7話 レナの過去
オレは、エリシアのレナに対する態度に怒っていた。
「おい、エリシア! さっきから聞いてるけど、ちょっとばかしレナにひどくねぇか?」
「私は聖剣姫として彼女に聞いておかなければいけないことがあるの。邪魔しないでくれる?」
「どういうことだよ」
「はぁ、いいわ、話してあげる。あなた達になら話しても問題なさそうだしね」
エリシアはそう言って剣から手を離し、自分がこの街に来た理由について語り始めた。
エリシアの話を要約すると、人間領であるドルベルの街に魔族が秘密裏に集結している、という噂の真相を確かめるためにこの街に来たのだそうだ。
そして、レナという魔族の少女に出会って、噂は現実味を帯びてきたが、エリシアの中では、どうやらレナは集結している魔族とはあまり関係ないように思っているとのこと。
だから、レナがこの街に来た理由を知りたいのだそうだ。
魔族が人間を奴隷にすることはあったとしても、人間が魔族を奴隷にするということは聞いたことがないらしい。
魔族は、魔力という強力な力で人間に恐怖を与えることができるが、人間は魔族を奴隷にするほどの力を持っていない。
魔族に対抗する力、聖法気を使える人間はごく一部で、そのほとんどが騎士団に所属しているそうだ。
エリシアにとって今回の話は異例の事態なのだ。
「だからって、レナにきつく当たり過ぎだ。レナだって話せばちゃんとわかってくれるはずさ。だよな?」
「......」
「...レナ?」
うつむいたまま返事のないレナに、オレは少し気遣うように呼びかける。
すると、レナはとびっきりの笑顔で答えてくれた。
「ごめんなさいっす。例えちゃんと話してくれたとしてもレナは答えないっす」
「えっ!?」
レナの回答に驚きを隠せないオレとは対照的に、エリシアは当然でしょ? という顔をしていた。
そのエリシアが続ける。
「ユウが思ってるよりも、人間と魔族の溝は深いのよ」
「そんな......」
「でも...」
そんな2人の会話を遮ってレナが声を上げる。
「レナはユウに救われたっす。だから、今回だけは特別っす。今回だけっすよ」
頬を赤く染めながらそっぽを向いているが、人間に歩み寄ろうとしてくれるレナに「なんだ、やっぱいいやつじゃん」と心の中でつぶやきながら笑顔でお礼を言った。
しばらくして、レナはオレたちに、レナが人間領へ来た経緯を語り始めた。
「まず、なぜレナが人間領にいるのかって話からするっす」
何を思い出しているのか、レナは唇を噛み締め、目を伏せがちにする。
「......友達を、助けるためっす」
「友達?」
「そうっす。レナの唯一の親友っす」
少し涙を浮かべて、レナは力強く頷く。
「彼女はルミナって言うっす。ルミナは、孤独だったレナに優しく声をかけてくれた大切な人っす。」
友達の事を思い浮かべているのか、レナは優しい笑顔で続ける。
■■■
人間領との国境付近だったため、レナが住んでる村の近くが、戦場になる事は珍しくなかった。
レナの両親は、傷ついた魔族をよく介抱してた。
優しかった両親は、人間にも傷の手当てをしてたのだ。
そんな魔族にも人間にも分け隔てなく接する両親は、魔族の村では当然孤立する。
その子供であるレナも、魔族の裏切り者として周りから白い目で見られてた。
そんな境遇のレナに、領主の一人娘であるルミナは声をかけてきた。
「ねぇ、あなた、いつも1人でいますわよね? 私と一緒に遊びませんこと?」
「遊ばねぇっす。おまえみたいなお嬢様とは遊びたくねぇっす」
「そんな事言わずに、ほら、遊びますわよ」
「なっ!?」
ルミナは、レナの事なんかお構いなしに、強引に手を引っ張って行く。
連れられた先は、この戦争の時代には似つかわしくない、色鮮やかな花たちが咲き誇る幻想的なところだった。
「ここは......」
「ふふっ、ここは私が見つけた秘密の場所ですわ。キレイでしょ?」
ルミナは得意げな顔をしてレナに笑いかける。
そんなルミナの行動に、レナはどうしていいかわからなかった。
村のみんながレナを見る目とは明らかに違う、色の灯った目でレナをまっすぐ見る。
両親以外にはじめて向けられるその目に、レナは気づけば尋ねていた。
「レナと一緒にいると、おまえまで裏切り者扱いされるっすよ」
