第5話 大晦日と元旦
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2013.09.17 誤字脱字を修正しました。
2017.02.18 話数の表記方法を変更しました。
今日は大晦日。
大晦日と正月はあるらしい。
テレビがあるわけではないので、紅白○合戦とか無いわけで。
基本的に働かない日らしい。それだけ。
年越し蕎麦はないみたい。
そもそも蕎麦があるかもあやしい。
正月三が日も、これまた日本と同じである。
元日は諸説あるが、暦の始まりである事実以外はよくわからないらしい。
最大宗派は、「暦の始まり、新年を無事迎えることが出来たことに感謝」だとか。
2日は「姫始め」をすることになっている。
ホントにするかどうか知らないけど・・・。
3日は、知らんって。教会の人にでも聞けってさ。
4日は仕事始めといって、お仕事がんばれっていうことらしい。
商売人は、こぞって初売りという催しをして一年の験を担ぐみたい。
ちなみに聖十字教というのが最大宗派らしい。
ここには教会もないから全く関係ないみたい。
でも、お国の方針と風習により、大晦日と正月は従っているらしい。
魔法とか魔術の方面の人は、宗教に興味を持たないほうがいい。
母さんがそう言うならそれでいい。
十字っていうと、アー○ンとかいう人たちを思うのだけど似たようなものなんだろうか。
ちなみに、生前は仏教系でした。
そうはいっても、クリスマスプレゼントは買ってもらってたけどね!
父親サンタシステムは無かったけど。
何が言いたいかというと、そんな日でも夜には気絶させられました。
つまり、普通に訓練です。
ただいつもと違うものを食べているようでした。
俺はお乳ですけど。
◇◇◇◇
今日は母屋で他の家族にあいさつするらしい。
元旦だしね。
他の兄弟とは今日が初顔合わせです。
言葉は極力発しないでね~、と母さんに言われてます。
つまり、俺はいるだけで顔合わすのみということですね。
今日で家族構成の謎が解ける気がします。
「あけましておめでとう~、ございます~」
「今年もよろしくお願いします」
「あけましておめでとう」
「はい、リリビアさん、カノン、あけましておめでとう」
これが父親か。
若いじゃないか。
26、7歳ぐらいか。
身長は高めで、意外と細マッチョか。
「起きているときのフィルの顔を見るのは初めてだな~。本当に大人しいな~。ほれほれ、私が父さんだよ~。」
「『父上』ですよ!」
「うん?」
「妾の子にはきちんと立場を弁えていただけなければなりません」
「い、いや、妾ではく側室という事に・・・」
「妾です!」
「書類には『側室』と・・・」
「そんなものは早く訂正してください!」
「まぁまぁ~、何でもいいですから~」
こいつが正妻というわけか。
こりゃまた気が強いな。
いや、「父上」も意外に気が弱いのか。
「父上」なんて言わすからちょっと構えてたじゃないか。
ビビって損した。
姉さん女房というわけですな。
30歳ぐらい?俺と同い年?
あ、生前のね。
父上はちっと頼りないな~。
こっちにいるのが俺様の兄弟か。どれどれ・・・。
「まだ分からんとは思うが、あの背の高いのが長男のウィレムで11歳だ。次が次男のヴァロムで9歳、4歳の長女ネリス、3歳の次女メアリ」
「おめでとうございます。リリビア様、カノンさん」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます~」「おめでとうございます」
「分かっていると思いますけど、男爵の爵位は長男が継承しますので」
「はい~、いいんじゃないでしょうか~」
父親は男爵なんだ。
「貴族被れ」ではなくて、貴族なのか。
だから「父上」なのか。なるほどねぇ、そういうことか。
継承権がらみで、先手を打っているわけだ。
じゃあ、長男以外は俺と同じく、将来は職探しが待っているわけね。
お互いつらいね~。
特に次男!
魔力なんてほとんど感じないね。
将来が就職難じゃないことを祈る。
「祖父様は~?」
「オヤジか?カイト達を連れて山に入ってる。盗賊が気になるとかで。元旦ぐらい休めばいいのに、他の者が休んでいるときに来られたら厄介だから行かねばならん。それも領主の務めだってさ。理屈はわかるが、俺は休みたい。領主だから!」
なかなか「祖父様」は元気なんだな。
そして武士だな。いや、騎士道精神ってやつか?男爵だし。
「カイトももう歳なんだから、オヤジに付き合わんでもいいのにな~」
「そうですよ。あんなに優秀で信用のおける奴隷はなかなかいないんです。カイトの契約を譲っていただかないと」
「いいじゃないか、解放してあげても」
「ド田舎の貧乏貴族なんですから、お金のかからない労働力は貴重なんです!」
「人頭税払ってるのは俺じゃないか」
「人頭税なんて安いじゃないですか。それ以上に立派に働いてくれてます」
「それはそうなんだが・・・」
カイトさん、すごいな。どんだけ頼られてるんだ。
奴隷らしいけど・・・。
奴隷ですか、そうですか。
うーん。奴隷かー。
奴隷もあるんですね~。
でも、こっちの世界の奴隷はそれほど劣悪でもないのかな?
