表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/114

第4層「軽作業と影」

 火炎包丁ができた次の日から早速、広さが球場4つ分となる迷宮空間内の通路を作る作業に取り掛かった。

 方法は、昨夜考えて前に作った迷宮空間色分けシートを参考にして、迷宮内作業用というタイトルのルールノートに俺の現時点の居場所を青でマッピングしておき、もう1つの部屋でノートに書いた地図どおりに砂状にして掘り出す作業を行なうのである。

 

 ちなみに洞穴に入って2mほど進んだ右手に作業部屋があり、対極にも部屋を作ってそこには魔物部屋と呼ばれる再生のオーブが置かれた部屋があるが、中には迷宮内でうろついて侵入者を撃退するための魔物が生み出されている。

 

 ちなみに予定している通りでまずは初心者御用達のゴブリン系にしたいと思って、1ページ分を丸々と使ってこれまた本棚にあるマンガに描かれたゴブリンっぽいものを張ったり、特徴を書いて生み出しているのだがどうも紙が3次元になったような状態の謎魔物として生み出されてうまくいかなかった。

 計画では1階層から9階層まではゴブリン系の予定なので、どうにかしたいのだが今はとりあえず置いておく。


 ともあれ、今は迷宮内軽作業だ。


 地図でいえば迷宮の入り口に入って5mほど歩いたところは、一般的なグラウンド2倍ほどの広さにした。高さは6mほどで上にもゆとりをもたせている。

 これも後々のために念のため広くしておいた。いわゆるラウンジである。

 今はこの空間を全部砂にして、外へ排出していく作業をしている。

 量が多いので、レティーナ様が具体例を上げたその材質を自動で指定された場所に移動させる方法とゲート機能を合わせたものだ。


 まず、作業室の奥に部屋を作り、そこを滑り台のように、部屋全体を傾斜させておきその終点にゲート機能で空けておいたドアを通じて亜空間へとその砂が流れるようにする。

 これだと、玄関から俺の部屋へと砂が流れることになるが、そこでゲート機能で異世界側の開いた場所のどこへでも移動できるのならばと、逆にそれを亜空間側でできないかと考えた時に試した。

 亜空間内の旧・ベランダ側で鍵を使って試してみたら問題なく頭に玄関とベランダのイメージがでてきたのでそれを応用して、亜空間の玄関を出た共有スペース兼通路をさらに100mほど進んだあたりで鍵を使いそちらに繋がった状態にしておけば自動的に砂が亜空間の"お砂場”へと流れる。


 あとはレティーナ様の例を参考に、砂に変わったものは指定の場所に転移するルールを追加することで手を触れた部分からイメージした任意の範囲で砂に変わり、その瞬間砂が消えて、消えた砂は亜空間へと行くというものになることで、運搬いらずの作業でスムーズに作業が行えた。


 計画ではラウンジから迷宮に入るための入り口は、4人が横に並んだほどの幅になっており、高さは4mほどで空間にゆとりをもたせている。

 まぁ、まだまだ爪は甘いがまずは練習という気持ちで行っている。

 あとから楽しい楽しいテスト攻略をするので、それによって品質を上げてどんどんこの世界の挑戦者を楽しんでくれれば御の字というものだ。


 ちなみに4mじゃあ届かないんじゃないかとも思えるが、そこも迷宮魔法という力で補っている。未だ魔力がそこまで豊富にあるわけじゃないけど浮遊レビートで休憩を挟めばずっと浮いていられる一種の無重力体験ができるのはとても楽しいものだった。


 そんな感じで鼻歌を歌いながら手を当て砂に変えて消す作業を進めていった。

 こういう単純でコツコツした作業はやってて楽しい。

 

 そんな中考えるのは、魔力切れの対応である。

 錬金術式練成(アルケミクリエイト)で作った魔力回復ポーションを使ってもいいんだけど、迷宮前の森も有限だからな。亜空間の増殖で慣れてしまいがちになるが現実では採取すればなくなるのである。

 それを考えれば、亜空間か迷宮内に畑などを作ってあの三種を栽培したほうがよさそうだと考えられる。んー、根の部分からとってないから移し変えれば栽培できないかな?

