第5層「影の正体と生命契約《ライフプロミシズ》」
迷宮軽作業中に閃いた三色薬草の栽培のため、扉をきちんと閉めることなく森へでかけた俺とアベさんはそこから誰かが中に入った形跡があったことから侵入者を取り押さえるべく、ゆっくりと中へ入っていった。
しかし、中に入った玄関先には何やら血痕が見えた。
「誰かが争ったのか?......てことは複数?」
と思った俺だが、そんな俺をよそにアベさんは大柄な熊とは思えない速さで中に入っていった。どうやら位置が大体掴めたみたいで仕掛けにいったようだ。
俺もついていくべくカバンを玄関先に置いてしっかり扉を閉めて中に入ると、居間のところでアベさんが誰かの体を抑えているのが見えた。その周囲には血痕らしきものが広がっていた。
アベさんが仕留めたのかは分からないが、時より動くそれに、ひとまず生命契約を発動させた。
「生命契約 "レベル1"!」
咄嗟のことで足だと思われるその部分に手を当てて発動した力は、赤い光をそのものに纏わりつくように包んだ後に、俺へと向かって胸の辺りで収束して消えた。
「よし、力の行使はできた。アベさんそのまま仰向けに返してくれ」
指示の通りにアベさんが表に返してみると、それは狼の頭をした人だった。
全身のところどころが汚れており、また元は艶やかな薄紫の毛皮だろうそれにも血のような濃い赤が付着して固まった箇所が転々と付いている。
そんな狼人を俺はひとまず、頭から足までじっくり確認した。
全身は毛皮に覆われており、手を見ると、ちゃんと5本あり先端は長めだがアベさんほどの鋭さはなく、寧ろ物を握りやすいようにしてあるようだった。
足も靴のようなものを履いていて、身長的には俺より少し高いくらいだろうか。
苦しそうに呻きながらもまだ息があるようだったので、俺は急いで手持ちの中から三色のポーションをこれでもかと、その大きな口に突っ込んだ。
途中、突っ込みすぎたのかガボッゲボッやめべっと聞こえた気がしたが、聞こえないふりをして、かまわず突っ込む。
しばらくすると、落ち着いたのか俺が無理やりポーションを突っ込んだのが苦しかったのか大人しくなった。
そこで俺も力を抜いて、アベさんにもう離していいよと頼んだ。
「ガウ?」
「ああ。俺の力の1つで、生命契約っていうのがあってさ。相手に触れさえすればこちらに敵意や敵対行動ができないようにする力を使ったから、もう大丈夫だよ」
俺の説明に納得したのか、腕を組んでうんうんと頷いていたが首を傾げた後に自分は?みたいなジェスチャーをしたので――
「アベさんは友達で相棒じゃないか。出会った時に襲ってこなかったし。だから縛る必要はないよ」
俺の答えに何か感銘を受けたのか、パンパンと俺の背中を叩いた後に自分の胸に抱き寄せた。
おおう、もふもふ~最高~!
