて、ぐしゃっと嫌な音を立てた。

 それでも【重力核弾(グラビティコア)】は前進をやめず、目の前の壁に大きな穴をあけた。

 

 

 

 ボゴオオオオオオオォォォン!!!

 

 強敵と相対していた彼女は、横からの突然の爆音に目を向ける。

 それは、敵も同じだったようで、激しく繰り広げられていた戦闘が一時、静寂を迎えた。

 

 二人が注目する煙の中から一人の少女が現れた。

 肩まで伸びるウェーブのかかった土まみれの白銀に染まる髪を揺らし、全身をボロボロにした金眼の少女が無機質に笑っている。

 その足元には全身がおかしな方向を向いている――辛うじて人間だと分かる――者が横たわっていた。


「レナ......ちゃん?」


 金髪紅眼少女のつぶやきが、静寂な部屋に音を取り戻した。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


あなたにとっての譲れぬものって何ですか?

僕の譲れないものは......。

「きのこの山」派閥を撃退すること、ですっ!

奴らは知らない間ににょきにょきと出てくるからな。

さぁ、たけのこの里を守るのだ!

この領地を渡してはならぬぞおおおぉぉぉ!!!


次話、ようやくメインヒロインが活躍する.....はず。


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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