17話 動物園
先ほどまでとは違い、一人で歩くとなると、この地下水路は何か薄気味悪い感じがする。
しかし、自分で言い出した手前「やっぱり怖いから一緒に行こう」などと言えるはずもなく、重たい足取りで水路を進む。
「分かれ道に出くわしたら右。分かれ道に出くわしたら右。分かれ道に出くわしたら右......」
オレは不安を払しょくするように、レナと別行動をする際に決めたことをぶつぶつと言いながら地下水路を歩いていたら、遂に出くわしてしまった。
「分かれ道......」
あるとは思っていたが、実際にその場に立ってみると、本当に右に進んでいいのだろうかという思いがこみ上げてくる。
しかし、レナと決めたことだし、道が違えば戻って来ればいいだけだと自分に言い聞かせて右へと続く水路を歩き出す。
薄暗い灯りしかなく同じ景色ばかり続くので、時間感覚がマヒしているみたいだ。
いったいどれほど歩くのだろうかと思いながら曲がり角を曲がると、1つの扉を見つけた。
1人の見張り付き、というおまけで。
見たところレナが苦戦していた鎧姿の奴ではなく、ただの見張り番のようだ。
それでもしっかりと帯剣はしている。
地下水路はあそこにある部屋で行き止まりになっており、流れる水は壁の下に設置された鉄格子の向こう側へと続いている。
できるだけ戦闘を避けたいオレとしては、回れ右をしてこの場を後にしたい。
しかし、ここで見つけた部屋は、オレが来た道での最初で最後の部屋だ。
もしかしたら、あの部屋の中にルミナがいるかもしれない。
そう思うと、あの部屋の中を確認したい衝動に駆られる。
幸い敵も1人と少ない。
ケンカすらした記憶もほとんどないが、相手が1人ならオレにもやりようはある。
「よしっ!」
曲がり角の壁にもたれかかりながら、手を握り小さく喝を入れる。
そして、オレはその場で大きな足音を立てて、敵の見える位置に姿を見せた。
「なっ!」
突然、姿を現したオレに驚きを隠せない敵は、慌てて腰にある剣を引き抜いてこちらに向かってくる。
敵とばっちり目が合ったオレは、ヤバいという顔をして元来た道を引き返した。
もちろん、そんな顔は演技で、敵の見えない曲がり角を曲がったところで、大きく鳴らしていた足音をだんだん小さくする。
壁を背に息をひそめて、これからやろうとしていることを頭の中で反芻する。
敵のドスドスと走ってくる足音が大きくなってきた。
ゴクリと喉を鳴らし、右手で握ったこの作戦の切り札に自然と力が入る。
敵が曲がり角に差し掛かろうとして、走るスピードが少しゆっくりになる足音を耳をすませて聴き取る。
(今っ!)
待ち伏せていた曲がり角から勢いよく飛び出したオレは、右手で持った水晶玉――聖天反射鏡――を敵の顔にめがけて突き出した。
逃げたはずのヤツが、突然目の前に現れたことで、敵の顔が驚愕に染まる。
彼我の距離はおよそ3メートル。
敵は走っていた勢いを殺せず、オレの突き出した聖天反射鏡を頭に食らう。
ゴスッという鈍い音と共に、敵は白目をむいて倒れ込んだ。
倒れた敵を覗き見るが、完全に気絶しているようでピクリとも動かない。
とりあえず危機は脱したみたいだが、心臓はまだ激しく鼓動していた。
「ふぅ......よしっ!」
異世界に来て初めての戦闘、初めての勝利。
つかの間の勝利の余韻に浸るオレは、勝者の特権を発動させた。
RPGなどのゲームでよくある光景がそこに広がっていた。
オレは倒した敵の懐をガサゴソとあさってる。
もちろん金銭目当てではない。
何か使えそうなものはないかと、触りたくもない男の体をすりすりしているのだ。
(できる事なら、おそらくはカギが掛かっているであろうあの部屋の鍵とかが見つかるといいんだけど......)
ガサゴソガサゴソガサゴソ。
「......おっ! ユウは聖天反射鏡を手に入れた♪」
いかにもRPGに出てきそうなナレーションを付けて、聖天反射鏡を服の中にしまい込む。
そこで、ふとある事に気づいてしまった。
(ゲームでは倒した敵は消滅するけど、こいつはいつまでここで寝てるんだ?)
