プロローグ1
始まりの物語です。
そのために2月1日から始まる予約投稿をしております。
未熟なところばかりでございますが、
お気軽に読んでいただければと思います。
――明けない夜はない
今のオレの心境とは間逆である。
――夜は一向に明けることはない
うん、ぴったりだった。
『――少年Aは、6年前に最愛の妹を犯人の惨たらしい欲によって命を散らされた。彼の凶行はそのための復讐だったのだろうか?……拘置所で今彼はどんなことを考えているのだろう』
世間一般での俺に対する解釈はそんなことらしい。
いちいちTVっていうのはこういう”ストーリー”にこだわるようである。
結局は他人事だからと、それに思うところはない。
この人たちもそれで食っているんだ。
しかし――過剰とも言えるその取材スタイルは俺の現状を悪いほうへと向かわせてしまっているのも事実である。それが今まさに自宅警備員となっている俺の現状に繋がっているのは、罪を犯したものの罰ともいうべきか。
罰に後遺症があるならば、きっとこういう状態なんだろうなと思ったほうがまだ気は楽かもしれない。
そんな自宅警備員化した俺は、いつも見ていたTVのそういった雑音をなんとも言えない気持ちで消すとやることがなくなったのだが、ある一言がきっかけになって引きこもりの代名詞となるゲームという分野にデビューすることになる。
それは、電話口で『じゃあゲームやれば?』と幸いにも、こんな俺にも残っていた唯一の友達と呼べるあるオタクの一言からだった。
その一言にまるで天啓でも閃くかのように俺は生活費を切り詰めては、買ったゲーム機で色々な分野のゲームをやる日々を送ることになった。
両親の配慮という理由から1人暮らしをはじめた俺は、成績次第での振込みがされ、オタクの友達に教えてもらったネットマネーを使った支払い方法によって外に出ることもなく今のように惰性で生きていくには都合がいい状態だ。
2年間は続くこの生活に変化を与えたいところだが、ネットでどこかのバカが俺の顔写真やら個人情報を垂れ流したおかげで、外はマスコミだらけ。
それが先のTVでドキュメントタッチとなって俺の目に触れるというサイクルができてしまうのは皮肉だと思えるのは間違ってないと言えるだろう。
覚悟できてたはずなのにな。
そんな17にして達観したかのような状態にいる俺は今、ゲーム中である。
眠くもないのに出るあくびはなんなのだろうと思いつつも、1人暮らしでは当たり前なのか独り言を呟いた。
「ふぁあ~ぁ……あと2時間くらいかな?これでこのゲームもコンプリだ」
今やっているダンジョンメイカーというダンジョン運営モノのゲームの話だ。
1週間前からやっているが、割とバランスもよくクリア後が本番とも言える昨今のゲーム内容を踏襲したかのようなヤリコミゲーだった。時間的には以前買ったあの悪魔的な桁のステータス数値が話題のデモガイアというゲームくらいだと感じた。
俺のコンプリ趣味が祟り本体経由のネットでしか手に入らないダウンロードコンテンツでしか手に入らないものも購入しているので、月に買えるゲームは2、3本がいいところだが、今回のはまぁ少ない投資だったと思う。
この他にも、昔は一斉を風靡したといわれる家庭ゲーム機の王道であるネット通販で取り寄せたレトロなゲームなどもやっているのだが、入手困難なゲームカセットもあるので、こちらも今は頑張って継続中だ。
一言から始まった自分の意外な凝り性に内心は、がっかりである。
なんせプレイするもの全て、完全にやりこまなければ気に入らないのだ。
やり込むというのは、レベルマックスは当たり前、エンディング回収、図鑑100%とかで初めてやりこんだといえる。
