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「千里さん、元気出して! 」


夜、小夏の部屋にある小さなテーブルには焼酎、ウイスキー、ワインなど統一性のないボトルがいくつも並べられた。普段は缶チューハイしか飲まない小夏は帰り道のリカーショップでアルコール度数だけを基準に飲めもしないお酒を何本も買ってきたのだった。


『うぇっ…… すげえ匂い、なかなかなの破壊力だな』


テーブルに鼻を近付けて匂いを嗅いだ涼太は大袈裟にのけぞってみせて隣で落ち込む千里の様子を伺った。


「今日は大奮発よ、だから涼太(アンタ)はありがたく酔っぱらいなさい」


『これなら飲まなくても酔っぱらうわ、傷心の川越さんなら一発ダウンだな? ナハハ…… ハハ…… ? 川…… 越…… さん? 』


『う、う、うっ…… 』


見ると千里の眼には涙が浮かんでいた。


「あーっ! 田上が泣かした! 千里さん、こんな馬鹿の言うこと気にしないでくださいね? だいたいアンタだって失恋したんでしょ? アンタこそもっと落ち込みなさいよ! 」


『うるせー! ほっとけ、俺は後ろは振り向かないタイプなんだよ、前しか見ないんだ! こうやって前をジーっと…… ジーっと見てると服が透けてきて…… ブラが、おっ! 今日はまたなんともババ臭いブラを付けてるんだな』


「ちょっと田上、なに変な能力身に付けてんの! バカ」


『冗談だよ、冗談、なんだお前もしかしてホントにババ臭いブラ付けてんのか? 』


「えっ? …… 」


小夏は自分のTシャツの首もとを覗き込むと安心したようにひと息ついて涼太を睨み付けた。だが、涼太自身も決して楽しい気分ではない筈なのになんとか千里を楽しませようとしているのかな? と思うと少し位の馬鹿も許してやろうと思えてきた。


『聡とは、聡って言うんだが街で会ったのは、同じ実業団のバスケットボールチームに所属していたんだ』


『川越さんバスケット選手だったんだ、それで高身長にスタイルの良さもナットク』


『二年程前、聡が突然イップスに悩まされてバスケが出来なくなってしまったんだ、練習もサボるようになってチームから孤立してしまって、それでもなんとか一緒に居られるようにサボっている聡を探しに行っては連れて戻り頭を下げてチームに残してもらっていた。それからしばらくして聡は選手としての道を諦めてチームスタッフとしてやっていくことになったんだ、そうしてその頃私達は結婚を約束したんだ』



「つまり婚約者だったってこと? 」


『そう、あの事故で結婚(それ)も叶わなくなってしまって、もう一年になるし、新しい恋人が居るのも当然だよな…… うっ、うっ…… 』


『川越さん…… 』


『バカヤローーーッ! 』


「ひゃっ」

『うわっ! 』


千里はそれまで淋しそうにしていたかと思ったらいきなり目が座りだし顔を真っ赤にして涼太を睨み付けた。


ギロッ


『川越さん? 酔っぱらいました? 』


『コラッ聡! 練習サボって何してんの! 』


『川越さん、俺、涼太! 聡さんじゃないって』


『一度くらいレギュラー外れたからってふて腐れてどうすんの、まさかこのままバスケ辞めるとか言わないでしょうね? 』


『えっ? いや、あの、川越さん 』


『聡、行かないでよ~ やだよ~ 一人になりたくないよ~ 』


遂に泣き始めた千里は涼太のことを聡だと思い込み抱きついてきた。


『お、おい日前宮、何とかしろ! 』


小夏に助けを求めた涼太だったが残念なことにその小夏も飲み馴れない焼酎やウイスキーを次々と飲んだものだから完全に酔っぱらいと化していた。


「うるさいわね、涼太! アンタはもっとシャキッとしなさい! いつもいつもフラフラとして」


『そ、そりゃ幽霊なんだからフラフラしてるよ』


『なんだって? 田上、それならフラフラしないようにこうしてやる、それっ』


千里はいつかの様に金縛りをかけて涼太の自由を奪うと自分はそのまま眠ってしまった。


『っ! …… 』


小夏は小夏でテーブルについた肘を滑らせそのまま涼太に寄り掛かるように身体を預けてきた、が、幽霊である涼太の身体をすり抜けて絨毯の上に倒れてしまった。


目の前には小夏が無防備に寝転がり、隣では千里が白い着物の前をはだけてテーブルに伏して眠っている。


こんな美味しい状況なのに金縛りで目線すら動かせなく悶々と朝まで過ごさなければならない涼太であった。


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