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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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4話 おまえは何者っすか?




 レナは、指一本さえも動かせないオレに近づいて忠告をする。


「人間がホイホイと魔族に付いてっちゃダメっすよ」


「...な、に......を...」


「ちゃんと生きてるっすね、薬の調節するの大変だったんっすよ?」


「な、んで...?」


 レナはまるでゴミ虫を見るかのような眼で見下ろし、オレのお腹に全力の蹴りをいれる。


「がぁはっ」


「なんで? ふんっ、お前たち人間が私にやってきた事のお返しっす、よっ!」


 質問に答えながら再度、お腹に蹴りをいれる。


「ぐはっ」


 体格差があっても、全く鍛えていないオレには相当応える蹴りだ。

 それからレナは、まるで人間を目の敵にするかのように何度も何度もオレを蹴り倒す。


「このっ、このっ、このっ、クソ人間がっ、クソックソッ」


「――ッ、ッ、ッ」


 ひとしきり蹴り倒したレナは、盛大に肩で息をしながらポツポツと語り始める。


「自分がなんでこんなことされるのかって顔っすね」


「......」


「レナは......人間の奴隷だったっす」


「......!」


 そう言うと、レナは着ている服を脱ぎ始めた。


「おっ、おい......」


 盛られた薬と蹴られた痛みで視界が少し霞むが、彼女の(さら)された絹のように白い肌には、似つかわしくないアザが無数にあるのがわかった。


「たった数週間でしたけど、レナは虫けら以下の扱いを受けてきたっす。毎日のように振るわれる暴力、抵抗しようものなら、もっとひどい暴力が待ってるっす。こんなふうに、っす!」


「――ツッ!」


 もう何度目ともしれないレナの蹴りをくらう。

 しかし、一度決壊してしまったレナは、もう止まらない。

 彼女が理不尽に受けた侮辱、恥辱、汚辱、屈辱、屈辱屈辱屈辱屈辱屈辱屈辱屈辱。


「レナが、レナが、レナが何したって言うんっすかあ! 人間っ! なあ、答えるっす。答えるっすよ人間! レナがお前たちになんかしたっすか。レナは、レナはただ......くっ、クソックソッ」


 レナは、目に浮かべた涙を流さないように必死にこらえて、オレを蹴り続ける。

 まるで人間の前では泣かないぞと言わんばかりに。

 歯を食いしばり、今にも吐き出しそうな悔し涙を決して流さないようにこらえる。


 薬とレナの蹴りで、今にも意識が飛びそうだ。

 薄れ行く意識の中で、レナの境遇を過去の自分と重ねていた。


 この眼のせいで気味悪がられ、オレの周りすべてが敵になった。

 (いわ)れ無き罵倒、理不尽な暴力、軽蔑、侮蔑(ぶべつ)

 死のうと思ったことは数知れず、何度あいつらを殺そうと思ったか。

 それでも実行には移せなかった。

 体が、心がもう(すた)れきってしまっていたのだ。


 レナが味わった奴隷とは、オレが受けた「いじめ」なんかよりももっと屈辱的なことだろう。

 想像するだけでも恐ろしい。


 レナは強い。

 全てから逃げ出して引きこもったオレなんかとは違う。

 オレが受けた事以上の仕打ちを受けてなお、まだ心が折れてない。

 自分を痛めつけた種族(もの)への復讐をする気力が残っている。


 しかし、彼女は、レナは、本当は優しい女の子なんだ。

 こんなことをする子ではないはずなんだ。

 まだ、出会って間もないがオレは確信していた。

 レナと初めて出会った時にオレに言った彼女の言葉が何よりの証拠。


『そこの人間、そんなところにいたらケガするっすよ』


 出会ったばかりの、憎むべき人間に体の心配するような心のやさしい子なんだ。

 種族の壁が、この世界での戦争が、レナを変えてしまったのか。

 オレは異世界に来て、どこか期待していたのかもしれない。


 オレは自分の事を受け入れない元の世界に絶望した。

 そして、夢にまで見たファンタジー世界に来たオレは少し期待していた。

 新たな人生を送れる、と。


 信頼し合える仲間と胸踊る冒険ライフ。

 いかにも中二病男子が夢見る独りよがりな妄想。


 でも、現実は違った。


 元の世界だろうがファンタジー世界だろうが、何も変わらない。

 どうしようもない人間と魔族(バカ)どもが種族の違い(小さなこと)で争っている。

 ただ、それだけだった。


 レナは、蹴り疲れて肩で息をしていた。

 人間であるオレに、自分が抱えていた恨み辛みを言い放ち一呼吸する。


「これで終わりっす」


 そう言って、レナは自分の手に炎を宿した。

 先程、男たちに放ったようなメラメラと燃え盛る炎。

 オレを殺す炎だ。


 レナの憤怒(ふんぬ)の炎がオレを照らし、飛びかけていた意識が少し戻る。

 薄く目を開けると、レナがオレに手をかざしていた。

 しかし、オレが目にしたものはそんなものではなかった。


 レナの足が震えているのがわかった。

 本気で人を殺したくなるような仕打ちを受けてなお、レナはためらっているのだ。

 人間を殺すことに。


 彼女は今、自分の中の良心と欲望と戦っているのだろう。


 そんな彼女を見たオレは、心に決めた。

 絶対に殺されないと、殺させないと。


 レナは、ただ魔法が使えるだけで、オレたちと何も変わらない心を持った人だ。

 まだ出会って数分の仲で、お互いのことをよくわかっていないけど。

 これだけはわかる。

 彼女は悪魔の手先なんかじゃない、ただの優しい女の子だ。


 そんな子に人殺しなんてさせちゃいけない。


 それにオレは、彼女に伝えたいことがある。

 オレが元の世界で一番欲しかった言葉を。

 しかし、誰からも言われることがなかったこの言葉(・・・・)を。


 オレは全く動かない体に叱咤(しった)する。


 立てよ! いつまで寝てるんだ。

 彼女は戦ってるじゃないか、男のオレがこのまま寝てていいわけねぇだろっ!

