6話 ユウは死刑判決!?
エリシアは震えていた。
それはもう、見たこともないほどプルプルしていた。
もちろん恐怖で震えているのではないだろう。
「私がどれだけ心配したと思って......」
まず、今の状況を整理してみよう。
わんわんと泣きわめく半裸の小学生くらいの女の子に、ハァハァと吐息を漏らして押し倒しているオレ。
女の子は「ごめんなさい、ごめんなさい」と連呼し、肌が見えている所々には暴行を受けた跡がある。
さて、今の状況を第三者のエリシアが見るとどう映るだろうか。
変態、幼女性的嗜好、暴行と三拍子そろった逮捕、起訴、有罪判決の一本ルート確定である。
エリシアの表情の変化から、瞬時に今の状況を分析したオレは。
「ちょ、待っ...違う、違うん......」
「こんの、変態いいいいいいい!」
顔を真っ赤にしたエリシアの足から繰り出される強烈な一撃が、オレの頬を打ち抜き部屋の壁へと飛ばした。
「ほんと意味わかんないですけど、あんなに心配してた私がバカみたいじゃない。ああもう、こんなことならあの時斬っておけばよかったわ。...そうよ、今からでも遅くないわね。うふふふっ♪」
「なっ、なんで騎士団がここにいるっすか!? レナの張った結界魔法は...って、聖剣姫じゃないっすか! わあああああああ、ユウが、ユウがあああ」
エリシアは半ば半狂乱に騒ぎたて、魔族の女の子にも気づかずに若干覚醒していた。
一方、レナはレナで、突然の騎士団の登場でかなりパニックになっていている。
ただでさえ疲弊しているのに、そんな蹴りをくらったら......。
オレはあられもない姿で壁に寄りかかり、180度反転した景色の先で、騒ぎ散らすエリシアと、突然の出来事にオロオロするレナの姿を最後に「カオスだ」とつぶやいて意識を手放した。
「んんっ」
あぁ、何だかおでこの辺りがひんやりするな。
「待ってくださいっす」
「あなたは黙ってなさい」
「レナが、レナが悪いんっす」
「でも、こいつは」
遠くの方で聞き覚えのある声が、何か言い争ってる。
人がせっかく気持ちよく寝てるというのに、まったく騒がしいな。
オレは目を開けて声のする方を見ると、今にも剣を振り下ろそうとしているエリシアをレナが必死に止めていた。
「ぬわあああああ」
一瞬にして飛び起きた。
おでこに乗せられていたタオルがボトっと床に落ちて、恐怖で顔を引きつらせる。
お、思い出した。
オレは盛大に勘違いされているんだった。
どう弁解すればいいのか。
「ち、違うんだ。エリシア、聞いてくれ」
「へえー、何が違うのかしら?」
「それは......」
エリシアは、まるでゴミを見るかのような目でオレを見て問いただす。
しかし、オレは言葉につまった。
本当の事を話すという事は、レナが奴隷だったという事も話さなければならない。
奴隷という過去は、本来、他人においそれと話していいものではないと思う。
一瞬レナの方を見ると彼女は、エリシアが今にも斬りかからないかハラハラしている。
レナは、オレの真意に気づいてないみたいだ。
変なところで気がまわるオレは、助かる道を閉ざしてしまったようだ。
「ふーん、説明出来ないのね」
「いや、そういう訳じゃなくて...」
「レナが、レナが悪いんっす」
エリシアは剣を大上段に構え、振り下ろす勢いで迫ってくる。
それでも、言葉を濁すオレを庇うようにレナが割って入る。
「どういう事かしら?」
やっと話を聞いてくれると、ほっとした様子のレナは事のあらましを話しはじめる。
人間に追われていたレナをオレが助けてくれた事。
人間の奴隷だったレナが人間だと思っていたオレに復讐した事。
それをオレが救ってくれた事。
「だから、悪いのはレナっす。レナが聖剣姫様のお連れ様にヒドイことをしただけっす。ユウは何も悪くないっす」
レナは目に涙を浮かべてエリシアに訴える。
自分が奴隷だったことも、エリシアの連れであるオレをタコ殴りにしたことも包み隠さず話して、オレを庇おうとしてくれている。
そんなレナの姿にオレは、心からうれしく思った。
「レナ...ありがとう。やっぱりキミは優しい子だな」
「えっ、や、優しいだなんて。いや、レ、レナはただユ、ユゥが傷つくのを見たくないだけっす」