 そんなことを考えながらひたすら1人でまず最初のラウンジ作りを行なっていった。


 しばらく作業をしていると、携帯のアラームが鳴った。

 昼休みだと作業の手を止めて、自分の部屋に戻ることにする。いわゆる滑り台部屋に入り、滑り台のようにして降りて、亜空間側へ行く。後ろを向くとだいぶ山盛になっているためその作業ペースが順調なことに頷いて、扉は念のために閉じておき、また作業をする時に開けておけばいい。


 ここ最近はアベさんにも時間が空いた時などに、色々教えたりしているがあの相棒はその吸収力のせいか、動物なのに人間のような生活をするという現代では考えられないことを普通にこなしている。最近では、自分で狩ってきた獲物の肉を器用に爪で捌き、器用にフライパンを持ってガスコンロで焼いて味付けまで自分でしているし。


 お風呂も教えてからハマっているらしく、自分の部屋で風呂を沸かせてガウガウいいながら寛いでいるのが隣の部屋から聞こえてくることもある。

アベさんって何者なんだろう?とふと思うが......ま、アベさんだしさすがは俺の相棒と自己完結をした。


 自分の部屋に帰ってきた俺に、俺のベッドで寝転んで本を読んでいたらしいすでに動物から逸脱しているアベさんがガウっと挨拶してくる。


「ただいまー」


 言葉が分からないが、なんとなくおかえりと捉えられる返しをするアベさんにいつものように返事をした。冷蔵庫を開けると、まだ中にはたくさんの肉が残っている。ちなみに倉庫にも大量にだ。

自ら生み出し自らが招いた事態は解決したいし、ここにきて日本人精神のもったいないが働いていることもありゆっくりとだが、それらを消費している。


そろそろ肉とうどん以外の穀物や野菜というジャンルも食べたいのだけど。


 豚の生姜焼きのみという昼ごはんを終えて、型落ちのパソコンの前に陣取ると休憩がてら、迷宮内の作業中に考えてた畑について『アレ』を起動しながら考える。


 亜空間レイアウトソフト『アレ』。

 亜空間内において色々な作業を行なえるこれは、画面内に二つの項目がある。

 本やネット、不動産屋で見かける見取り図みたいな画面が左側にあり、右側には項目がでていて、それぞれ天の項目と地の項目というのに分かれている。

 天の項目は、天気や日の入り、日の出、月が出たりと色々変えることができて、地の項目は、地面に関わることで普通の平原、砂漠地帯、荒地、池、湖、海、山、森なども選択ができる。

 湖や海、山や森などは、現在はコスト不足のためか灰色で選択ができない。


 コストというのは、ウインドウ画面の上部にあるファイルやら編集やらが並ぶあたりにあり、右端に表示されたそれは320/1000となっている。

 これが疑問だったのだが、どうやら外の時間が関係しているらしく1日で10ポイント回復しているようだ。最初は迷宮の作業進捗かなとも思ったが、それは関係がなかった。


 ちなみに池などはサイズがあり、1×1、2×2、3×3で最小でも200ポイントだが、海になると最小でも4200ポイントも必要になる。1000であろう最大数が増えるのはいつになるだろうか。今のところ必要じゃないからいいけど。


 操作方法は簡単で、右側の見取り図みたいなところを選択した状態でキーボードの↑キー、↓キーで拡大縮小を調整して設置したい場所を決めたら、そこに左画面の項目で選択した状態で設置したいものをドラッグドロップすれば、設置されたりする。

 池とか固定されているものであればそれでいいが、地面の種類を範囲敷設する場合は選択した状態で敷設の始点箇所で一度クリックしてから、終点箇所までドラッグしてもう一度クリックすればいいらしい。というのも、初日に色々いじくってベランダ側を取っ払った時に"地面:砂漠"で試してみたからだ。


 そのため、現在は天候が晴れの真っ白い空間の中にマンホールサイズの砂漠がぽつんとある状態だった。


 初日にやったうちの改造は、うちの間取りをダブルクリックすると開かれる

 部屋を上から見下ろした見取り図画面で調整した。5とか10とかそれくらいのコストだったので、最大1000コストから考えてみれば、それほど大きくは消費されなかったから楽だった。