ここはオレにとっては異世界ではあるが、現実でもある。
この見張りはただ気絶しているだけなので、いつ復活してオレに襲い掛かってくるかわかったもんじゃない。
そう思うと、このままここに寝かしておくというのはヤバい気がしてきた。
「これは決して好きでやってるんじゃないからな。身を守るために仕方なく、だからな。うん」
どこかで見たツンデレ子が言いそうなテンプレを言いながら、自分の行為を正当化していた。
今、オレの目の前に広がる光景は、ちょっとしたショッキング映像だ。
パンツ以外のものはすべて取り払われた、ほぼ全裸の男が白目をむいて横たわっている。
男が着ていたものは全て水路に流し、凶器となる剣やその他使えそうなものはすべて回収させてもらった。
見張りに勝った戦利品は、ブロードソード、剣帯ベルト、麻のジャケット(ポケット付き)。
そして何よりもの成果は、ざっと見ただけでも10以上はあるカギ束。
「ははっ、これで少しは勇者っぽくなったかな?」
さっきまでのズボンにインしたダサい姿ではなく、敵から拝借したジャケットと剣帯ベルト。
そして、初めて手にする刃渡り70センチはあろうかというブロードソードを腰に差して。
問題の聖天反射鏡をジャケットにしまい込んだ、RPG初期でよく見るレベル1の駆け出し冒険者のような格好になった。
まぁ、TシャツにGパンはご愛嬌ということで。
オレは敵から奪ったカギ束を何度も部屋のカギ穴に差し込み、ようやく目的の部屋に足を踏み入れた。
強烈なアンモニア臭が鼻を襲い、顔をしかめて手で顔を覆う。
地下水路よりもさらに薄暗く、いたるところに並べられた鉄製の檻。
まるで、地下の動物園を連想させるその光景にオレは目を疑った。
檻に入っているのは動物ではなく人間、だった。
突然の侵入に驚きもせず、無数の虚ろな瞳をこちらに向けてくるだけである。
彼らの瞳はすべて鷹の眼と同じ金色をしていたが、鷹のように鋭い意志のこもったものではなく、ただただ、生を諦めた眼をしていた。
数多くある檻の一つに目を向けると、思わず目を逸らしたくなるものだった。
オレの語彙力では、表現しきれないほど悲惨なものだ。
その魔族は、動物と同じように服を着ていなかった。
体中は殴られたような赤と青のアザだらけで、片目はおかしなくらい膨れ上がっている。
そして、傷だらけの腕と足にはジャラジャラと音のする錠がはめられていた。
錠の一部がキラリと光り、そこに目を向けると、小さくなった水晶玉がはめ込まれている。
「聖天反射鏡......」
おそらくだが、魔法を使おうとすれば、錠に埋まっている聖天反射鏡が、魔法を跳ね返す仕組みになっているのだろう。
確かにこんなものをつけられてしまえば、どんなに力のある魔族でもなす術はないだろう。
レナが聖天反射鏡をぶっ壊した【惨劇の爆裂風】魔法なら壊せるかもしれないが、自分自身も無事じゃすまない。
(何て卑劣な魔道具なんだっ!)
オレは歯噛みをして、勢いよくその檻に近づき施錠を外そうと試みた。
男はオレが近づくとおびえたように体を震わせるが、いつもと違うと感じたのか、不思議そうな目でオレを見てくる。
「大丈夫です。今、助けますから」
オレよりも10以上の歳が離れているであろう青年に向かって、必死に笑みを浮かべる。
ガチャガチャとすること数回、ようやく檻のカギを外すことができた。
そして、青年の手錠も檻のカギと連動していたようで、すぐに外すことができた。
「あっ、えっ!?」
青年は、自分の自由になった腕を眺めること数秒「これはどういうことだ?」といった表情でオレを見てくる。
突然助けられたことによる戸惑いの眼差しを一身に受けるオレは、どうしていいのかわからず、もう一度青年に向かってはっきりと言った。
「助けに、来ました」
「......あ...あいが、あいがとうございあす。あいがどうございばず。あいがどうござい......す」
青年はオレの手を両手でしっかりと握って、何度も何度も額をオレの手に当てて涙を流す。
青年の手はオレなんかよりも細く、力もほとんど入っていなかった。
頬は痩せこけて、髪はぼさぼさ、眼を逸らしたくなるような傷が無数にみられる魔族の青年からの感謝を、オレはどう受け止めていいのかわからず、ただ彼の手を強く握り返すことしかできなかった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
ユウは盗人じゃないから、決して盗人じゃないですからねっ!
異世界では通用する勇者の特権。
しかし、どんな理由があれ、この世界では人から勝手にものを拝借するのは窃盗罪という犯罪なのです。
そこのあなた、友達から借りたゲームは早く返そうね。
そして、僕が中学の頃に貸した任〇堂64、大〇闘スマッシュブラザーズはいつ返ってくるのか...?
次話、ユウがハーレムに遭遇する!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