「かも、しれませんわね♪」
「何が面白いんっすか! お前はお嬢様っす、領主様の一人娘っす。そんな人がレナみたいなのと一緒にいると...」
「うるさいですわよ! 私が一緒にいたいと言っているんです。他の人達なんて関係ないですわ」
ルミナはすごい真剣な顔でレナの言葉を遮って、いかにもお嬢様らしいが、魔族のお嬢様らしくないわがままを言ってきた。
レナは、その言葉を耳にすると、目をいっぱいに開いて、気づけば笑っていた。
つられてルミナも笑いだした。
「私はね、あなたのご両親の行動に感銘を受けましたの」
「えっ?」
「私は「人間は凶悪な敵だ」と教えられて育ってきましたわ。でも、実際に人間を見たことがない私は信じることができませんでしたの。そんな時に、アタナのご両親の噂を聞きましたわ。人間に手を貸す魔族の裏切り者がいると...居ても立ってもいられなかった私は屋敷を抜け出してあなたのご両親を見に行きましたの」
衝撃の事実を知らされたレナは、開いた口が塞がらなかった。
ルミナはあらそうなの? と言った感じで笑っていた。
「そうだったんっすね。全然気づかなかったっす」
「ふふっ、あなたのご両親は気づいていましたわよ?」
「まじっすか!?」
「ええ、草むらに隠れてる私に笑いかけてくれましたわ。完璧に隠れてるつもりでしたのに、あなたのご両親は相当腕が立つようですわね。そして、あなたも...」
「な、何言ってるっすか!? レナは全然強くないっす」
「ふふっ、まぁいいですわ。そこでご両親と一緒になって人間を介抱するあなたを見ましたの。本来敵であるはずの傷ついた人間を懸命に世話をするあなた達に、始めは警戒していた人間も次第に笑うようになって。私はそこに何か希望が見えた気がしたんですの」
「希望っすか?」
「ええ、魔族と人間は争う必要なんてないんじゃないのかしら? お互い手と手を取り合って平和な世界にできるんじゃないのかしら? ってね♪ ほら、魔族も人間も同じじゃない。ただ、魔力が使えるか聖法気が使えるかの違いだけでしょ?」
■■■
「本当に驚いたっす。ルミナが言った言葉はいつも両親が言ってたことと同じだったっすから」
『魔族と人間は話し合えばわかりあえる。魔力を使えるだけで私たちは、人間と何も変わりないのよ』
そう言ってレナは話を続けた。
■■■
「それに」とルミナは、とびっきりの笑顔でレナに言葉を続けた。
「あなたは自分のことより、他人の心配をするような優しい子ですわ。私はあなたと友達になりたいですの」
「そんなことないっす。レナは魔族の裏切り者って言われてるのは知ってるっすよね。実際、敵である人間に...」
「レナ! あなたのその自分を陥れるような言い草は許しませんわ。私が友達と認めたんですのよ。それでは、私まで陥れられてるみたいじゃありませんの」
「うぐっ」
「レナは優しいんですの。何より私が言うんだから間違いないですわ」
「何っすかそれ...ははっ、あははははは」
それからレナたちは、毎日遊ぶようになった。
時には、戦争で傷ついた魔族や人間を一緒になって介抱したことも。
毎日が楽しかった。
村のみんなは「領主様の一人娘をたぶらかした」などと言われたが、レナはルミナがいるだけでよかった。
ルミナも村のみんなの言う事など全く気にしなかった。
その上、ルミナは領主様である父に「人間とわかり合えないのか?」と何度も訴えたほどだ。
ルミナと知り合って数年が経ったあの日、レナの全てが変わってしまった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
あなたは親友と呼べる友はいますか?
僕はリアルでは友と呼べる存在すらいません(泣)
アドレス帳に登録されているのは母と嫁と娘。
あとは、学校や業者、仕事関係の人だけです......。
ファンタジーにお嬢様キャラは必須ですよね!(メガネくいっ)
回想での登場なので身体的特徴については一切言及してませんが、今後のお楽しみにしていただければなぁと。
次話、レナの新事実が明らかになる!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