レナは顔を赤くさせ首をブンブンと横に振りゴニョゴニョと何か言っていた。
「ん? なんて言いたの?」
「な、なんでもないっす」
プイッとそっぽを向いてしまったレナに首を傾げていると、エリシアが盛大にため息をついた。
「はあぁ、これじゃあ、私が悪者みたいじゃないの」
エリシアは何かつぶやいて、オレに向けていた剣を納めて言った。
「それで? この魔族の子は、本当にさっき知り合ったばかりなの?」
「ああ、さっきレナも言ったけど、いかにも悪者ですって顔のヤツらに追われてたのを一緒にやり過ごしたんだよ」
「まぁ、一応は信じてあげるわ」
「何だよ、煮え切らないな」
エリシアの言動に不満をもらすオレは、何だ? 信じてないのか? という視線を送る。
すると、エリシアはレナの方を向いて目を閉じた。
オレも習ってレナに目を向けるが、突然2人から注目されたレナは「なっ、なんっすか?」と慌てている。
一拍おいてエリシアはレナに問う。
「レナちゃん、でよかったかしら?」
「なっ、なんっすか?」
「あなた、本当に人間の奴隷だったのかしら?」
「えっ!? どう、いう、ことっすか......」
「おい、エリシア!」
突拍子もない事を言い出したエリシアに困惑するレナを見てオレは、思わず声を上げてしまった。
しかし、そんなレナやオレのことなど気にする様子もなく、エリシアは続ける。
「気を悪くしたらごめんなさい。でも、あなたは相当強いはず、よほどの相手でない限りあなたは人間になんて捕まったりしないわ」
「......」
「どういうことだ?」
「聖法気の使い手は、大なり小なり相手の魔力を探知できるの。私がユウとはじめて会った時、あなたの言ったことを信じたのもこの力があったからなの」
「へ?」
「片方ではあるけど金の瞳を持っていたわ。でも、ユウからは魔力を一切感知できなかったの」
「? つまり、どういうことだってばよ?」
「ユウは魔力が一切ないの。だから、魔族ではないと判断したのよ」
「そうなんだー(棒)」
異世界召喚をしたからには、何かしらの魔法とか使えるかもと淡い期待を抱いていたオレに、エリシアは淡々とオレの期待を根底からぶっ壊す事実を突きつけてきた。
魔法、使ってみたかったなぁ。
オレは遠い目をして応えることしかできなかった。
そんなオレの思いを知る由もないエリシアは続ける。
「でも、この子、レナちゃんには騎士団の師団長クラスの魔力があるわ」
「はあ...(師団長って強いのか?)」
「さっきユウが言っていた人相の悪い男達という人達に会ったわ。全身やけどしてる人と他2人に」
「そうなのか!? あぁ、確かレナが1人丸焼きにしてたな」
「やっぱり。あの男達からは聖法気を感じなかったから、この子が追われるというのはおかしいのよ」
「? でも実際は追いかけられてたぞ?」
エリシアはきっと事実を言っているのだろう。
でも、レナが嘘を言っているとも思えない。
どういうことか分からなくなったオレは、さっきから黙っているレナに視線を送る。
そんなレナの様子を見たエリシアがため息をついた。
「レナちゃん、私が騎士団だってことは知ってるわよね? 騎士団がどういう集団なのかも知ってるわね?」
「知ってるっす。魔族を殺すヤツらっす」
「なっ!」
紅眼を細めて脅すように尋ねるエリシアに、レナは臆する事なくその金眼をまっすぐ向ける。
オレはレナの回答に動揺してしまう。
「私も鬼じゃないわ。魔族だからって誰でも殺したりはしない。だから、あなたに起こったことを話してもらえるかしら?」
エリシアの言葉は言外に「言わなきゃ殺すぞ」と言っているのだろうか。
ピリピリとした空気が流れる。
下を向くレナに対してエリシアは、腰に納めた剣に手をかざす。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
ずっと書いてみたかったハプニングシーン。
クスッとしていただけたら幸いです。
僕のハプニングとしては顔もわからず付き合った彼女と結婚してしまったことでしょうか。
甘い恋愛というものを経験してみたいものです(切実)
次話、レナの正体が明らかに!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




