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「元気出しなよ…… って言っても無理か…… 」


『…… 』


緒形店長との商談を終え店舗を出た小夏は気落ちする涼太の前を歩きながら時たま振り返っては様子を伺っていた。


「あのさ、緒形店長が本部に話を通してくれるって、アンタのおかげだよ! それにさぁ、あんな奴等の言うことなんて気にすることないって! どうせ親のスネかじりながら何も考えないでただ遊ぶお金欲しさにバイトしてるような連中でしょ? 」


『それ、どっちかって言うと俺のこと…… アイツら皆、学費の為とか他のバイトと掛け持ちしながらとか結構シビアに生活してんだ…… 』


「け、けど、ほら! アンタがお客さんのことジロジロ見てたってのもお客さんの動向からサービス向上とかを考えてのことなんでしょ? 」


『いや、ただのスケベ心で…… 』


「ま、まあ気にすることないわよ、それに本田さんだっけ? 私キライだな、ああいう女、ただちょっと美人なだけじゃない! 」


『それお前が言っても(ひが)みにしか聞こえないよ』


「はぁ? ちょっとどういう意味よ? 私はアンタを励まそうとしてんのに! 何か無いの? アンタのいい所」


『はぁ…… やっぱ俺なんて死んだ方が幸せなのかなぁ…… 』


「ああもうっ! いつまでもウジウジしてないの! イジケ虫! 」


『あれ? アレ』


「何よ? 」


『アレ、川越さん』


「え? あっ、ほんとだ」


駅の近くまで来た涼太と小夏はターミナルビルの隣に建つホテルのロビーラウンジの窓の外に居る千里を見つけた。


「何してるのかしら」


『中に人が居るな、打ち合わせかな? 』


「あの座り方だと、男女が隣同士に座ってその前にホテルの人かしら…… 結婚式の打ち合わせとかかもね、ここのホテル式場もあるし」


『ふ~ん、で、あのカップルは川越さんの知合いってワケか』


「でも千里さん、なんだか淋しそう」


『あっ! こっちに来る、隠れるぞ! 』


「えっ!? ちょっと待ってよ」


涼太と小夏は千里に見付からないように急いで脇の路地に入った。


『ふぅ、危ない危ない』


「隠れなくたっていいじゃない」


『でもなんか " 見ちゃいけないものを見てしまった " って感じじゃね? 川越さんのあんな顔』


「 " 見ちゃいけない " って 千里さんを幽霊みたいに…… あっ! そうか幽霊か」


『誰の顔を見たくないだって? 』


頭上から聞こえた声に顔を上げると涼太達の真上からいつのまにか千里が見下ろしていた。


『川越さん! 』


「千里さん! 」


『なんで人の顔を見て隠れるんだ? 』


『そりゃ、その、いつも氷の表情の川越さんが淋しそうな顔をしてたから…… 』


『そうか、見られてたのか…… 』


千里はまたさっきのように伏し目がちに表情を曇らせると一人で力なく先に進みだした。


『あの…… 川越さん? よかったら…… 』


「千里さん! 飲みましょう! 」


涼太の言葉に被せるように小夏は敢えて元気一杯に笑って言った。


「こんな時は飲んで吹っ飛ばすのが一番ですよ! ほら田上! アンタも今日は思いっきり飲んで嫌な事は忘れなさい! 」


『お?…… おう…… 』


『だが私も田上も酒も料理も口には出来ないんだが』


「あっ! そうですね、じゃあ私が二人の分も飲んであげます! 部屋中がアルコール臭まみれになったら千里さんはもちろん、田上だって酔っぱらうでしょ! 」


『それお前が飲みたいだけじゃねえか』


「うるさいイジケ虫! 」

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