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第2話 白馬に乗れない王子様(近世欧州風/領主の娘/馬丁/PG12 ※差別用語)

 私の十四歳の誕生日に、父が馬を贈ってくれた。

 とても美しい白馬だ。

 しかし、私は生まれつき杖をつかないとうまく歩くことができない。

 だから、もちろん馬に乗ったことはない。

 乗れるわけがない。


「お前は美しいものが好きだから、この白馬をきっと喜ぶと思ってね」

 父はこう言って私に微笑んだ。

 彼の穏和な笑みに、私がこの贈り物を気に入らないのではないか、といった類の懸念や不安はひとかけらも見当たらなかった。

 それなら、私の顔に失望や不満や怒りが存在してはならない。

 私はつねに父を満足させなければならない。

 ほかならぬ、私自身のために。

「はい、お父様。とても美しい馬ですね。嬉しいです。ありがとうございます」

 まばたきするように満面の笑みをこしらえ、息を吐くように父が求める返事をする。

 すると、彼はたちまち満足げに目を細め、私の頭を優しくなでた。まるで、飼い主がよくしつけられた飼い犬を褒めるように。


 簡単なことだ。

 たったこれだけで、私はこの城で何不自由なく平穏に暮らしていける。召使いにかしずかれ、選りすぐりの侍女を与えられ、流行の贅沢な服を着せられ、一流の家庭教師たちから淑女としてふさわしい教養と作法を授けられる。

 父は私を娘として扱い、私が彼の娘として振る舞うことを認め、城の者たちに彼の娘として私に仕えることを求め、私が彼を公の場でも父と呼ぶことを許している。

 豊かで広大な領地を持つ、富裕な若き伯爵らしい鷹揚さだ。

 十六歳のときに儲けた不具の私生児を、彼は彼なりに憐れみ可愛がっているのだ。


「“お前は美しいものが好きだから、この白馬をきっと喜ぶと思ってね” ですって。乗れもしない馬を贈られて私が喜ぶわけないでしょ! お父様はどうしてそんなことさえお分かりにならないの!?」

 厩舎の洗い場の隅に設えた木製の腰掛けにどすんと座り、私は腹の底に押し込めていた怒りを吐き出した。

「お嬢様、そのようなことをおっしゃってはいけませんよ」

 厩舎の庭に設けた訓練場から引いてきた白馬を手際よく洗い場につなぐと、少年は控えめながらも私をたしなめる調子で言った。

「ピーター、あなただってお父様はひどいと思うでしょう?」

 私は少年に問い返した。

「そりゃあ、私は本来なら修道院に閉じ込められていなきゃならない身分よ。でも、だからってこの仕打ちはあんまりよ! そうでしょう?」

 ピーターは、伯爵家が所有する馬たちの飼育や調教、大きな厩舎の管理を任されている主馬頭(しゅめがしら)の息子、最も年若い馬丁だ。

 私と同じ十四歳。

 杖がなくてもまっすぐ歩けるし、走ることもできる。階段を駆け上がったり駆け下りたり、木登りや山登りもできる。

 もちろん、馬にも乗れる。

  襲歩(ギャロップ)はお手のものだし、馬上馬術のピアッフェ――速歩はやあしの一種で、前進せずその場で足踏みするような動作を行う。馬も騎手も共によく訓練されていないと行うことができない難易度の高い歩様――さえできる。

