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「はい、よろしくお願いします、では14時にお伺いいたします。失礼します」


電話を切った小夏は「よしっ」と小さなガッツポーズを作り、そのまま手に持ったスマホのスケジュールアプリに " 14時、スーパーニシマル " と打ち込んだ。


そしてそのスケジュール帳を一週分スライドさせ、翌週金曜日に付けた " 黒川課長 " の名前を見てニヤけてしまう小夏であった。


「営業行って来まーす! 」


上司の岸本に聞こえるように声を張って宣言すると、小夏は壁のホワイトボードの自分の名前の横に " 外出 " のマグネットを貼り付けてオフィスを出た。


『よ! これから営業行くのか? 』


「うん、アンタが働いてた菊地店? 緒形店長が会ってくれるって」


『そっかそっか、俺も久しぶりに店を覗きに行こうかな、本田さんの顔も見たいし』


「何ニヤニヤしてんの? まーたスケベなことでも考えてるんでしょ? 」


(ちげ)えよ! これは…… 純粋に恋心なんだよ』


「へぇ、アンタの好きな女の子なのね、その本田さんって、そういえば千里さんは? 」


『わかんね、聞いても教えてくれないんだよなぁ、川越さんたまにフラ~っと居なくなるんだよ、聞きたいことはいっぱいあるんだけど』



涼太のバイト先だったスーパーニシマル菊地店は小夏の会社からだとタクシーの方が便利だが、時間に余裕があったので小夏は電車で向かうことにした。



「サンフーズの日前宮さんですね、緒形は少し遅れてまして、よければこちらでお待ち戴けますか? 」


小夏が店舗を訪ねて品出し中の従業員に用件を伝えたところ店のバックヤードに案内された。


涼太はというと久しぶりに来るバイト先が懐かしく感じたのか、小夏の元から離れて店内をフラフラと彷徨い始めた。


「すみません、狭苦しい所なんですがこちらでお待ち下さい」


小夏が通されたのは六人掛けのテーブルが十台程並んだ社員食堂で、入口付近の席を用意された小夏とは対角あたりの席に休憩中のアルバイトらしい二十歳前後の制服にエプロン姿の男女が五人、楽しそうに話をしていた。


見知らぬ来客に部屋の空気が少し変わったが彼らは無言で小夏に会釈をするとそのまま話を続けた。


「今日仕事終わったら飲みに行こうぜ」


聞こえてくる話の様子だと、どうやらこの時間から閉店迄の遅番担当のアルバイトのようだった。


「けどさ、田上さんもう無理だろうね、一ヶ月越えたんだろ? 」


アイツのことだ、小夏が涼太の知合いだということも知らずにアルバイトスタッフ達は涼太の話で盛り上がっていた。


「早くバイト補充してくんねえかなぁ」


「(そう)よねぇ、私なんか今週六連よ! 田上(タゴミ)の奴仕事も全然出来ないのに足引っ張られてばかりよ」


「そうそう! タゴミとシフト一緒だったら倍疲れるんだよな」


「ホントそう! それにキモいのよ、女のお客さんとかだとさ、顔とか胸元だとかをジーっと見てんの」


「マジかよ! タゴミ最悪」


話の内容はとても涼太本人に聞かせられるものではなく、それにその場に居ない人の悪口で盛り上がる同世代の彼らに小夏はだんだん腹が立ってきた。


バンッ!


「ちょっといい加減にしなさいよ! 何が面白いの!? 」


机を叩いて立ち上がったのは五人の中で一人だけ、さっきから一度も喋っていなかったショートヘアーで目の大きな色白の女性だった。


「本田さん…… 」


出てきたその名前に小夏はハッとした。


涼太が好きだって言ってた子だ。


「…… 」

「…… 」

「…… 」


「な~んてねっ! 」


「「「 ブハッ 」」」


「だよねー! びっくりした奈津がタゴミのことを庇うから「ええっ?」って思ったわよ」


「んなワケないでしょ、アイツほんとキモいんだもん」


「本田さんが一番酷いわ」


これ以上聞いていられないと思った小夏は席を立ち部屋を出ようとした。


「あっ…… 田上…… 居たんだ…… 」


小夏の後ろにはいつのまにか涼太が来ていたようで、その悔しそうで恥ずかしそうな顔は元同僚達の話も全部聞いていたという感じだった。

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