俺が何にがっかりしたのか、それは俗に言う課金兵というやつで俺みたいなのがプレイしちゃだめなゲームだった。
俺の場合は俺に天啓を与えたそのオタクに教えてもらっていたMMORPGというやつだが、携帯モノのやつはやるなと注意を受けているため、最悪なことにはなっていない。
攻略に際しても、ネットに記載されている攻略wikiなど活用したこともない。
大学ノートを大量に買い込んで、メモして攻略していくアナログな方法が主だった。
……そこまで何かにめりこむことはなかったんだけどな。
暇というものはそこまで人を変えるらしいと思うとため息が漏れそうだった。
「喉渇いたな~……っと、ハミガキして寝オチできるように準備だけはしておくか」
そんなことを考えながら、プレイ中の手を止めて1Kの独特と言っていい狭いキッチンで残り2杯分くらいしかない麦茶をコップについで飲み干した。
「微妙に残る麦茶の残りに毎回憤って、次こそはきちんと収まるコップをと思いながらもそれを後回しにしてトイレに行くというわが身の情けなさや如何に、だな」
そんなことを呟きながらチラっと見えた冷蔵庫の中身を見て、そろそろママゾンで注文するべきかと考えながらキッチンの真向かいにあるトイレ付ユニットバスという1人暮らし御用達の洗面所へ入り、ハミガキをする。
しばし磨いていたが、そういえば洗濯機回してなかったと思った俺は、近所の人に心の中で謝罪しつつも、夜も遅いのに回し行くことにした。
そんな俺は浴室を出た瞬間、突然の事態に固まった。
物理的じゃなく、精神的なショックで、だ。
その心の衝撃に俺はおもわず、くわえたハブラシを落としてしまった。
フローリングに落とした時に鳴るものじゃなく、どちらかといえば硬質な石にでも落としたかのような軽い響き方をしたそこはとても真っ白い空間だった。
落ちた音に不思議な気持ちになった俺は、下を見てその変化に気付いたのだが、横目にチラっと見えた人影が気になってそちらを見る。
「夜泉 拓人……ですね?」
どこまでも続くような真っ白い空間が広がり、俺の部屋がどこにも見当たらないその空間には人が立っていた。こちらに笑顔を見せる女性は絶世の美女とでもいいそうなほどの綺麗な容姿をしている"人"だった。
未だ呆然となった俺に、その女性はいつの間にかそこにあった応接室などにあるようなテーブルとソファへ案内された。
(コレって所謂異世界なんたら……そういうやつか?)
そんな考えが咄嗟に出てきた自分に呆れるやら何やらで、未だ目の前の女性に対して呆けてなのか現実離れした状態に呆けてなのか分からないままソファに座った。
どこから出したのか分からないカップにティーポットで注いだ飲み物を勧められた俺は、警戒もせずに飲み干してようやく思考が回復してきた。
味は紅茶のような口当たりだった。
「あ、あの……」
そんな俺の戸惑い第一声の言葉に女性は、申し訳なさそうな顔をしながらも話しだした。
「突然、このようなところに連れてきて申し訳ないと思っております。しかしながら、私がそちらの世界へと直接向かうことはできないのであなたを招くこととなりました。そして、あなたには是非お願いしたいことがありましたのでお連れした次第です」
「お願いしたいこと?」
「はい。……ああ、申し遅れました。私はあなたの住む世界とは別の世界で
生と死を司っておりますレティーナと申します。以後、お見知りおきを」
そう告げると、頭を下げてきた。
俺も慌てて頭を下げて名乗ろうとするが、さっき自分の中二病くさい名前を言った彼女が俺を知っているようだったので、頭を下げてどうもという日本人的な返しをした。しかし、司るというのはなんだろうか?