税金掛かるぐらいだから、社会の一部として成り立ってるんだろうな。
よくわからんけど。
「今年は、フィルもいて、金もあっていい正月だ」
「開拓は進んでないですけど?」
「人とが増えんことには、無理してもしょうがないんだろ」
「リリビアとカノンのおかげで豊作だし、盗賊も減ったし」
「豊作は関係ないよね~、カリン~?」
「肥料と炭の効果じゃないでしょうか?病害も少なかったようですし」
「天候のせいじゃない~?」
「真偽のほどを分かりませんが、領地のためになるのであればもっと活動してくれてよいのですよ?それは妾であろうがなんであろうが構いません。このルドウィジア男爵領の発展が一族の悲願ですから」
「まぁ、たしかに一族の悲願かな~。出来るならもっと大きくして辺境伯のようになってみたいな。しかし、俺のじいちゃんが開墾して男爵位とともにもらった土地だからな~。まだ足りない物だらけだ」
気が強いけど、ちょっと重たいのね。この人。
でも全然良い人じゃん。
ちょっと自分の長男に優先しすぎではあるけど。
「このままだと、辺境伯様からも忘れられてしまいますよ」
「借金返済があるから、忘れられることはないだろ~」
「お金といえば、リリビアさん。本の代金とか、技術量とかいうお金、ありがとうございます。税以外の現金収入は非常助かります」
「お金はいいんですよ~、暮らしていければ~。そんなに稼げてもいないわけですし~」
「ですけど、もっと魔法を積極的に活用していただけると助かるんですけど??」
一言多いな、この人。
きっとストレスが多いんだな~。
どんな経緯かしらんけど、こんなド田舎に嫁いだんだもんな。いくら男爵とは言えな。
まぁ、そう関わることもないだろう。
「そうだよ、もっと積極的に。その控え目な部分はカノンの胸だけで十分だ!もっと積極的に、楽しもうぜ!」
同じ匂いを感じる。
やっぱり、こいつは俺の親父だな。
「俺はあと2、3人は子供が欲しい!」
「ふふふ~」
「あらあら~」
「っ」
え?どういう事?
どど、どういう反応なの??
カリンまで食ってるの!!?
このオヤジ、むかつく・・・。
いや、この体じゃ無理だな。
勃○するまで12~15年はかかる。
15年たてばストライクゾーンから外れる可能性のほうが高い。
うん、諦めてこの好き者のオヤジに譲ろう。
いい意味で兄弟が増える。
正妻の姉さんの反応もおかしい。
あれか?家族増えることには反対しないの?実は子供大好き?
妾とか側室とかこだわるのに?
ってか、一夫多妻制だから夫の浮気にぐちゃぐちゃ言わない風習?
あ、父上が貴族だからか!?貴族は一夫多妻制!!?
俺は貴族になる!!
◇◇◇◇
「だれかこっちに向かってくるよ。でも、まだ結構遠い感じ。」
「ん~、誰かしら~?」
「人数とか分かりますか、フィル坊ちゃん」
「3人。この感じは、一般人じゃないですね。魔力が多いです。でも・・・なんか、楽しそう??」
どういう事??
「この時期なら、メルル兄弟でしょう」
「そうね~。挨拶に来てくれるのよね~」
「彼女達は、狼人族の兄弟です。メルルとウルルが双子の長女次女、下に弟のラウル君です。」
「ブラッテさんもいるんじゃない~?」
「あ。確かにもう一人いる。これは普通の人ですね」
「メルルとウルル」ってどこかで聞いたことがあるような・・・。
気のせいかな?
名前の最後に「ル」を付けているのは偶然ですか?
狼人族のネーミングルールですか?
獣人族がいるんですね。そんな気はしてました。
魔法があるなら、悪魔だって、幽霊だって驚かないですよ!
いや、幽霊はいないほうが個人的にはうれしいです。
悪さをしないなら幽霊だって友達になってみせるさ!
まだ友達いないですけど・・・。
どうやら母さんが若いことにメルル達の命を助けて、それかから恩を感じて一緒にいるらしい。
そして俺が生まれる前は、この家に住んでいたらしい。
一般に体が弱い赤ん坊と一緒に住まないほうが病気の心配が少ないとされている。
犬や猫、馬なども避ける。それがこの世界の風習らしい。
うーん。なんか悪い事したなぁ~。
「ブラッテさんってどんな人~?」
「母さんの奴隷さんなのよ~」
「奴隷持ってたの!?」
これは意外。
母さんが奴隷持ちだなんて・・・。
基本的人権はどこ行った!