 意地を見せろよ、オレは、男だろうがああああああああああっ!


 床にへばりついていた手がピクリと動く。

 それを皮切りに、オレの体がもぞもぞと動き出した。


「...な......い」


「なっ!」


 突然オレが動き出したことに、レナは驚愕しているようだが。

 オレはそんなことを気にすることもなく、自分の体を必死に起き上がらせる。

 動かない体を己の意地だけで必死に動かす。


 片膝を立ててプルプルと震えて立ち上がった先には、紅蓮の炎が煌々と燃えている。

 その炎の先にいるレナを真っ直ぐ見つめる。


「なっ、えっ!?」


 レナは激しく動揺していた。

 オレの両眼を初めて見たからなのか、薬が効かなかったからなのかはわからない。

 だが、そんなことは関係ない。

 オレはレナに言ってあげたい言葉を言った。


「レナ! キミは、なんにも悪くな...」


「何なんっすか、おまえは、何者なんっすかあ!(ありえないっす、あの薬は象でもピクリとも動けないほどの強力なやつっす。それに、あの眼は......いや、たとえ魔族だとしても魔法で薬の効果が消えるなんて事はないっす。そんな魔法、聞いたことないっす。アレはいったい......)」


 オレとレナの会話が噛み合っていない。

 というか、話を聞いてない。

 おい、ここはオレの決めゼリフが炸裂するところだろ?

 どういうこと...だ?


 オレが戸惑っていると、レナは人間とも魔族ともわからないヤツに恐怖の目を向けて叫び出した。


「く、来るな、来るなっす! それ以上近づいたら、う、撃つっすよ」


 いや、撃たれたら困る。

 あんなのくらったら死ぬし。

 レナに人殺しの十字架を背負わせないように必死に立ち上がったのに、オレが殺されたら元も子もない。


「ちょ、ちょっと待っ......」


 制止を求めてレナに向けて手を突き出したら。


 バシュン!


「なっ!?」


「はへ?」


 レナの火球(ファイアーボール)をかき消していた。


 レナは驚愕し、オレは首をかしげる。

 二人とも目の前で何が起こったのかわからずにほうけている。


 何だかわからないが、まぁいい。

 と、とりあえず炎はなくなったし。

 これでオレが死ぬ事もないだろう。


 そしてオレが1歩踏み出すと、レナはその場に座りこみ両手で自分を抱え込みプルプルと震えだした。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい......」


 まるで呪詛のように謝り続ける。

 これからオレにヒドイことをされると思っているのだろうか。

 それを見たオレは、なんて言っていいのかわからなくなり、何とも言えない怒りがわいてきた。


 こんな小さな女の子がここまで震え上がるなんて、いったい何をされればこうなるんだ。


 オレなんかとは比べ物にならない仕打ちを受けてきたんだろう。

 自分に何が出来るのかわからない。

 もしかしたら、何も出来ないかもしれない。

 それでもオレは。


 恐怖に震えるレナにそっと手を伸ばし、まるで割れ物を触るようにその頭に手を置いた。

 ビクっとなるレナにオレは精一杯の笑顔で頭をなでた。

 子供をあやすかのように。


「何もしないから。もう、怖がらなくていいから。オレはキミに何もしないよ」


「ぇっ!?」


「ふふっ、うん、大丈夫」


 不安そうに見上げてくるレナに優しく笑いかける。

 何度もその柔らかい頭を優しくなでる。


「おまえは、レナに、ヒドイことしないっすか?」


「ああ、しないよ」

「ホン、ト...っすか?」


「本当さ、もうここにはキミにヒドイことをするやつはいないよ。だってここは...レナ、キミの家じゃないか」


「ぅん、うん、うわああああああああああん。ごべんなざああああああああああぃ。レナは、レナは......」


「気にしてないよ。オレは大丈夫だか......ら、?」


 レナは、今まで溜め込んできたものを大粒の涙とともに流していく。

 そんなレナを見たオレは、なんだか昔の自分が救われた気になった。


 死の恐怖、レナを何とかしてやらないとという使命感から一気に開放されたオレは、何かの線が切れたみたいに体から力が抜けていった。

 文字通り、体から力が抜けていったのだ。

 力の入らなくなったオレの体は、レナを押し倒す形で崩れていった。


「ご、ごめん、ちょっと力抜けちゃって」


 ドカンッ!  


「ユウ無事? さっきの魔力はいったい何? ここで何が起こっ、てる......の?」


 ドアを勢いよく突き破ってきたのは、必死の形相から徐々に顔をひきつらせていくエリシアだった。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


奴隷ってなったことがないので、どういう感情なのか、どんな気持ちになるのかというのが正直言ってどう表現していいかわからなかったです。

こうだろうか? ああだろうか? といろいろと妄想を巡らせていると。

最後は、覚醒して新たな(どえむ)を開くという結論に至ってしまった(汗


次話、主人公がピンチな時にに遅れてきたエリシアが何をしていたか?という番外編っぽいやつです。


次のページでお会いできることを祈りつつ......。

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