「あの、神様的な何かってことでいいんですか?」
「それほど大層なものではありませんよ。私の管理する世界を創造された方はもうすでにいらっしゃいませんし、残されたその世界を管理するための管理人と思っていただければ幸いです」
それを神様というのではと思ったが、あえて口に出すことはしなかった。
その輝くような金髪の御髪を浴衣を着た時のようにかきあげた髪型とナイスバディとも言えるスタイルに、ぴっちりしたOLのスーツを着たその美しさと気品だ。その容姿をみれば、間違いなく彼女は女神級だと思う。
だから勝手に崇拝することにした。
てか、管理している世界というと地球じゃなく、別の星か平面世界なんだと推察できた。生と死も気になるところだが、一応目的を教えてもらおう。
「分かりました。それで、俺をここに召喚?を……した理由は?」
「率直に申し上げますと、あなたには私の管理する世界にて迷宮を創造しそこの運営をお願いしたいのです」
「迷宮創造と運営?」
こういう状況でありそうないかにもな勇者となり魔王を~みたいなのではなく、ただ迷宮を作って運営という答えに少し驚く。残念という気持ちではなく、先ほどまでやっていたゲームがまさにそのジャンルだったからだ。
てことは、さっきのゲームの世界観でってことだろうか?
「ええ。目的は、生命のバランスを取るため……といったところですね」
その後に語られる内容に俺はところどころに疑問を挟みながらも一通り聞くことができた。
つまりは――
彼女の管理世界は簡単に言えば、魔法がメインとなる世界だったようだ。
その世界での魔法とは、魔素と呼ばれる力を体内に取り込んで行使することがメインとなる技法らしい。厳密には違うのだがそういう認識でいいといわれたし、それは特に重要ではなくもうすでに"無い"ものと言うことのようだ。
そんな魔法による発展を成し遂げたはいいが、弊害も生まれたらしい。
基本的に魔素とは生物にとって有害なものであるそうで、生まれたばかりの命は、特にそれが顕著であるそうだ。時には耐えられず、狂ってしまうことも多々あり、本来は祝福のつもりでそういう魔素を生み出したのだが弊害による生命の暴走なども影響して、当時は問題になっていたそうだ。
しかしこれも、そこに住まうものたちによって対策がなされ、序々になくなってきて平穏を取り戻していった。
だが、ある程度の魔法文明を構築するといつの間にかその世界はそれ以上の発展の兆しが見られない状態になったそうだ。
停滞する発展を打開するべく色々と考えたようだが、直接的な答えはないまま時は過ぎていく。
ここまで進んだ魔法世界を今更放棄することはできないと感じた当時の管理者たちはせめて成り行きを見守ろうとしたそうだ。
だが、ある時そんな彼らを裏切るかのような事件が起こった。
とあるものたちがあらゆる生命を脅かす側へと向かっていき、管理者による調整によって追い詰められたモノの中から、さらなる力を求めて、外側にいる管理者の存在を認知し、あろうことか力まで奪おうとしたそうだ。
管理者たちは創造した存在による権限で、直接生命を消すことができなかったために間接的な手段で手をいれて、それらの愚か者たちを駆逐することに成功した。しかし、自分たちに牙を向くようなことをしたことに激怒した管理者たちは全ての魔素を消し去って、失望と落胆を残してその世界から去っていったということだった。
残ったレティーナ様はそれでもとあらゆる道を模索したそうだ。
その間にも、魔素の消えた世界は乱れに乱れて魔法を使えなくなったモノたちによる他国への疑心暗鬼により、争いが起こることになる。今まで調和の取れていた世界は、争いによる弊害が元である種の生命だけが極端に増えていき、ある種の生命が極端に少なくなっていくということとなった。
今まで争いが起こってもそれは魔法を使ったものによる争いが主なもので、世界の物資的に考えれば比較的に軽微な消費だったのだが、魔素が消えて魔法が使えなくなったことによって物理的な力によるぶつかり合いはいわゆる武器や防具を使用しての戦争で魔法による戦争とは違う規模の"資源"という生命を代償にした争いへと変質するだけになったそうだ。
