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「小夏、お疲れ~ 上手くいったみたいね」


オフィスに戻って岸本への報告を終わらせた小夏にユカが近づいてきた。


「うん、" なんとかなった " って感じ」


「心配してたんだよ皆」




『よく言うぜ、アイツら日前宮が出て行った後 " いい気味だ " って馬鹿にしてたんだぜ』


涼太はその一部始終を聞いていたので小夏の事が少し憐れに感じたのだった。


『まあそんなもんだ、女同士なんて…… 』


そう返す千里は何かを思い出したのか少し寂しそうに目を臥せるとその場から離れようとした。


『そういえば川越さん、奪衣婆の仕事はいいんですか?』


移動する千里に並ぶように歩きながら? いや二人とも足は無いので浮遊しながら涼太が質問した。


『今は閻魔大王様からお前を監視するように指示が出ているからな、それに奪衣婆の仕事はシフト制だから一人補充すれば私が居なくても回るだろう』


『マジっすか? 地獄の仕事にもシフトあるんですか? 週4とかですか? 死んでも今と生活変わんねえのかよトホホ…… 』


『週4かどうかは知らんがあそこは地獄ではないからな、地獄というのは輪廻転生六道の一つで三途の川よりも先にある世界だ』


『どうせだったらメジャーリーガーとかに死に変わり(・・・・・)しねえかなぁ』


五ヶ月後には本当に死んでしまうかも知れないというのに相変わらずノー天気な涼太に思わず笑ってしまう千里だった。






その日の仕事を終え、一人暮らしのアパートに帰ってきた小夏はシャワーを浴びるとテーブルの上に出していた手鏡を布の袋にしまい、冷蔵庫から取り出したピーチの缶チューハイのタブを開けると六口、ゴクゴクと喉を豪快に鳴らしながら一気に七分ほど飲み、「ふぃ~ 」っと声に出してひと息付いた。


「なんかすみません、私一人だけ飲んで」


結界が解けて部屋に入って来た涼太と千里に断りながら小夏は缶の残りを飲みきった。そしてコンビニで買ってきた野菜炒めと焼き鳥を電子レンジに入れると冷蔵庫から二本目の缶チューハイを取り出した。


「今日は助けてもらってありがとうございました」


『お? やけに素直じゃん、まあ困った時はお互い様よ』


「いや、アンタに言ってない、私は千里さんにお礼を言ってるの」


『はぁ? 俺の超能力のおかげだろ』


「何言ってんのよ、千里さんがお客さんを呼び寄せてくれたんだからね、アンタの超能力なんかじゃタンポポの綿毛だって飛んで行かないわよ」


『ぐ、ぐぬぬ…… 』


「けど千里さんってほんと綺麗ですよね~ 、きっと生きてた時もモテモテだったんでしょ? 」


『別にそんなことは…… 』


千里は自分のことに話題が及ぶといつも口を(つぐ)んでしまうのだった。


「いいなぁ、もっと早く千里さんと知り合いたかったなぁ」


『おい日前宮よ、ペースが早くないか? もう四本目だろ? 』


『いいんです、今日は千里さんと飲みたいんです! って言っても飲むのは私だけなんですけど』


『田上よ! お前もいつまで悔しがっているんだ、日前宮に何とか言ってやれ』


『ぐぬぬぬぬぬ!』


スポンッ


『出来た! 』


満足そうに笑う涼太の右手の上にはBカップの白いブラジャーが浮かんでいた。


「嘘!? それ、私の、やだっ! 変態!」


『ふふふ、見たか俺の超能力を』


「返してよ! 」


小夏が必死に手を振って涼太を捕まえようとするが、虚しくもその手は半透明の涼太の身体をすり抜けるばかりだった。


『ほーれほれほれ』


「ちょっと返して!」


『どーれ匂いでも嗅いで…… 』


ガコンッ!


『いい加減にしろ! 』


『痛つつつ…… 』


『全くお前はいつもいつも、そういうことでしか力を発揮出来んのか? ほれ日前宮』


「千里さん、ありがとうございます、アンタは出て行きなさいよね! 今日は千里さんと女子会なんだから」


『いいだろ居たって、ところでどうなってんのよ? あの黒川とは』


涼太は小夏が想いを寄せているであろうマルナガ屋の黒川課長とのことを聞いてみた。


「どう? って…… ぐふふふ…… 実は来週また誘われてたりするのよ」


『上手くいってんだな、頑張れよ』


涼太が小夏と出逢って一ヶ月、閻魔大王からは " 五ヶ月後に死ぬ運命にある小夏を救ってみせよ " と言われている、それが涼太が生死の境から戻れる条件なのだから、小夏が少しでも幸せな方向に進むのなら応援してやりたい。一緒に居るとつい憎まれ口ばかり叩いてしまうが涼太にもそんな気持ちはきちんとあったのだった。


『頑張るのはお前だろうが田上涼太よ! 』


それまで黙っていた千里が突然大きな声を出したので涼太も小夏もびっくりして横に座る千里を見た。


『あれ? 川越…… さん? もしかして酔っぱらってます? 』


見るとたしかに千里の顔は赤く、目はトロンと落ち掛けていた。


「えっ?でも飲んでもないのに…… もしかしてチューハイの匂いだけで酔っちゃったの!?」


『誰が酔っぱらいらっていうんらぁ~ 』


『アチャー、凄いね典型的な酔っぱらいだ』


『おい涼太! 』


『…… 』


『涼太! 』


『はいっ! 』


『ったく、お前はもっと真面目に使命をだなぁ…… 聞いてるのか涼太! 』


『はいはい聞いてますよ』


『まずはそのスケベな考えをだなぁ…… zzz…… 』


「あら? 寝ちゃった、酔っぱらう幽霊なんて初めて見たわ…… 」


『まあ大体の人はシラフの幽霊すら見たことないだろうしな』


「それを冷静に解説する幽霊もね、そういえばアンタが働いてたスーパーニシマル? もう一度営業行こうかと思ってるんだけど」


『本当か? 本社なら竹田部長、俺が働いてた菊地店なら緒形店長って人が居るから訪ねてみな、どっちも悪い人じゃないからきちんと話は聞いてくれる筈だぜ』


「うん、明日さっそく動いてみる」


『こらっ! 』


『はいっ! 』


寝ていると思った千里がまた大声で叫んだので涼太は反射的に返事をしてしまった。


『こら…… (さとし)…… またサボったんでしょ…… 』


『ん? 』

「ん? 」


『夢見る幽霊なんて初めて見た』

「夢見る幽霊なんて初めて見た」


『フフッ、 ハハハ 』

「フフフ」


『聡…… バカ…… 』

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