 ものごころつく前から兄弟のように馬と接してきたので、彼らの扱いも手慣れて堂々としたものだ。

 私がどれほど望んでもできないことに、幼い頃から慣れ親しんできた少年。

 私に贈られた白馬の世話を任され、雇い主である私の父から彼女に乗る許可を与えられ、私の代わりに毎日この美しい馬に乗っている年若い馬丁。

 それが、私の羨望といらだちを募らせると気付きもしない木偶の坊。

 つまり、ピーターは目下、私が最も気に食わない男だった。


「旦那様ほどお優しい領主様や父君様はいらっしゃいませんよ」

 いつものように、ピーターは真面目ぶって私を諭そうとした。

「それに、お嬢様は修道院に閉じ込められていい御方ではありません。お嬢様は旦那様のご息女、伯爵家のご令嬢です。この城が、お嬢様に最もふさわしい場所です」

 いつも同じことしか言わないピーター。

 真面目で堅物でつまらない男の子。

 杖を持つ右手と左足に力を込めて、私は腰掛けから立ち上がった。

 鞍を干すピーターは、横目に私の一挙手一投足を注意深く見ていた。でも、私に手を貸そうとはしない。私が嫌がると分かっていることを、彼は決してしない。

 私は美しい白馬に近寄った。彼女を驚かさないよう、彼女の左側からゆっくりと。

 杖をつきながらだから、少しばかり頭や肩の浮き沈みが目についたかもしれない。でも、私の心はさながら女王陛下にはべる宮廷女官。優雅に、しとやかに、うやうやしく。

 雪原のようにしみひとつない白い肢体はしなやかで力強く、自信と気品に満ちあふれている。気高く凛々しい女王の風格だ。

 父が私の十四歳の誕生日祝いに贈ってくれた美しい白馬。

 私は彼女を真珠(マルガリート)と名付けた。

 彼女は桶に汲まれた水をおいしそうに飲んでいた。彼女が喉を潤している間に、ピーターは彼女の足下にしゃがみこみ、平たく短い鉄の棒を直角に曲げたような道具――“てっぴ” というらしい――で蹄の裏につまった土を取り除き、ひずめや足周りの泥汚れを水で洗い流した。水で濡れた部分が冷えて風邪を引かないよう丁寧に拭うと、今度は立ち上がり、彼女の銀色に輝く毛並みにブラシをかけ始めた。

「ごめんね、マルガリート。お前はこんなに立派で美しいのに、お父様のせいでお前に乗れもしない私なんかの元につれてこられるなんて……」

 名匠が刻んだ白亜の大理石の彫刻のように美しい彼女の首を見つめながら私は嘆いた。

「私が(びっこ)でなければ、お前と一緒に東の丘まで遠乗りに行けたのに」

 ピーターが毛ブラシでマッサージを始めると、マルガリートは気持ちよさそうに首をかしげた。

 私はピーターを頭のてっぺんからつま先まで見た。

 鳥打帽に押し込んだ栗色の巻き毛。少し段のある鼻。そばかすの散った顔。まだ少年でしかないほっそりした肩。腕まくりしたシャツからのぞく腕は日に焼けている。健康的ながっしりとした二本の脚が、当たり前のようにまっすぐ立っている。土埃と藁屑で汚れた革のブーツは、彼が自由に歩き回っているなによりの証拠だ。

