一族に咲いた僕の夢
こういう人もいるかもしれない。
一歩踏み出すまでも無く僕の将来は固定され溶接されて、決定付けられた。
「お前ならきっと俺より」なんて言葉、欲しくない。
父親が歩もうとして挫折した夢。それと僕の望む将来とでは、天と地、月とスッポン、白と黒ほどの違いがある。
片や作家、片や教師。
僕が望んだ聖職は、文字の重圧に負けてしまうようだ。
才能って物があるじゃん。
天稟って物があるじゃん。
でもそれは目に見えない。
血を引き継いだからって目が良くなるとでも?
代を重ねたから才能が濃くなったとでも?
なんだよそれ。なんだよ。それなんだよ、そこなんだよ。
父親は・・・いいや言い切ってしまおう。『僕以外』は間違っているんだ。
親族全員に縮めてもいいや。とりあえず間違ってる。
皆父親のどこに信用を置いているのかわからないけど、産み落とされた僕にまでそれを背負わせるのはいささか間違いじゃないの。
それのせいで僕の宿命と僕の願いは日々諍いが絶えないよ。
僕に作家の才能はないよ。
僕に作家としての天稟はないよ。
でもそれは目に見えない。
当事者である僕にしかそれがわからない。
なんだよこれ。なんだよ。これなんだよ。ここなんだよ。
僕に無いものがあるって伝えられないからこんなにズルズルズルズル・・・
目に見えるものしか信じないって言うけど、見えな過ぎるものは逆に信じてしまうものなのかもね。
教壇に立って、色々なことを教えたい。
教壇の立場から、若い心を教わりたい。
まぁ、現時点じゃかなわぬ夢ですが。
路線変更しようにも、分岐点すらないからね僕には。
あったはずの分岐点は期待で見事にペーストされてさ。
ははは・・・見事に謝られたよ。
何故かって?土下座したからね。
今まで我慢してました、僕は教師になりたいです。って。
するとどうだ、「そうか、ごめんな」って。
ん?あれ?そういう反応?
もっとこう、息子が自分の野望から背こうとしてるんだからこう、怒ってもいいんじゃないの?
えっと・・・今まで僕は何度か言ってきたんだけどな。教師になりたいって。
結構どうでも良かったみたいな?
今になってしつこいからもういいやみたいな?
ちょっとちょっとちょっと。それは流石に無責任でしょ。
いや僕としては満足だよ嫌な責任感から開放されて僕自身のやりたいことに向き合えるしってかそのための勉強ばっかりしてきたし。
でもなに?息子の反抗心にすら無関心?まさか僕の都合を考えず勝手に未来を作ってた?
まさか。ま、さか・・・ね。
あーーーーーーーーーーーーーーーー。
なんだろ。教師目指すの認められてからなんかモヤモヤするんだよね。
なんでだろ。あーーーーーもう。
イッライラする・・・
線路の分岐点は息を吹き返しましたよ~っと・・・
・・・なんで?
いや、ちょっと待って。
僕、いつ分岐点にのしかかってた期待の重圧をはねのけた・・・?
勝手に、消えただけじゃんか・・・
じゃあ何?まさか今僕が進んでる線路って、何の支えもない状態って事?
いや線路に例えるとわかりにくいな。もっと他の・・・
いいや線路で。
一旦、状況を整理してみようか。
生まれた頃から親や親族から作家の道を決められてました、と。
この時点でもう線路は一本だけど僕主観で行くとまだまだ多くの線路があります。
さて僕が中学に上がり、その頃にはすでに作家の道を仄めかされていました。しかし!その時点での僕の夢は教師!
なので線路は二本です。
しかしそれからというもの、父親の昔話から始まり、親族と顔を合わせた際の父親のいいとこまで行った話に続き・・・で段々教師の夢を口に出せなくなっていきました、と。
はい線路潰れた。
・・・何故『作家』の線路は潰れてない?
線路がないと電車は走れないから?違うよ。
・・・
応援が、あったからだ・・・
・・・わかっちゃったぁ~・・・
そっかぁ、『教師』の線路を応援してくれる人が誰一人として居ないんだぁ・・・
そりゃやる気も出ないよね・・・
今まで出来てたのは反抗心やら反骨精神やらで無理矢理猛ってただけってことね・・・
応援って骨組みが、線路を支えて電車を動かしてたんだね・・・
僕の意志とは関係なく、さ。
公道を我が物顔で走ってる暴走族でさえ自分のやりたいように出来てるってのに。僕ときたら・・・
いいよな暴走族は。仲間からの応援があってさ。
僕のやりたいことには応援はおろか、仲間すらも居ないや。
・・・むかついてきた。
なんて言うんだろ。奴らが無関心になったからこそ長年育まれてきた反抗心と反骨精神が『作家』の線路に重心を傾けているぞ。
きっとこれはダメなやつだ。将来をふいにする考えだ。
でも、いいかもな。すでに見放されてるんだ。
ここから巻き返したとき、どれだけ縋ってきても僕は目も合わせてやるもんか。
夢を引き継ぐわけじゃないさ。
これは父親の夢じゃない。僕自身の夢だ。
僕は小声で、なるべく誰にも聞こえないように、枕に向けて叫んだ。
「小説家として、皆を見返してやる!」
一年・
二年・・
数年・・・
結論から言って、大成功。
両親及び親族には教師になると言って大学へ進み一人暮らし。
そこで教育の勉強をしながら小説を書く日々。
自分で言うのはなんだけど勉強の要領は良いから書く時間は溢れてた。
自由な時間の内に書き上げた一本の小説、【一族に咲いた僕の夢】。
僕のことのようで僕のことじゃないけど僕の本心も混ざってる。
そんな小説を持っていったら絶賛された。
こんな鬱屈と、それでいてしっかりとした終わりを書き上げられるなんて君は本当に初心者か!?なんて言われて褒められたのか貶されたのか解らなかったね。鬱屈て。
でもまぁ僕は大学卒業と共にその本で有名になり日本中に名を轟かせ色々な取材も受けた。
でもそれらで一貫して秘密にしたことがあった。
なに、簡単なことだよ。
この小説のモチーフが僕だって事を伏せただけ。
だって、それを言ってしまったら僕をこんなことにした親族全員もヒーローになるじゃないか。
そんなこと、許さない。
親族にはばれると思ったけどそうでも無かったよ。
【一族に咲いた僕の夢】に書いたようなことを、僕は一度しかやってない。
そう、土下座。小言で言ってた教師志望はノーカンで。
土下座をしたこと以外、僕が心の中で思い続けたことだから、誰にも言ってない。
友人にだって先生にだって。言っても「知るかんなもん」ってなるに決まってるし、僕は昔から気ぃ遣いなんだよ。
まぁ、こういうわけで僕は小説家となり、親族を見返しましたとさ。
今は新作を書いててね。今度は実体験じゃなく、完全な空想。
タイトルは決まってないけど面白くなるって信じてる。何事も、信じることが始まりだからね。
あ、そうそう、ここだけの話、僕は【一族に咲いた僕の夢】をアナザーネームで呼んでるんだ。
そう、もう一つの名前。
それはね・・・
【一族を裂いた僕の夢】
居たら居たでなんて声をかければいいのかわからないんですけどね。
まぁあえて一言声をかけるなら・・・
次回作、期待してるよ。