傷の癒えないまま
俺たちは街の外周を回っていた。
時刻は昼頃だろうか。
住宅街を電気柵で囲んだだけの街は平和すぎるほど静かだった。
朝地獄を見てきたのが嘘のようだ。
「ねえ、あなたの名前は?」
少女が沈黙を破った。
「辻村透」
「私は護山燐よ。よろしく。燐でいいわ」
「ああ、よろしく」
なにがよろしくなのだろうか。今はこういう挨拶でさえ煩わしい。一人になりたかった。
おまけにさっきの怒りは収まる気配もない。
「あなたは何て呼べばいいかしら?」
「別に、なんでもいい」
俺はぞんざいに言った。
「そう、なら・・・」
少女、いや燐は少し考えて言った。
「辻村くんでどうかしら」
「いいよ、それで」
「そう、じゃあそう呼ばせてもらうわ」
そんな会話をしていたら大通りを挟んだ向こう側にある商店街で突然大きな音がした。
続いて人の声。
「だめだ、数が多い!!」
「退け!退けーっ!!」
見ると数人の男たちがこっちへ走ってくる。その背後に・・・
「魔神!」
と俺は言った。
大型犬くらいのサイズの魔神が群れをなして男たちを追いかけていた。このサイズだと小型種だ。
一見すると犬のようなそれは脚が6本あり、顔は白くのっぺりとしていて眼や鼻はなく、口は人と同じでニタニタと笑っているように見える。魔神の顔はみなこのような顔だ。
「まずいわ、追い付かれる」
俺は走り出した。
「ちょっと辻村くん!」
燐はバッグを放り出して追いかけてきた。
「あの数じゃあ分が悪いわ。一旦退いて体勢を立て直しましょう」
「あいつら、あいつら魔神が父さんやみんなを殺したんだ!」
このタイミングで魔神が現れるなんて、俺の心の傷を抉るには充分だった。
「うぉぉぉぉぉおおお!!」
走りながら俺は無明を起動させた。