1話 いざ、ファンタジー世界へ!
オンラインゲームは最高だ。
相手の顔は見えないが、そこには確かに絆というものが存在する。
モンスターが地に伏せ「QUEST CLEAR」と表示されているモニターを眺めながら、オレは勝利の余韻に浸る。
6畳1間、23インチワイドゲーミングモニター3台を目の前にワーキングチェアに座り、ヘッドホンを装着して仮想世界に没頭する。
平日の昼間とは思えないほど部屋の中は薄暗い。
ゲームに集中するために全てのカーテンを締め切り、明かりは目の前のモニターに映る光だけというヒキコモリ特有の部屋。
平日の真昼間、世間では社会人は会社で仕事をし、学生は学校で勉強をしている時間帯だろう。
しかし、オレは。
「次はこのクエストをやるか!」
世間一般の人たちとは、かけ離れた生活を送っていた。
日がな一日部屋に引きこもってゲーム三昧。
ゲームに飽きたら寝る。
お腹が空いたらカップ麺やカロリーメ◯トをつまみつつゲームをやる。
ネットが発達した現代では、クリック一つですべてのことが片付く。
食べるものから着るものまで、ワンクリックで全て届けてくれる時代だ。
世間では怠惰な生活を送っているとみなされるかもしれない。
オレだってそう思う時もある。
しかし、オレはみんなと同じような生活をすることが出来ない。
だってオレは、世間に受け入れられない存在だから。
他の人達とは違うから。
この眼のせいで。
そして、NOWLOADING......と、右下に点滅する真っ黒な画面に映る自分と目が合う。
鬱陶しからハサミを入れただけというボサボサの髪に、典型的なヒキコモリを思わせるGパンにTシャツ。
そして何より目を引くのがこの眼だ。
左は日本人では一般的である黒眼。
右は猛禽類を連想させる金眼。
俗に言う、オッドアイというやつだ。
この眼は生まれついてのものというわけではなく、中学三年生の夏休みが明けた9月。
15歳になる誕生日を迎えたその日に突然発現したものだ。
これまで普通に学校へと通っていたが、この眼のせいで無視や排斥といったいじめにあってきた。
毎日が苦痛だった。
机の落書きから上靴に画びょうまで、いじめと聞いて思いつく限りのいじめを受けてきた。
それまで友だちと思っていたやつらまで、オレを化物を見るかのような視線を向けてくる。
そんなオレが人間不信に陥るのに時間はかからなかった。
気づけば部屋から出られなくなっていたのである。
両親はオレの誕生日の前日に海外への長期出張とかで、もう1年近く帰ってきていない。
仕事がうまくいっているのか、毎月オレが生活するのに困らない程度の仕送りがある。
そのお金をすべてゲームにつぎ込んでいるのは言うまでもない。
そして今クリアしたゲーム画面に一通のメッセージが届く。
『――拝啓、魔王様
我々は今危機に瀕しております。どうか我々をお助けください。
魔王様のご帰還、お待ちしております。
敬具――』
ポロン♪
少し意味の分からない文面に訝しんでいたオレの元へ、もう一通メッセージが届く。
『こちらがゲートになります。』
そう言って、見たこともないURLが送られてきた。
URLの末尾に「.jp」などの国を表すものもない。
つまり、特定のページスクリプトへのURL。
「何かのウイルスか、それともただのイタズラか......?」
一年以上もヒキコモリゲーマーをやっていれば、ゲームもそれなりにうまくなっているわけで。
こういったパーティー招待系のメッセージは結構届くことがある。
冷やかしや暴言などのメッセージも多数もらうこともしばしばあるので、こういった不可解なものは極力無視するように心がけている。
今回も無視しようと、カーソルをバツボタンに合わせようとした時、大きな地震が起きて手元が狂ってしまう。
間違ってURLをクリックしてしまった。
「......あっ!」
――刹那。
先程の地震が大きくなり、部屋全体を揺らし始めた。
家が軋む音、パソコンデスクがガタガタとなる音。
「や、やばいっ!?」
何が起きているのかわからず、周囲を見渡すオレは、ある一点に目を釘付けにされた。
これだけ揺れているにもかかわらず、ゲーミングモニターだけは、一切動かず静止したままだった。
モニターに映し出されていたのは――。
門、なのか?
フランスの凱旋門を彷彿させる門が、画面いっぱいに表示されていた。
『お待ちしておりました。魔王様』
今度はメッセージではなく頭のなかに直接話しかけられているような『音声』が返ってきた。
その声を聞き取ったオレの体は画面に――門に引き寄せられていく。
「なっ!?」
抵抗する間もなく吸い込まれていく。
画面の中へ――。
――――――――。
始めに感じたのは、森の木々たちの清々しい香り。
そして、久しく感じていなかった眩しい光に照らされて、目を開くとそこは――森だった。
「~~~~~~~~ッ!?」
これでもかというほど、両目ががん開きになった。
それはそうだろう、地震が起きたと思ったら画面に引きずり込まれる錯覚を見て、目を覚ますとそこは森でした。
どこぞの異世界召喚モノの小説だよってはな......し。
えっ?
何これ?
まさか、そういう展開なのか?
RPGゲームで鍛えに鍛えられたオレの脳は、自分の置かれたこの異常な状況に順応しつつあった。
「ははっ、だてにヒキコモリやってないぜ。とりあえずこういう時は持ち物の確認が最優先だったよな」
そう言ってオレは自分の持ち物を確認することにした。
出てきたものは――。
ソーラー充電器に接続されたスマートフォン、ただ一つ。
当然、県外表示されている。
「詰んだかも......いや、太陽(?)のようなものもあるし、もしかしたら電波が届かないだけで日本のどこかかもしれないし」
ぶつぶつと独り言を一通り言ってみたが、ここに居ても仕方ないのでとりあえず歩くことにした。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
どうですか?
楽しんでいただけてるでしょうか?
「えっ? まだ序盤じゃん」そうですね。
まだ主人公の名前すら出てきていないですからね。
次話、主人公の名前は出てくるのでしょうか?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。