第6層「異世界の情報」
「じゃあまずは一般的なところから教えてもらうか」
俺の言葉にジャックスは、俺が出した冷えた麦茶を最初は
驚きつつも舐めるように飲みながら答えていった。
まずは大陸から聞いた。それによれば――
大陸は、この中央大陸のほかに、西の大陸、東の大陸、北の大陸、南の大陸があるそうだ。大陸名はないらしい。住んでいた西の大陸は主にジャックスのような獣頭族、獣人族、妖精族が暮らしている。
人族もいるようだが、部族というこちらの国のような規模ではない集落群ごとの氏族みたいなものらしかった。
「俺も詳しくはわからねぇが、ある町の護衛依頼で商人の親父がいってたな。西の大陸に住む人族は黒い肌をしていて、北の大陸から来た人族は大抵肌が白く、東はお前みたいな肌の色をして、南から来た連中は肌が褐色だそうだ」
「なるほどな、そういうことか」
「俺にはよく分からんがお前にはなんか分かったのか?」
「まぁな」
つまりは、黒人、白人、黄色人種、黒人まではいかないまでも褐色は南に住む人に多いからかと納得できた。実際の地球の分布に当てはまるところから考えればそりゃ納得はできる。
「それじゃあ中央大陸はどうなんだ?」
「ああ、元々この大陸ってのはそれぞれの大陸に覇を唱えていた連中から逃げるように集まった連中でできたいわゆる"混ざり物が集まってできた国"が多いそうだ。だから、北や西、東に南といった一色性なんてものはなくて結構バラバラだ」
「ハーフが多いってことか」
ハーフ?なんだそりゃ?と聞かれたわけだが、気にするなといって俺なりに納得した。そして改めて、中央大陸について聞いてみる。
それによるとこの中央大陸も厳密に1つの大陸ではなく、以前住んでいた町で護衛の仕事の時にたまたま見た地図では中央西部の大陸と今いるこの大陸の間には大きな川が流れていて、そこに橋と国境関所があるようで、そこから延びる街道はこの大陸の南側にある王国へと連なるものになっているそうだ。
「南の王国か。なんて国なんだ?」
「エウレシア王国だ。規模としてはそこまで大きくはないが、農耕が盛んな国らしいし他の国からも離れているために戦争とかも起こらない平和なところだそうだ。ま、俺は行ったことがないからあんまり知らんがな」
なるほどな。
てことはそこから襲撃はないと思ってもいいのか?
いや、それよりもここが領土かもしれないと思い聞いてみる。
「ここはエウレシア王国の領土になるのか?」
「いや、ここは未開拓領域に指定されているはずだ。俺が見た地図じゃ、赤く塗られてたからな」
赤く色づけされているところは、誰も統治されない未開拓のところという意味らしい。その時の支配域はここから南行った町にあるところからが支配域でエウレシアは黄緑、西の川の国境から西の支配域で青だったので帝国らしい。
「未開拓領域ってつまりは、どの国も支配域に治めていないってことだよな?何か理由があるのか?」
「さあな。だが、考えられるとすればおそらくはそこを支配しても旨みがないか、他にはそこは人間には住むのに適さない環境だったりとかだな」
この森は出歩ける範囲で確認したのだが、小動物すらいないところである。その理由は現在でも分からないけど何か理由があるのだろうか?
「適さない環境か。空気が悪いわけでもないし、森は静かなものだけどな」
「他にもあるぜ。人間にとって相手にしたくないほどの魔物が――」
と、考えたような表情でいった止まり、ああそうかと納得するジャックス。
「......銀毛の旦那の"縄張り"だからってのもあるかもしれねぇな」
「銀毛の旦那?......アベさんのことか?」
「そうだ」
アベさんが旦那か。どっちかと言えば、兄や姉に近いんだが俺の感覚では。
......まぁ、いいか。
俺は質問を変えてみる。
「そのエウレシアと帝国以外の大きな国は他にもあるのか?」
「俺は行ったことはないが、この森からずっと北にある山脈のその向こうには神聖エレメンツィア王国とかいう宗教国家があるらしいな。それ以外に大きな国とかはなかったはずだ。あっても村や集落なんかがポツポツととかじゃないか?」
ということは、中央大陸には北の山脈の向こう側に神聖エレメンツィア王国、
西には帝国、南にはエウレシア王国の3つの国の中央にここがあるんだな。
「帝国には名前はないのか?」
「ベルガンディアだったか、そんな名前だったはずだ」
面白くもなさそうな忌々しい表情からそれほどの敵意を持っているんだろう。
そのベルガンディア帝国は、魔素が消失して様々な国が混乱に陥るのをいいことに順々に小国家群を侵略していったらしい。今では一部の部族や集落以外は、ほとんどが帝国の支配下のようだ。
「ひでぇもんよ。侵略して併呑した後そこの民は次々に即奴隷の烙印を押されていって、人数が人数だからってんで使い潰すが如く自国民には絶対にさせねぇ強制労働やら、見目が麗しけりゃどこぞのえらいヤツの下で愛玩動物扱いで連れ回されて接待用の玩具にもされてる悲惨な奴もいるらしい。そして、死ねばポイだ。俺たちのようなあいつらからみりゃ"亜人"というやつへの差別もひどいしな」