出会った頃から毎日風呂に入り、俺と同じボディーソープを使っているとは思わないアベさんの毛皮の香りととてもつやつやしているその銀毛は柔らかくてふわふわしてて気持ちよかった。
そんなことをしていると、どうやら狼男が気がついたみたいでハっとなった後に素早く距離を取るかのように後ろに下がり、どこから取り出したのか分からない短剣を構えていた。その格好は蜘蛛男のようでちょっとかっこよかった。
「......おめえらか?俺を助けたのは............てか、どこだここは?」
お、言葉が理解できる。
さすがにこの容姿でボンジュールはないとは思ったけど。
そのジャ○○○パロウの日本語版のような声で質問をしてくる狼男に、俺は問い返す。
「まずは助けてもらったんだから、礼くらいいったらどうだ?お前」
俺の言葉に、警戒心をむき出しにしたまま周囲を探るままに一言呟いた。
「助かったといいたいとこ――っ!」
俺の横――つまりアベさんを見て何かに驚愕した様子の狼男に、アベさんはガウと一言言うと、しばしぼーっとしていたが何やら納得したかのように短剣を地面に置いた狼男は力を抜いて膝立ちになった。
「......そうか。いや、なんでもねぇ。ともかく助かったぜ、礼をいう」
それを聞かずに俺は、警戒心では生命契約の隷属効果は反応しないんだなと思っていた。
そんな俺を訝しげに見て、狼男はため息をつきながらお前から振っておいて無視ってどんなんだよと呟いていたが気にしないことにした。
「まぁいいや。それであんたの名前は?あんた獣人族の人だろ?」
またため息をつこうとした男は、そのままの表情で口では淡々と答えてきた。
「俺の名前は、ジャックス・レッド。獣人族ではない」
本人の表情とは全然違う機械的な声色で答える狼男――ジャックスに驚きながらも、どうやらこれは生命契約の力のレベル1《奴隷級》の効果なのだろうと辺りをつけた。
なるほど、つまりこの状態だと俺には一切嘘が言えない本当の支配下に置かれた状態になるようだ。
「お、おい、お前一体何しやがった!いきなり口が勝手に――」
「お前みたいな種族はなんていうんだ?それから、初体験はいつだ?」
「おい、はな――俺たちは獣頭族という。初体験は、19歳だ。生まれ育った村にいる同じ種族の村長の娘を軽く嘘をついた俺の武勇伝でコロっといったところでヤった」
............。
「うわー、おま、いや、あんたそれ............」
「な、何で勝手に喋るんだよ俺の口ぃぃぃ!!」
自分の口を閉じようとしながらも、ゴロゴロと転がるジャックス。
暴れるのがうっとおしいので、命令して静かにさせると表情と佇まいが一致しない残念な姿となった。
アベさんは俺に危険がないと判断するや否や、俺が入り口で下ろしたかばんを押入れの倉庫に入れて右手を見せて狩りに行ってくることを俺に告げると、森へでかけていった。
礼を言った俺は、ジャックスから色々聞き出すことにした。
ひとまずこいつがどうしてケガだらけでここにいたのか、そしてどこから来たのかを順番に聞いてみた結果色々分かったことがあった。
なんでも、この大陸の西にはジャックスのような種族が暮らす大陸があり、そこの集落で暮らしていたが先ほど語ったように村長の娘に手を出して責任を取る取らないという話になってきたようで逃げるように大陸を出たそうだ。
中央大陸と呼ばれるここへ密航したジャックスは、しばらくは根無し草として種族特性ともいうべき俊敏な攻撃や鼻の利くところから用心棒やら護衛ということをしてきたが、世話になった国に属するある町にいたときに大群を率いた帝国軍が侵略をしてきて、それはもうひどい地獄絵図のようなことになったそうだ。
そこから脱出したジャックスはある種で帝国に対しての反感から、義賊を名乗って帝国の支配でひどくなる町や村などを巡って定刻の貴族相手に盗みをしては戦争で戦災孤児を引き取った善良な教会やそれらが経営するという孤児院に食料や衣類などにして届けることをしていたそうだが、ドジってしまい現在は帝国軍から追われるようにこちらのほうへ来たそうだ。
疲労による疲労、そして帝国軍の矢などによる負傷のため森をさ迷っていたが
俺がド忘れして開いていた扉を見て、一目散に隠れようとしたところで意識を失ったということだった。
「なるほどね」
義賊か。
俺からすれば、残酷無比じゃなくても普通に盗賊って感じがするんだが。
「まぁ、おめぇにはわからねえだろう。世話になったヤツらが殺されるのを見たらこんな嘘つきのつまらねぇヤツでも復讐したくなる気持ちなんてな」
「いや、分かるぞ。あんたの言いたいことは」
「ほう?」
なんせ、俺も妹を殺されて復讐を果たしたくらいだからな。
「まぁいい。つまり逃げ場所がないってことだな?だったら話は早い。ある力の実験と情報を得るためにと思って生かしてたけど頼るところもないのなら、このままここに住めばいい」
「............そのかわり?」
話しが早い。
「俺はある目的のために、ここにあるものを作ろうと思ってるんだけど手が足りないから手伝ってほしいんだ」
このまま隷属させてジャックスには、この世界の常識や知識などを教えてもらうことと手伝ってもらうことが今一番の選択であると思えた。見た目はアレだけど、過去を知る分には後ろ暗いところもないからな。それに帝国とやらの対策もできそうだ。
「まぁ俺もこのままあっちには戻れねぇからな。ただ1つだけ頼みがある」
「なんだ?」
「............もう少し、人間の尊厳を与えてくれよ」
さっきまで自分の過去をベラベラと喋らされて辛いのか、さすがにどんよりしていた。
「じゃあ3回回ってワンとでも吼えてみろよ」
くるっくるっくるっ!