「あぁ、誰かとこの忌々しい右足を交換できたらいいのに!」

 私はこれみよがしに声を上げた。

「贅沢は言わないわ。ピーターの毛むくじゃらの脚でも構わない」

 それまで一心不乱にマルガリートの世話をしていたのに、ピーターは仰天した顔で私に振り向いた。

「それはできません」

 彼はきっぱりと断った。

「お嬢様の美しいおみ足と僕の脚を交換するなんて、とんでもないことです」

「あら、ピーター。あなた、いつの間に私の脚なんて見たの?」

 ピーターは一瞬言葉を失った。

「いいえ、僕はお嬢様のおみ足を見たことなどありません! ただ……」

 私は笑いを洩らした。女なら幼い頃から誰でも知っている喜びに満たされた。愛らしい男をあたふたさせる喜びに。

「ただ、なんなの?」

「……ただ、お嬢様はすべてがお美しいに違いないと思っただけです」

 ピーターは生真面目で気が利かない男だ。

 ばかばかしいほど愚直で、しゃれたことひとつ言えない。

 見たこともないくせに、枯れ枝のようにしおれた私の不具の右足を美しいと言ってのける幼馴染み。

 そんなピーターのせいで、私の頬はかっかとほてり、胸は破裂しそうなほど騒々しく高鳴った。


 私が十五歳のとき、父がようやく妻を迎えた。

 父の妻、すなわち私の継母は私と八つしか年齢が離れていない。彼女は正真正銘、名門貴族の嫡出の令嬢だ。でも、夫の私生児である私に姉のように優しく友好的だった。最初こそ他人行儀だったけれど、私はたちまちこの若い継母を好きになった。大きく成長してから初めて顔を合わせた姉妹のように、私たちはゆっくり打ち解け仲良くなった。

 爽やかな初夏の午後、私はそわそわと厩舎をのぞきこんだ。それから、城から少し離れた場所にある放牧場に向かった。広々とした柵の中で気持ちよさそうに駆ける白馬と、彼女の手綱を繰る少年を見つけた。

 ひょこひょこと鵞鳥の雛のように歩く私に、ピーターはいちはやく気付いた。彼はぎょっとした様子で鞍から飛び降り、帽子をとって挨拶もせず私に駆け寄った。

「お嬢様! またおひとりでいらしたのですか!?」

「ピーター、素晴らしい報せよ。私に弟か妹ができるの!」

 彼の叱責をものともせず、私は声を上げた。両足が健常だったら、喜びと興奮のあまり彼に抱きついてしまっていたかもしれない。

 両親の結婚から半年後、継母が父の子を身ごもった。逸る気持ちを抑えられず、私は矢も盾もたまらず右足を引きずりながらここまで飛んで来たのだ。

「それはおめでとうございます」

 ピーターの顔中に驚きと喜びが広がった。

「ですが、何度も申し上げておりますように、このような場所におひとりでいらっしゃるのは危険です。どうか必ず従者か侍女をお連れください」

「お前もお祝いしてね、マルガリート」

 ピーターのお小言は無視するに限る。私は行儀よくたたずむ彼女に話しかけた。

「私の弟か妹が大きくなったら、私の代わりにお前に乗せてあげてちょうだい」

 ふと強い視線を感じて横を向くと、ピーターが射るような目で私を見つめていた。

「マルガリートはお嬢様の馬です。彼女に乗るのはお嬢様であるべきです」

 いつになく強い口調でピーターは私に訴えた。

「あら、たった今までその私の白馬に乗っていたのは誰かしら?」

 マルガリートの鼻面をなでながら、私はピーターをからかった。

「僕はマルガリートには乗れません」

 彼は奇妙なことをきっぱりと断言した。

「僕はお嬢様がお乗りになるために、彼女に必要な訓練を施しているに過ぎません。この美しい白馬に乗ることができるのは、お嬢様だけです。彼女はお嬢様が乗るべき、お嬢様の馬なのですから」