「その亜人は人数が多いのか?」
「何人か"混ざり者"はいたぜ。大抵は奴隷だった。まぁ、俺の場合はただ運が良かっただけだろうな」
人族は人口率が多いってレティーナ様も言われてたからな。
それにジャックスの言葉を信じれば帝国側は穢れがすごそうだな。迷宮への案内は主にそっちに舵を切ったほうがいいかもしれない。まぁ今は何もできないから、それらで被害にあっている人は可哀相とは思うけどどうすることもできないが。
「貨幣はどうだ?国独自に指定されているとかそういう意味で」
「貨幣か」
そう言って懐を探って2枚の異なる硬貨をテーブルに出した。
「国際硬貨っていってな、2000年前に捏造ができない硬貨として全世界で使われてる硬貨だ。仕組みはわからねぇが、これが今でも使われているぜ」
500円玉ほどの大きさの銅色の硬貨、100円玉ほどの大きさである銀色の硬貨、そして見たことはないらしいほどに高額な取引で使われるというその二つよりも小さい金貨の三種類があるそうだ。おそらくだが、管理者の誰かがそういうものを司っていたんだろうと察した。
「価値としちゃあどうか100枚で銀貨1枚、んでそれが100枚で金貨1枚なんだが俺も金貨は見たこともねぇ」
「なんでだ?」
「市場に出回ってるのが銅貨と銀貨が大半で、国庫が動くほどの莫大なもの以外じゃ基本的に金貨なんておがめねぇからだよ。まぁ、現に争いの起こるようなところじゃ金も必要だしな」
金貨はとても珍しいのか。レティーナ様の言で、戦争がいろんなところで起きているっていうからそれを賄う上でもそりゃお金は大事だろうな。まぁ今の俺にとっては金貨なんてもんは別にどうでもいいけど。
「それじゃあ、その戦争やら争いはどうなってる?」
「ああ。今のところ小康状態を保ってるってところだな。侵略しても、是正しなきゃならねぇし、さっきもいったが奴隷を腐るほど用意してそれらを貿易で他国へ輸入してるってのも聞いたことがある。まぁ、これもさっきも言ったが戦争するにも金がかかるからそれを補うって意味でやってんだろうな」
現在はお金を貯める時期ってことか。
「後はあれだ。そういう扱いが扱いだってんで滅ぼされた国々の残党や逃亡した奴隷たちが合わさって組織作って対抗してるなんて話をどっかで聞いたことがあるぞ」
反帝国勢力......レジスタンスってやつか。
戦争は小康状態で、レジスタンスが動いているってくらいか。
まぁ、今は迷宮には関係なさそうだから話を変えよう。
あとは............ああ、そうだ大事なのがあったな。
「暦とか分かるか?1日の時間はわかったんだが............1週間は何日とかってやつだ。それを説明してくれ」
「暦?1日は24時間、1週間は7日、1ヶ月30日、1年が12ヶ月ってことでいいのか?」
1ヶ月30日って決まってるってことは、360日で1年か。
そこ以外に誤差はないな。
「年の初めから数え方は1月、2月とかでいいのか?」
「なんだそりゃ?」
と、疑問を投げかけたために教えてもらうと――
1月は羊月、2月は牛月、3月は子月4月は蟹月とまで聞いて、昔テレビで聞いた誕生月占いを思い出してそれに当てはめて考えて納得した。
そして今は?と聞いた時に、山羊月を入っただろうがわからないと言われたので自分の携帯を見て、確定した。携帯では10月22日となっていて、つまり、今は山羊月の22日ってことだ。
暦はこれでクリアしたと納得して、最後に重要な組織に関することを聞くことにした。
「ジャックス。冒険者って職はあるか?魔物討伐やら薬草採取なんかを生業にするやつなんだけど」
「なんだそりゃ?」
あれ、ないのか?
小説じゃ冒険者ギルドってのがあったりするもんだが......。
そのことを突っ込むと――
「ああ、酒場にある依頼を受けて魔物を狩って稼ぐ魔物狩りたちのことか?昔は大分賑わっていたが、魔素がなくなり戦争が至るところで起こったからな。道具や武具、防具といったものに必要とかで魔物は結構狩られちまってるから今はほとんどないのかもしれねぇ」
20年前は結構賑わっていたようだが、今はそれよりも戦争に行くための傭兵やらが主流らしい。そもそもギルドって言葉もないそうだ。
......やっぱりないのか。
それからも色々話を聞いてみると中世なんかより時代がもっと前のような感じだった。
確か世界史じゃその頃って暗黒時代だった気がするけどそういうことかもしれない。戦争ばっかっていうところは妙に当たっている気がするな。
話が丁度途切れた時には、日が沈み始める時間になっていた。
アベさんがそろそろ狩りから戻る時間だな。
ジャックスの犬小屋も作っておかないとだし、今日はここまでにしとくか。
てか思ったんだが、外はジャックスの追手がいるんじゃないか?