また、それによって生まれる穢れが生命の欠片に付着することによって、世界はマイナスに比重が傾いた方向へと向かっていった。
穢れとはつまり、ただ穏やかに日々を過ごしていた者たちが死ぬことによって生まれる怨嗟や恨み、憎悪であるということだった。それが積み重なっていくことで、穢れが生まれてそれが人に狂いを与えていく原因へとなるらしい。
穢れが付着することが多いもの、それは魔物を狩ることを生業とするモノ、戦争で身を立てる傭兵といったモノたちに多かったようだ。
先に触れた増加するものがそういったもので、減少していったものが日々を穏やかに過ごしていたものだという。
ようするに、肉食動物が増え、草食動物が減ったみたいな感じかな、とそこまで聞いて俺は思った。
魔素が消えて20年が経ち、現在は少し小康状態を保っているそうだ。
この機会を狙って異世界で情報収集をした際に偶然見つけたのが、俺と俺のやっていたゲームだったそうだ。
それで現在の生命バランスに帰結するわけか。
なんていうか、ここまで聞いているととことんベクトルが間違った方向へと向かっている気がする。昔のことなんて知らないけど、自分の世界である地球の歴史も似たようなものと習った気がする。
ここまで聞いておおよそ迷宮創造と運営をする必要性を理解した。
ようするに蟻地獄を作って、そういう魔物狩りのやつや傭兵といった蟻をおびき寄せるわけだ。
「俺にやってほしい迷宮創造と運営っていうのはつまり……穢れを持つ生命であるそういう種類の生き物を減らすことですか?」
「はい。あなたなりの解釈でいえば、餌の罠を作り、定期的に管理して、かかった獲物をその罠の中で駆除といった流れになると思います」
そういう迷宮か。
しかしこの女神様も言うときは言うなと関心した。
理由は分かった。しかしなんでそれが俺なんだろうか?
偶然でもそれをプレイしていたゲームであってもラノベやらみたいに選ばれた理由に釈然としなかったので、聞いてみる。
「あなたを選んだ理由は、あなたのゲームと呼ばれる遊具とその内容で判断をしたのが主な理由です。もちろんあなたの人間性も鑑みた結果も含まれますし何より――」
「何より?」
「見ていて、あなたはもうあの世界に幻滅しているように感じましたので」
…………。
「……正解ですね、それは」
もはやあとは、いつ冷めるともないマスコミやらそれらから逃避するためにだらだら勉強して点数稼いで、ゲームして一生を過ごす覚悟はできていた。
ここまで育ててくれてなおかつ迷惑かけっぱなしの両親には悪いが、生まれたときから不自由な思いをしてきた妹を殺されその犯人を殺した時点で変わってしまった1人を除いた友人知人以外に、あちらにはもう未練はない。
世間からの非難なんて覚悟した上でやったことだ。
まぁ、さすがに顔バレやら住所氏名バレは考えてなかったけど。
「今の俺だったら……もってこいですね。たしかに」
それならこっちでの生きがいを示してくれた人のために残りの人生で何かをするのもいいだろうと思った。
「了承いただく前に一点注意があります。あなたの世界とこちらの世界では構成体が変わりますので、一度了承し、こちらの世界へ来ることとなれば戻ることはできないことは伝えておきます」
戻れないか。まぁ、戻れないよな。そういう理由で選ばれたんだから。
こうなってしまった俺を最後まで心配してくれ暇つぶしの天啓をくれたオタクの親友のアイツが頭を過ぎる。
俺以上のゲームバカで、夢見がちなヤツだけど憎めず俺があっちの世界で唯一心許せる存在だった男。悪いなと思いつつ俺は逃げる選択をすることにした。
「そうですか……。ま、俺なんかで役に立てるのなら是非、お手伝いさせてください」
「……あなたの協力に感謝します」
俺の了承に心の底からの笑顔を浮かべるかのような顔でお礼を言ってきたレティーナ様に多少ドキっとしながらも俺は幾年ぶりに浮かべたであろう笑顔で返した。
こうして俺の異世界での迷宮創造と迷宮運営の生活が始まるのだった。