「私は杖がないと歩けない不具よ。馬には乗れないわ」

 軽い調子で返事をしたけれど、お腹の底に慣れ親しんだ重石がずしんと沈んだ。

「いいえ、乗れます」

 ピーターは食い下がった。

「お嬢様はマルガリートに乗りたくないのですか?」

「そりゃあ乗りたいわよ」

 私はしぶしぶ認めた。

「でしたら、お乗りになってください」

 使用人としては不躾なほど強く、幼馴染みとしてはあまりに熱っぽい眼差しで、ピーターは私に迫った。

「旦那様もきっとお許しになります」

「お父様がお許しになるはずないわ」

 榛色の瞳から逃げるように目を逸らす。

 頬にせりあがる微熱にどぎまぎしながら、私はピーターに言い返した。

「一度でも、旦那様がお嬢様に “馬に乗ってはならない” とおっしゃったことがありますか?」

 私は答えに窮した。

 馬に乗ることどころか、父は一度たりとも私に禁止や制限を命じたことはない。

 そういうことはすべて、乳母や家庭教師に任せきりだ。彼は私を甘やかすことこそ、実の親である自分の務めだと信じ込んでいる。

「いいえ、一度もないわ」

 ピーターは厚かましくも勝者の笑みを浮かべた。

「旦那様に “マルガリートに乗りたい” とお願いしていただけませんか、お嬢様? 僕なら、お嬢様の乗馬のお手伝いをできます」

「もちろんそうでしょうね。ただ……」

 ピーターはとても静かだった。私の返事を耳だけでなく全身で待ち構えているような、そんな印象を受けた。

「ただ、なんですか?」

「これ以上、あなたの手を煩わせるのが心苦しいわ」

「僕はマルガリート専属、いわば彼女の家来です。つまり、お嬢様の家来でもあるのです。家来は主に煩わされるために在るのです」

 生真面目な彼の芝居がかった物言いに、思わずぷっと吹き出してしまった。

 その日の晩餐、私はさっそく父に馬に乗る練習をしたい、マルガリートに乗って遠乗りに行ってみたいとねだった。すると、父はあからさまに愕然となった。私が彼女どころか、馬に乗ったことすらないのをこのときようやく知ったのだ。その様子は、継母をおおいに呆れさせた。


 翌朝、乗馬用ドレスを着て喜び勇んで厩舎に向かうと、そこには朝日を浴びて輝くマルガリートがいた。その隣に並ぶすらりとした鹿毛の猟馬(ハンター)とピーターは、さながら女王陛下に付き従う廷臣だ。

 男は馬の胴体をまたいで正面を向いて座る。しかし、女は左側に両足をそろえて横向きに鞍に座る。

 女である私のために、まずピーターが鹿毛のハンターで手本を見せた。

 馬と向き合うように左側に立ち、踏み台に乗る。左手で手綱とたてがみを一緒に持ち、右手で鞍をつかむ。左足を(あぶみ)にかけ、高い段を踏み上がるように身体を持ち上げる。同時に身体をねじり、左側を向き両足をそろえて鞍にそっと腰を乗せる。

「さぁ、お嬢様の番です」

 流れるように鞍から飛び降りると、ピーターは淡々と私に言った。

 私はマルガリートの黒い目を見つめた。磨き上げた黒曜石のような瞳。凛々しく美しいだけでなく、彼女は穏やかでとても慈悲深い。畏れと不安におののく私が落ち着きと勇気を取り戻すのを、侮りも蔑みもせず、ただ静かに待ってくれた。

 私は三段ある踏み台の一番上に乗り、ピーターに杖を預けた。踏み台に杖なしで立っている不安と、いよいよこれからマルガリートに騎乗する期待と興奮でどきどきしてきた。

(あぶみ)に左足を乗せたら、右足で立たなければならないの?」

「右足でお身体を支えるのではなく、左足を(あぶみ)にかけたらそのままそちらに体重を預けてください。左足で階段を上がるときのように身体を持ち上げ、鞍に座るのです」

「こんな高い階段はのぼったことがないわ」

「僕がお嬢様を持ち上げます。ご心配いりません」

「それはそれは、頼もしいこと」

 騎乗する際、貴婦人がブーツの下に馬丁の手をあてがうのは当たり前のことだ。

 でも、私にとってはそうではなかった。

 ピーターが私に触れる。

 その喜びと高揚を彼に悟られたくなくて、私は彼からつんと顔を逸らした。

 左足を(あぶみ)にかけると同時に体重を乗せた。鞍にかけた右手にぐっと力を込めた。雛鳥たちが空めがけて飛び立っていくときも、こんな気分なのかしら。場違いにもそんな想像が頭をよぎった。ピーターの手が私の右足の靴底を力強く押し上げた。生まれたときから自由に曲げることすらできず引きずってきた不具の右足だけでなく、体中がふわりと軽くなった。まるで大きな翼で羽ばたくように。

