【事件解決編】
「私が責任者の風呂井だ」
特別捜査本部となった大会議室。
犯人と思しき男からの入電――そして代表者を求めるその声に、この事件の管理官である私はそう答えた。
「はじめまして、風呂井さん。さっきのデモンストレーションは見てくれたかい?」
「ああ、見せてもらった。それで、あれがデモンストレーションということは、まだ他にも爆弾を?」
「ああ、その通り。だけど今度のは威力が数段上だから、さっきみたいに犠牲者ゼロとはいかないだろうね」
そう言って笑う男の声は、肉声。ボイスチェンジャーなどで加工した声でもなければ、今知った私の名前を呼んだことから、あらかじめ録音された音声でもない。リアルタイムで電話を掛けてきているということだ。
だがまあ、現在の科学技術をもってすれば、加工した音声を元に戻すことなど造作もないことなので、その判断は間違っていないのだろう。
しかしそれであっても、犯人についてそれ以上のことは何も分かっていないのが現状だ。
一回目の爆破予告も肉声であり、録音されたその音声は当然、声紋分析にかけられたが、データベースに一致するものは無し。つまりは、警察に声紋を登録されていない人物が、この声の主ということになる。
だが、それは砂漠から一握りの砂を取り除いたに過ぎない。
声紋登録された人物など、一般社会で見ればごく一部。それ以外から犯人を絞り込むなど、現段階では到底無理な話だ。
――しかし、天職探偵ならば……。
ふとそんな思いが、頭をよぎる。
つい先日、百人を超える群衆の中から、たった一人の声を聴き分けたあの能力ならば、この声の主の正体もあっさりと見抜いてしまうのかもしれない。それも、まるで当たり前のことのように。
……いや、今はそんなこと考えても仕方ないな。
ここには、当然ながら彼はいない。様々な事件に、様々なかたちで関わってくることで有名な彼だが、もちろんこの国で起こる全ての事件に関わっているわけではない。
そして彼がいなくても解決できた事件も、当然のことながら多々ある。
――だから今回も、我々警察だけで事件を解決してみせねば。
そう心に誓い、私は改めて男の声に集中した。
「……君の目的は何だ?」
「話が早くて助かるよ、風呂井さん。それじゃあ早速だが、俺の目的は我らが同志の解放。俺が今から言う人間を、時間内に刑務所から出せば、爆だ――
「あのー、お電話中すみません」
――ん? え?」
「こちらのスーツケース、ベンチの下に置き忘れてらっしゃいましたよ」
「あっ、いや、その……」
「あれ、もしかして、あなたのではなかったですか?」
「いやっ……ま、まあ、一応、俺のではあるんですけど……」
突然、会話に割り込んできた声に、明らかに狼狽する男。
そしてこちらも同様に混乱してしまったが、少し冷静さを取り戻すと、その声は非常に聞き覚えのあるものだった。
「……人観くん? もしかして人観くんか!?」
「あれ? その声は、ええっと……」
「風呂井だ。先日も君に力を借してもらった風呂井だ」
「ああ、そう! 風呂井さん! すみません、毎度毎度お名前を忘れてしまって」
「いや、そんなこと今はどうでもいい! とりあえず君、今どこにいる!?」
「え? ここは――