「わん!......お前性格悪いだろう?」
「冗談だよ」
「冗談になってねぇよ!」
最初から敵意も持ってなかったようで危険な過去もなさそうだから、今のところはレベル2でいいな。
「これでいいはずだ。何も食べてなさそうだけど、ジャックスは肉は好物か?」
「............大好物だ」
ということで、偶然が偶然を呼んだこのたびの出来事で俺は異世界で2人目となる者と接触することができた。
落ち着いた後でキョロキョロと俺の部屋を物珍しそうに見るジャックスをおいておき、俺はコンロに火をかけて冷蔵庫から魔物の肉を取り出した。
実を言えば、結構日にち経っているからいくら時が止まっても感覚的にはあれなので、これの処理をする人数を増やしたい目的もあったのだ。
飯が出来上がると上機嫌にジャックスは肉に食らいつく。
逃亡中は満足に飯も食べられなかったようで、その勢いは相当だった。
そこで俺はこれからやることについてジャックスに全て話すことにした。
嘘と真実を織り交ぜたらこうなってしまった。
話の内容は魔素が消える前にこの世界の異変を察知したある召喚術師がいて、
協力を呼びかけられたので俺は空間魔法という魔力を使わない魔法を報酬として俺の持てる力でもってそれをやることを快諾した。
そして成したいことが迷宮を作り、それを目当てにやってくる血の気の多い侵略者を駆逐していくことで今も残る人族に蔓延る不浄という力を取り除くのだという説明をした。
無論、レティーナ様の件やらは内緒で。
「迷宮を開く............か。なんてーか、とても信じがたい話だぜ。それに20年前に来たにしては何でお前、年食ってねぇんだ?」
といって、長い舌でペロリと口の周りを拭ったジャックス。
「もらったこの空間は、時が止まってるからな。年月たってよぼよぼになる頃に
できてもその後運営ができなきゃ意味がないとは思わないのか?」
そんな答え方をした。
「なるほどな。ま、さっきからお前さんが料理するために使ってたそれやら、この器なんかみりゃ俺の村にも......ましてや帝国にもないようなものばかりだからな。納得だぜ」
俺の言よりもこの部屋にある物で納得されるのもなんかアレだが、まぁいい。
「とりあえずあんたの部屋は迷宮内に作っておくから、これからはそこで寝泊りしてくれ」
「ここじゃだめなのか?」
「隷属されているという事実で気づいてくれ。まだあんたを完全には信用してないし、信用できないのをここに住まわせることはできない」
俺の答えに、そりゃそうかと納得したような感じになった。
まぁジャックスには悪いが、経歴は納得できてもアベさんみたく警戒感も何も示さなかったアベさんと比べればってやつだ。
アベさんが特殊でフレンドリーなだけかもしれないけど。
「このベッドくらいならもってっていいし、風呂も入っていけばいいし、飯も食べさせるからな。せいぜい、信用に足る働き......今は話でも聞かせてもらえばいいか」
「風呂?......まぁ、ご希望に添えるように頑張らさせてもらうか」
そんな感じで俺はひとまず、畑のことや迷宮のことは置いておくことにして折角やってきた情報源であるジャックスから色々この世界のことを教えてもらうことにした。