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「あぁダメ見つかんない…… どなたか知りませんが動いても大丈夫ですよ、ご迷惑お掛けしました、あれ? 誰も居ない…… 」


小夏は床に座ったまま顔を上げたが目の前には誰もおらず、辺りを見渡したがコンタクトレンズを片方無くしてしまったことで周辺の様子もよく分からなかった。


仕方なく小夏は視界がはっきりしないまま、なんとか人混みを避けて駅の公衆トイレに向かい、洗面台の鏡の前で残っているもう片方のコンタクトレンズを外すと鞄から取り出した眼鏡を掛けた。


鏡でソレを確かめた小夏は鞄と書類を手に取ると視界が戻ったこともあり、さっき以上の早さで自分の乗るべき電車のホームへと走っていった。


「ブツブツブツブツ・・・・・・ 」


仕事に対する不満か、それともドジな自分への苛立ちからか、電車に乗っても一人ブツブツと呟き続けている小夏を横に座ったサラリーマンが少し敬遠するような目つきで見ている。


会社に戻った小夏は得意先から持ち帰った契約書を渡す為に上司である岸本課長のデスクへと向かった。


「課長…… これ、契約書です…… 」


「お! やったじゃないか日前宮、お前も一人で仕事が出来るようになってきたな! ん? どうした、顔色が良くないぞ? 」


「そうなんです、どうもさっきからしんどくてですね…… 課長、病院に行きたいので早退してもいいですか?」


デスクの前にゆらゆらとしている小夏を岸本は心配そうな顔で眺めて言った。


「そうだな、契約もバッチリだし今日はいいぞ! 過労死なんかされたらそれこそ俺の責任だからな、じゃあもういいから病院に行って帰りなさい」


「はい、失礼します…… 」


小夏は会社を早退するとそのまま病院に行き診察を受けることにした。いつもなら自宅から歩いていける距離にある掛かり付けの病院に行くのだが、少しでも早く観てもらいたかった小夏は会社を出てすぐの所にある内科、外科、小児科、精神科などなど、看板にいくつもの案内が書かれた大通りのビルの2階にある病院に入った。


「たしかに顔色が悪いですねぇ、はい " あ~ん " して…… 喉は赤くはないですねぇ」


小柄な小夏と同じくらいのこじんまり(・・・・・)としたお爺ちゃんの先生はざっと診察すると「まあ疲れが溜まってるんでしょ、ビタミン剤でも飲んどきなさい」と簡単に終わらせてしまった。


「あのぅ…… 他には何かおかしいことありませんか? 」


こんな手短に済まされるかと心配になった小夏は念のために聞いてみたが、お爺ちゃん先生はそれ以上の診察することもなく早く帰れと言わんばかりに自分が先に裏の部屋へと消えて行ってしまった。


仕方なく病院を出た小夏は電車に乗る為に駅に向かったが、その途中の雑居ビルの前に立て掛けてあった " 占い " という文字を目にし、その文字に惹かれるように建物へと入って行ったのである。


「ぬぬぬっ! これは珍しい! 」


頭に乗せるだけのつばの無い丸い帽子に白くて長い髭を蓄えた " いかにも占い師 " な占い師のおじさんは虫眼鏡で小夏の顔を覗き込むと大袈裟に驚いてみせた。


「何か見えますか? 」


「ああ見えるぞ! よ~く見える! そなたほど幸運に恵まれた人間はそうはおらぬぞ! そなたの明るい未来がよ~く見えるわ」


「あのぅ…… それだけですか? 」


「ん? ご不満か? ならばあと二千円払えばタロット占いもしてやるぞよ? 」


「い、いえ…… 結構です、ありがとうございました」


結局具体的な事は何も教えて貰えず " これで三千円は高過ぎる " と不満そうな顔でビルを出た小夏は入口前の占いの看板を再び見つけるとわざと見えにくくなるように一緒に並んでいる他のお店の看板に隠れる位置に置き直した。


「ブツブツブツブツ・・・・・・ 」


一人になった小夏はまたブツブツと何かを呟いている。


改札を入りホームを繋ぐ地階の通路を歩いていた小夏は急に立ち止まった。


「ブツブツブツブツ・・・・・・ 退散・・・ 悪霊・・・ 悪霊退散悪霊退散」


『……? 』


「どうして私に着いてくるんですか!!!??? 」


『ビクッ! 』


突然叫んだ小夏に辺りに居た通行人達はびっくりしたが、彼らよりもびっくりした者がすぐ近くに居た。


『アンタ俺のこと見えてんの? 』


「はっきりと」


『いつから?』


「トイレでコンタクトを眼鏡に代えた時からです」


『他の人間は誰も気付いてなかったみたいなのに? 』


「お医者さんも占い師も気付いてませんでしたね」


『あの占い師は、アレはインチキだな、アンタが幸運に恵まれてるだって? インチキもインチキ、だってアンタは半…… いや! 何でもない』


「とにかくどうして私に着いてくる…… いいえ、憑いてる(・・・・)んですか!?」


小夏はずっと自分に付きまとっていた幽霊の涼太に思いきって正面から質問をぶつけた。


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