命短し恋せよ俺!
涼太の入院する天の川総合病院は郊外の一級河川沿いに広大な敷地を利用して十年程前に増改築された県内でも有数の病院だった。
意識が戻らないこと以外はどこにも異常の無い涼太はICUから一般病棟の重症個室に移されていた。
ここには涼太以外にも何人かの同じような患者が入院していた。
「ほんと心配ばっかり掛けるんだから」
「早く目を覚ますといいけどね」
涼太の見舞いに来た親戚の叔母さんと母親の美和子が病院の談話室で話していた。
「でもこうやってあの子の顔をゆっくりと見るのって何年ぶりかしら、同じ家に居るのに食事もバラバラだし、顔を見て話すなんてこともしばらく無かったわ。 もしかしたら今って親子で一緒に居れる大切な時間なのかもね」
「大丈夫よ! 涼ちゃん強い子だから」
『母ちゃん、安心してくれ、俺絶対元に戻るからさ! けどちょっとその前にナースステーションへ行ってくるわ! グヘヘ もうすぐ交代の時間だから看護士さん達の着替えに立ち会わなきゃいけないんだよなぁ』
『行かせるか! 』
『げっ! 川越さん! いつの間に? 』
『まったくお前は自分の命より女の裸の方が大切なのか!? 』
『だって小夏が死ぬのってまだ半年近く先の話でしょ? どうやって死ぬのかも分かんないんだから、今はやること無いもん』
『だったら鍛練して予知能力や触れずに物を動かしたりする力を身に付ければいいじゃないか』
『えっ!? そんなの出来るんですか? 』
『出来るかどうかはやってみなきゃ分からんが、少なくとも私はお前を金縛りにすることくらいは出来るぞ、ほら』
『くっ!…… ! …… ! …… ! 』
『どうせスケベなことしか考えてないのだろう? しばらくそこでそうやって固まっておけ』
涼太達が病院に居る頃、小夏は仕事を定時で終わらせてそのまま会社で化粧を直し着替えをしていた。
取引先であるマルナガ屋の黒川課長に夕食に誘われていたのだった。
" 接待は大切な仕事! 別に黒川課長とどうかなりたいなんて考えはこれっぽっちも無いんだから! " そう自分に言い聞かせて鏡に向かっている小夏だが、さっきから口元は緩みっぱなしであった。
今日は朝から涼太達にも会って居ないし、わざわざスケジュールを伝えるようなこともしていない。久しぶりに解放感に満たされたようなすっきりした顔の小夏であった。
「じゃあね、ユカ」
「小夏! 次は絶対にコンパよ! 一人だけ抜けがけは許さないからね! 」
「ユカ、私は接待に行くのよ? これも仕事なんだからね」
約束の時間は七時、まだ一時間以上もあったが小夏はすでに指定された待ち合わせの場所まで来ていて三度目の化粧チェックも済ませていた。
「日前宮さん! 待たせたね」
仕事の時のスーツも端々に細かな気を使う黒川だが、それとは一味も二味も違う大人の余裕を魅せつけるような渋みと色気のあるスーツ姿でこの夜は小夏の前に現れた。