 天候は、おすすめという項目があったのでそれを選択しておいた。

 これはノーコストだった。レティーナ様の気分が分からない。


 一日が経つのは完全に異世界側と同調しているので、空間内は時が止まったままだが亜空間にいても針が進むため、異世界側の時間が分かるようになっている。

 これもノーコスト。やっぱりレティーナ様の気分が分からない。


 閑話休題


 コストぎりぎりまで畑用に残すのを忘れずに操作して"地面:土"を設置する。 音も立てずにそれらが設置されるので、確認しにいった。


 旧ベランダ、現縁側に行くと土の地面が広がっていた。

 だいたい一般的な一戸建て規模なので景観は途中まで土の地面、そこから先は

ひたすら真っ白なので風情にかけるがまぁいいだろう。


 さて、畑の区画を作るか。

 広さは、とりあえず3mx3mくらいでいいか。


 区画ができたことを確認した俺はひとまず部屋に戻って、増殖法で増やした杭用の包丁4本とタフロープを取ってきて設置した。


「よし、初めてだからドキドキするな......出ろって念じればいいんだよな?」


 そうして手元に出ろと念じて、様々な色を放つ水晶珠を出した。

 レティーナ様からもらった人材精霊というものを召喚するためのアイテムだ。

 土いじりをするならば土の精霊にまかせるべきだろうと思ったので、耕してもらうために呼び出すつもりである。


 そうしてたださっきのようにただいでよと念じた瞬間、いつものように力が抜けて土の精霊らしいごつごつした岩に目のついたモノが出てきたそれは、小さい怪獣をゲットするゲームにでてくるイシツ○テみたいだった。


 思わず帽子がないのに、つばを持って後ろにやりたい衝動に駆られたがグッとこらえた。何より縁側からアベさんの視線も感じるし。

これで命令すればいいんだよな......たしかそうだったはずだ。


「じゃあ、土の精霊。この区分けされた土を畑用に耕してほしい」


 俺の指示にコクンっと頷いた精霊は、区画へ向かって飛んでいって両手でガツガツ掘り始めた。うっすら光を宿すその両手(?)でどんどん耕して行く。

 しばらく作業を見ていると、終わったのかこちらに来てコクンと頷いた後持っていた水晶玉の中へ消えていった。


「指示されたことを終えると自動的に消えるんだな、なるほど」


 畑用に耕された区画を見ると、どこかで見たかのような畑っぽい状態になっている。これでいいのかよくわからないけどひとまずは実験だと割り切って今度は、水の人材精霊を呼び出して畑に水を与える。水の精霊は全体が水色に透き通っている狐のようなケモノっぽいものだった。


 土の精霊と同じようにコクンと頷いて消えると、ありがとうという意味も込めて一撫でして消すと縁側に向かう。


 こちらを見ていたアベさんに、


「アベさん。俺が作った薬の原料になる薬草の根を取りにいくから手伝ってくれ!」


「ガウ」


 俺の言いたいことが理解できたかのようにアベさんが先行して玄関へと向かっていった。

 カバンを肩にかけて俺とアベさんは周辺の三色の薬草を探すため森の中へ進んでいく。ここで俺の短所である1つのことに集中すると、別のことが疎かになるというウィークポイントが災いした。

 

 それは迷宮内作業をしていたのにいつの間にか、森へと向かうことになったことだったり、鍵を回収し忘れドアノブが少し開いたままのそれを放置してしまったりなのだが、俺はこの時にはその結果がああなるとは、知る由もなかったのだった。


――そう、放置されていたドアを覆うような影を。



 * * * * *



 一通りの三色薬草を生えている周囲の土ごとかばんに詰めた俺とアベさんは、迷宮の入り口に戻ってきた。と、そこで開かれた状態のままである亜空間への扉を見つけた俺は内心で焦った。


「しまった!また俺の悪い癖が」


 自分の愚かさに舌打ちをしながらもゆっくりと近寄る。ここでこちらの世界の住人が入ったとなれば、口封じをしなければならない。

 何せ亜空間の存在はアベさん級の信頼がないこの世界の誰にも知られてはいけないことなのだから。


「アベさん、中に誰かいるかわかる?」


 扉が開かれているところまで進み、小声で先行したアベさんに聞いてみる。

 じっとしながら中の様子を伺うアベさんがふいに俺を自分の後ろに隠した。


 てことはつまりいるってことか。

 俺は見につけているかばんを地面に下ろしながらも、考える。


 魔物か、人か。魔物であればただ狩ればいいのだが人族だった場合は......。

 人の場合は外から来たということになるな。外の......つまりは、この異世界の情報が俺よりも詳しいことになる。となれば――


 そこまで考えた俺はアベさんに言い放つ。


「アベさん、魔物と人族は向かってきたら殺してもいい。ただ、人族の場合に抵抗がないようだったら捕り抑えてくれれば俺が持つ力で隷属させるようにするから」


「ガウ」


 俺の伝えたいことを了解してくれたアベさんに感謝する。

 

 こんなピンチとも言える場にありながらも、そんなアベさんの頼もしさに甘えて俺は、レティーナ様からもらった力の最後である 生命契約(ライフプロミシズ)の実験をすることに決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