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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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20話 トラウマ




 地下水路の分かれ道で、ユウと別れてから、レナはこの巨大な扉の前に到着した。


 当然のように扉の前には見張り番がいる。

 左右に分かれてそれぞれ扉にもたれかかり、暇そうにしていたので、速攻の【火球(ファイアーボール)】2連撃で撃沈させた。


 丸焦げにされて、ぷしゅーという擬音が聞こえてきそうな見張り番たちを置き去りに、レナは巨大な扉を風魔法【真空の衝撃波(エアウィザード)】でぶち壊し、薄暗い巨大な部屋へと足を踏み入れる。

 部屋は暗くて端まで見ることができないが、いる。

 レナを脅かす存在が確かにいる。

 レナは肌でそれを感じ、注意深く闇の奥を凝視する。


 コツコツコツコツ......。


 闇の中から現れたのは、頭に稲妻模様の剃り込みが入った褐色肌の男。

 裸の上から肩の辺りがギザギザに切れたタンクトップのようなジャケットを着ており、そこから見える腕はボディビルダー並みの太さと筋肉で出来ていた。

 そして、エリシアよりも禍々(まがまが)しく光る紅い瞳。


 レナは褐色のムキムキマッチョを見た瞬間、体をプルプルと震わせて黄金に輝く両目をめいっぱい開いた。


「こんなところでまた(・・)逢えるなんて、思ってもみなかったぜ?」


「......っ!」


 彼が言葉を発すると、レナは片腕で自分の体を抱きしめ必死に震えを抑えようと試みる。

 その様子を見たマッチョマンは、体の色とは対照的な真っ白い歯をにんまりと見せた。


「はっはっはっ、そんなに俺が恋しかったのか?」


「......」


「そうだろう? 俺のお仕置き(・・・・)が忘れられなくて、また戻ってきたんだろう? んん?」


「そっ、そんなわけ......ないっす」


 レナはかろうじて抵抗するも、言葉に覇気がない。

 あの男に会うことはわかっていたはずだ、とおびえる自分に言い聞かせる。




 数日前まで受けていた奴隷としての苦い記憶。

 たった2週間という時間だったが、レナにとっては気の遠くなるような時間を暴力と恥辱にまみれて過ごした日々。

 ルミナを助けるという一心で考えないようにしていた記憶。

 しかし、レナに苦痛を与えた張本人が目の前に現れたら、頭ではわかっていても心が思い出してしまう。

 忘れたくても忘れられない記憶。

 

 マッチョマンが一歩、また一歩とレナに近づくにつれて、レナは昔の記憶に引きずり込まれていく。

 片手で抑えていたもう片腕も耐え切れなくなり、両手で全身をかき抱くようになる。

 全身の震えはもう止まらない。

 目は焦点を失い、呼吸が荒くなる。


「あっ......はっ、はっ、がはっ、ゲホゲホッ」


「おいおい、うれしいじゃねぇか。俺を見ただけで興奮してくれるなんてよぉ」


 マッチョマンは両手を広げ、過呼吸になりつつあるレナを見て愉快に微笑む。

 そして、腰から直剣(ブロードソード)を引き抜いて、聖法気を発動させる。


鬼に金棒ストロンゲスト・オーガ


 マッチョマンの体が白く光り、手にしていた直剣(ブロードソード)が、日本昔話に登場する鬼が持っていそうな棍棒へと変化していく。

 野球のバットの形をした鋼鉄製の(とげ)付き棍棒を手に、もう片方の(てのひら)にバシバシと打ち付けながら震えるレナを見下ろした。


「俺はお前がいなくなったと聞いて寂しかったんだぜぇ。もうお前の絶望した顔を見ることができないのかと思うと、悲しくて悲しくてしょうがなかった。だから今度は、逃げる気力もなくなるくらいお前の体に覚えさせてやるからなぁ。このローガ・アームストロングという存在をっ! へっへっへっ」


 ローガは振りかざした棍棒を動かないレナへと叩きつける。


「うぐっ」


 ゴスッという鈍い音を鳴らし、ツーっと頭から血を流すレナはその場に勢いよく倒れた。

 聖法気を(まと)ったローガは、常人の何倍もの威力のある蹴りを間髪入れずにレナにお見舞いする。


「がぁっ」


 十メートルほど飛ばされて横たわるレナは吐血する。

 そこまで痛めつけられても、レナの震えは止まらなかった。

 ローガは醜悪な笑みを浮かべながら、カツカツと足音を鳴らしてレナに向かって歩いて行く。


 レナは戦わなきゃと手に力を入れようとするも、ブルブル震えた手は言う事を聞いてくれない。

 震えた足は床に縫い付けられたまま動こうとしない。


「はっはっはっ、まだそんな表情(かお)を見せる元気があるのか。ほら、もっと苦しんだ表情(かお)を見せろよっ! おら、おらおらおら」


「っ、っ、っ、げはっ」


 ローガは、レナをまるでサンドバッグのように、殴る蹴る叩きつけるを繰り返す。

 攻撃を体に受けるたびに、奴隷だったころの記憶がどんどん(よみがえ)ってくる。

 もう何度目とも知れないローガの攻撃を食らったレナは、またしても数十メートル蹴飛ばされた。

 

 レナの体からは、至るところから悲鳴が聞こえてくる。

 このままここでやられてしまうのか、と諦めかけたその時。

 

 ズウウゥゥゥゥン!!!

 

 どこからか、とてつもない爆音と揺れを感じた。

 横たわるレナはボロボロの顔をあげると、ローガは明後日の方向を向いてニヤリと笑みを浮かべている。


「あっちも派手にやってんなぁ」


 ローガのその言葉でレナの眼に力が戻った。

 

 この戦いに彼ら(・・)を巻き込んだのは、レナ自身だ、と。

 レナのわがままと力の無さが招いたことなのだ、と。

 見ず知らずのレナに優しくしてくれたエリシアとユウ(彼ら)を見捨てて何を諦めているんだ、と。

 レナは、おびえる心に喝を入れる。

 

 今まで全く力が入らなかった体がピクリと動き出す。

 手に足に、もそもそと全身を動かして、遂にレナは立ち上がった。


「あんっ!?」


 レナの突然の行動に動揺を隠せないローガは、怪訝(けげん)な眼差しを向ける。


 レナは、ユウにもらったフーデッドローブの中にある聖天反射鏡(ミラーフォース)を優しく握る。

『戦闘になったらオレは役に立たない』と言った彼の無理して作った笑顔を思い出す。

 足手まといになるのを嫌い、自分にできる事を精一杯やろうと、最も非力な彼は今も懸命に走っているだろう。

 ただの人間の彼よりも力のある自分が、こんなところでやられるわけにはいかない。


 いつの間にか、レナの体から震えが消えていた。


「......っす」


「あぁん?」


「もう、お前なんて怖くないっすッ!」


 レナは真っすぐにローガを見据えて戦闘態勢に入る。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


あなたにとってのトラウマって何ですか?

僕のトラウマは犬です。

そう、ワンちゃん。

5歳のころ、放し飼いにされているドーベルマンに全力で追い回されて、死ぬほど怖い思いをしました。

競輪選手なんてめじゃないくらいの猛スピードで逃げ回りました。

もし、あの時自転車に乗っていなかったら、と思うと......ガクガクブルブル。


次話、トラウマを乗り越えたレナとローガの激しい戦いが、今、幕を開けるッ!


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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