 顔を上げた。

 前方に青葉がけぶる放牧場となだらかな東の丘、さらにその彼方に鬱蒼と茂る森が広がっていた。首を少し右に動かすと、銀色のたてがみとぴんと立った淡い灰色の耳が見えた。再び視線を戻すと、私の足元で、ピーターが榛色の瞳をまぶしそうに細めて私を見上げていた。


 彼はマルガリートに調馬索をつけ、オナモミの実のように鞍頭にしがみつく私が鞍から滑り落ちないよう、片時も目を離さず円運動をさせた。

 軽やかに移り変わる景色。軽快な蹄の音。頬にそよぐ爽やかな風。城の小塔タレットの向こうに高く飛んでいくツバメたちの元気な鳴き声。澄んだ初夏の青空に手が届くような心地がした。

 昼の食事のため、私はマルガリートから降りなければならなかった。このとき、私は恐怖と不安におののいていた。

 ピーターのように、左足を(あぶみ)にかけながら右足で踏み台に飛び降りるの?

 役に立たない右足で身体を支えなければならないの?

 鞍に腰かけた私の膝に口付できそうなほど間近に立つと、ピーターは顔を上向けて私に言った。

「お嬢様がお降りになるのをお手伝いいたします」

 高い木の枝にのぼり動けなくなった子猫をなだめるように彼が言った。

「左足を(あぶみ)にかけて、鞍をしっかりつかんだまま、ゆっくり滑るように降りてください」

 ピーターが両腕を広げた。私は素直に彼の指示に従った。

 彼は私の両脇に手を差し入れ、ふわりと持ち上げた。大切な陶器の人形を両手で動かすように、優しく慎重に、しかし決して落とさぬよう必要な力を込めて。私をマルガリートから降ろすと、私の両足が地面に着き、しっかり立ったことが分かるまで彼は私から手を離さなかった。

「お嬢様、痛むところはありませんか? 大丈夫ですか?」

 杖を渡しながら彼が優しく私に尋ねた。

「ないわ。大丈夫よ」

 私の声が、溜め息のようにかすれた。


 それから毎朝、ピーターは私をマルガリートに乗せ、何時間も放牧場を歩き回った。彼はとても辛抱強かった。毎日少しずつ上達するように、私が焦って急ぎすぎたりしないように心を配りながら、常歩なみあし速歩はやあし駆歩かけあしを教えた。秋までに東の丘まで遠乗りに行けるようになればいいのです、とじっくり構えていた。

 毎日、ピーターは私を抱えてマルガリートから降ろした。

 私は乗馬ドレス越しに彼の手の大きさを知った。

 容易く私を持ち上げる彼の肩の厚みを知った。


「ねぇ、ピーター、東の丘に遠乗りに行きたいわ。私ひとりではまだマルガリートの手綱を繰ることはできないけれど、あなたが私と一緒に乗ればいいでしょう?」

 私が何度誘っても、彼は礼儀正しくへりくだりそれを固辞した。

「僕はお嬢様の馬に乗ることなどできません」

 わきまえと分別のある使用人の顔をつくろい、甘美な誘惑に懸命に耐える修道士のように頑なに。

 私は生真面目な若い馬丁が眼差しの奥に押し隠す情熱を知った。

 その情熱を私に差し出せと欲する私自身の欲望の強さを知った。

 夏が終わりに近づくにつれて、夕暮れ時の影は長く伸びていく。マルガリートから私を降ろしたピーターの手が私から離れ、力任せに引き剥がすように私から目線をはずし、預かっていた杖を差し出すまでの時間も、日に日に、少しずつ長くなっていった。

 私はそれに気付かないふりをし続けた。


※ 筆者からのお願い(2017年9月8日追記)

片方の足が不自由な状態を意味する「びっこ」は差別用語です。

差別の意図や悪意の有無に関わらず、現実の生活で使用しないでください。

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