ということを聞いた俺に、
「これでも鼻は利くから一度扉から鼻を出させてくれればわかるぜ」
という返しをもらったので玄関へ向かうことにした。
そっと扉を開けて鼻先を出すと、やつらの匂いはしないということなので外に出た。ちょうどアベさんが岩壁沿いに歩いてくるのが見えた。
「アベさん、おかえり!......帝国の奴らに会わなかった?」
「ガウ?」
事情を話してみると、どうやらそういうのはいなかったらしい。
とすれば追手は振り切ったようだな。そして片手に抱えた本日の獲物は、以前にも見た猪の魔物だった。
後ろで「バーゲージをこんなにあっさりとはお見それもんだぜ」という呟きが聞こえたが気にしないことにした。アベさんは強いのだ。
まだ半分ほどしかできていないラウンジに入って左手の壁を砂地に変えて削りだし、その中に6畳ほどの空間を作り出した。俺が淡々と作業する後ろで、なんだこの空間はとかどんな技術がありゃ岩を砂みたいにできるんだと言っていたが説明が面倒なので無視しておいた。
俺のベッドを増殖法で抱えさせて設置させて、一応ジャックスの部屋は完成した。それにも驚いていたがまぁいいだろう。飯は基本的に、俺に合わせる形をとり、後々ジャックスにも迷宮テストに付き合ってもらうつもりだ。
「飯が終わって寝るときに俺の部屋で風呂に入ってもらって帰ってもらうまでは、俺の部屋のトイレ使ってもらっていいけど、それ以外は森のどこかで穴でも掘って排泄してくれよ」
「奴隷扱いかと思えばそこまでひどいわけでもねぇし、そこまで贅沢は言わねぇさ。早く旦那のような信頼を勝ち取りたいもんだぜ」
肩を竦めながら言う彼に俺は、そっかじゃあ励めよとえらそうに肩を拳で軽く叩いた。顔は狼のままで凶悪っぽいがその態度と尻尾のもふもふでなんとなく憎めないやつだと思えた。
我が家の風呂とかボディーソープは最初そんな習慣があるのかと驚いたが、入ってみれば気に入ったらしく、ほくほくした顔で犬小屋に帰っていったのが印象深かった。
暇がある時にでも迷宮内に温泉みたいな施設を作ったほうがいいかもな。
あとは薬草を土ごと持ってきたことを思い出した俺は、亜空間ですっかり夜とでもいうかのように満月が煌々と輝く中で植え替えをしておいた。
肥料でもあればいいんだが、まぁまずは様子見だ。
作業を終えて俺も風呂に入って、アベさんと今日のことについて語らう。
「一時はどうなることかと思ったけど、新たな人員を増やせてよかったよ」
「ガウ」
うんうんと頷くアベさん。
アベさんから見ても、俺や自分に害を成すものじゃないっぽいので不安はなさそうだった。
「しかし......改めて考えてみて思ったよ。てか、気づくのが遅かった」
「ガウ?」
俺の言葉にアベさんは頭を捻る。
「迷宮はまだまだの状況で、作業員みたいな人材が欲しいところだなとつくづく思った。人材精霊は1つの指示で俺に頷いて消えちゃうから連続性っていうのか、そういうのがないし。まぁそれは検証していけばいいと思うけど、迷宮内の開拓作業や、定期的に薬草を育ててもらったり、迷宮前の森周辺の調査もしてもらいたいし......ジャッカスには貨幣のことを軽く聞いて今は別にいいかなとも思ったけど、せっかく畑も作ったんだし種撒いて野菜を栽培してそれも食料にしたいし、過剰分はそれを売って、宝箱の中身用という意味でも外貨獲得もいいかなって思ったよ」
肉ばかりじゃ動物性脂肪を取りすぎであるので、たまには野菜も取りたいと思ってしまう。自分の体がもうすでに人とは違う不老、不病であるのはレティーナ様からのサービスってので理解しているがなんとなく、気分の問題がある。
それに宝箱からお金が出てくるのはゲームでもよくあるし、そこからさらに別の宝箱を目指すという膨らませ方ができるかもと考えると、多少は外貨獲得も悪くないと思う。
というか、俺だけならまだしもアベさんにも野菜をとってほしい。
と、そんな愚痴のような独り言をぶつぶつ言っているとアベさんが何やら自分に心当たりがあるぞとでも言うようなジェスチャーをしてきた。
「え?人材に心当たりがあるのか?」
「ガウガウ」
うんうんと頷くアベさん。
ジェスチャーを読み解けば、どうやら地盤沈下したここの岩山を越えた先に広がる森をしばらく北へ向かっていくと集落があり、そこに人族とは違う者たちが住む場所があるとのことだった。アベさんはそこで獲物を狩った時に知己となって、たまにそこへ狩った獲物を渡したり、逆に自分へおすそ分けをしてもらっているらしい。
働き盛りの若い者もいるそうなので、どうかと俺に勧めてきたようだ。
「おおー、さすがはアベさん!いいね~行ってみるか!」
そんなわけで俺とアベさんはジャックスも護衛として連れて行くことにして、
次の日から早速、人材交渉の短い旅へ向かうことにしたのだった。