街から街へ
南へ向かって歩く。俺は今、街の南にある丘を登っていた。
街に魔神が残っていなかったのは幸いだった。今の俺一人では何もできなかっただろう。
俺たちの住んでいるような街は国から見捨てられた街だ。15年前日本政府は重要施設や生産性がない街を“破棄”した。 俺のいた街も“破棄”の対象だった。小を捨てて大に就く。実に合理的な策だ。
そんな街だったから魔神との実戦の経験もあった。
だが、父さんは俺を地下室へ隠れさせた。
みんなが戦っている中、俺は一人隠れていた。地下室が壊されなかったのは奇跡だろう。
しかし生き残った俺に残されたのは後悔と、罪悪感しかない。
丘を越えてしばらくしたら次の街が見えてきた。
申し訳程度の電気柵で囲まれた街だった。しょせん街の防衛法など、どこもこの程度だ。
俺が入り口を探していると突然野太い声と妙に高い声が聞こえた。
「おい娘」
「その持ち物はなんだ?」
さらに続く女の声。
「何よ、あなたたちには関係ないでしょう?」
どうやら女の子が男に絡まれてるらしい。
「見せてみろ。でないと・・・」
「私とやり合うのかしら?」
「まあ、そうなるかもな」
「だな」
俺は声のする方へ歩いていった。
見ると俺と同い年くらいの女の子が二人連れの男に絡まれていた。片方は太っていてもう片方はのっぽだった。しかも男たちは防衛隊の隊服を着ていた。
「おい」
俺は声をかけた。
「ああ?」と野太い声。
「なんだお前」と高い声。
太った男とのっぽな男の二人連れは一緒に振り返った。
「やめておけよ」
「なんだなんだぁ?」
「この娘を庇ってヒーロー気取りか?」
「女の子から物を取ろうなんて防衛隊員が聞いてあきれるな」
「それがどうした」
「みっともないって言ってるんだよ、デブ」
「なっ・・・!!」
今ので太った男は逆上したようだ。
「てめえガキだからって許されると思うな!」
男は右手にはめた指輪の中央を押した。
キュィィンとかん高い起動音がしたと思ったら男の手には大きめのハンマーが握られていた。
「人間相手にガジェットを使うか」
「ちょっと痛い目にあった方がいいぞ小僧」
「なぁ・・・やりすぎだぜ」
のっぽの男は少し落ち着きがなくなっていた。
「うるせぇ!とにかく痛め付けてやんねぇと気が済まねぇ!」
そう言うと太った男はハンマーを降り下ろした。それを軽くかわす。
ゴッと鈍い音がして地面が少し抉れた。
「ちょっと、もうやめなさいよ」
「ごちゃごちゃ言ってっとお前も小僧と一緒にすり潰すぞ!」
女の子はビクッと体を震わせて縮こまった。
太った男はハンマーを構え直した。
「さあ、覚悟しろ小僧」
思えば俺の街の防衛隊も似たようなことをやっていた。要するに安全な防衛都市から危険な僻地に飛ばされた腹いせだろう。
「お前ら防衛隊がしっかりしていればあんな風にはならなかったんだよ」
俺は怒りを感じ始めていた。どこにもやれない怒りを。
「お前らがそう言うつもりなら俺だって」
俺はいつも使ってる剣型ガジェットを起動させた。
「来いよ、デブにのっぽ」
俺はガジェットを構えた。