そういえば、幼児虐待に近い訓練している僕も被害者か?
いや、そういう意識はほとんどないし、好き好んでやっているから違うのか?
ま、奴隷制度がある時点で平等とか言う考えは無いんだろうな~。
奴隷にならないように生きていかないといけないわけだな。
「ブラッテさんは、ちょっと特殊な方法で迎え入れたんですよ、フィル坊ちゃん」
「ほほぉ~?」
「ブラッテさんの弟さんが~、母さんの兄弟子でね~。ブラッテさんの家が借金抱えて潰されてね~。たまたま母さんがそれを知って~、ブラッテさんを買ったのよ~」
「格安で、です」
「ふふふ~。ブラッテさん達は~、ある一家に嵌められて~、借金抱えて~、奴隷に身売りして~、返済したっていう経緯があるわけよ~。それをたまたま知った母さんが~、その一家に夜襲をかけて全員半殺しにして~、ブラッテさんをただ同然で買い取ったって訳~」
「あれは奴らの自業自得です」
「そうね~。ブラッテさんのご両親は亡くなってるしね~。あ~、フィルちゃんに火の粉が降りかかることは無いと思うわ~。下手人は両目を潰しておいたし~、一家は全員に~、私達に今後かかわらない事を誓わせた上で~、全員の小指を落としてあげたから~、もう関わってこないはずだわ~。関わってきたら殺すわ~」
「そ、そうですか・・・」
なんと残虐非道な。
うちのオカン、怒らせたらマジ怖いです。
極道です。小指を詰めさせるなんて。しかも一家全員に。
コレはコレで犯罪じゃないの?
アレか?
告発したら、捕まる前に全員殺すぞって事か。
虐殺已む無し、と。
この世界は危険と恐怖が一杯です。
向こうの世界の母上、父上はご健在でしょうか?
そちらの世界に生んでくれて感謝します。
それはそれとして、ブラッテさんって人は奴隷さんなのか。
どう接していいのやら・・・。
「フィルちゃんは~、別に奴隷ってことを意識する必要は無いわ~」
「私達も普通に接しています。手続き上、身分が奴隷なだけです」
「ここは嘘でも男爵家だから~、面倒なことはしたくないのよ~」
何が面倒か全く理解できないが、そういうものなのだろう。
「ブラッテさんはもう血縁者はいません。それにもう私達の家族です」
「そうそう~、メルル兄弟とも一緒の家族なのよ~」
「そうでしたか」
なるほどね。
リリビア一団はおいらが生まれる前から、なかなか人数がいるのね~。
当主がリリビアで、序列1位がカノン、次にブラッテさん、そして、メルル兄弟という順位か。
俺様は、序列1位なのかどうかってところか。
カノンが世話してくれているところから察するに、序列1位で良いような気がする。
まぁ、アットホームな感じだから序列なんて無いはずだが。
いやいや、本妻や父上が関ってくると非常に厄介だぞ。
これは面倒だな。
考えるのはやめよう。
きっと本妻とはあまり関らないだろう。
母さんがそうしているから。
◇◇◇◇
「あけましておめでとう、だよ」
「ありましておめでとう、だよ~」
「ありましておめでとう、だ!」
「あけましておめでとうございます」
正門から挨拶が聞こえるな。
きっと最後の挨拶がブラッテさんだな。
勢いがあるのはラウル君だな。
一応、向こうが年上って事だから、「君」より「兄さん」が正しいのか。
なんか抵抗があるのは差別意識が僕にあるのだろうか・・・。
「ありましておめでとうございます」
テレンという長年勤める老婆のメイドが挨拶しているようだ。
この婆さん、50年ほど勤めているらしい。
なんとも元気な婆さんである。
いや、健康とか長生きっていみだよ?
夜のほうじゃないよ?
「あけましておめでとう!元気にしてたか!」
「元気、だよ」
「元気、だよ~」
「だ!」
ラウルの兄さんは、まだ言葉が怪しいな。
「そうか、そうか。そっくり過ぎて分らんな。はっはっはっ。リリビアは中にいるはずだ。行っておいで。」
「はい」
「はい~」
「・・・」
双子の見分けがつかないのをごまかしたな、父上、いやオヤジ。
うーん、そんなに似ているのか。
「あけましておめでとう、だよ」
「ありましておめでとう、だよ~」
「ありましておめでとう、だ!」
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう~」
「おめでとうございます」
うん、ここは黙っておこう。
まだ赤ん坊だし。
「この子、リリビア様の子供、ですか?」
「この子、リリビア様の子供、ですか~?」
見た目は全く一緒ですな、この姉妹。
狼というか犬のような耳と尻尾意外は完全に人間ですね。
犬歯が少し鋭いのか。
ほかは分らん。
あと、毛の色は黒と白が生えているんだね。
「フィルっていうのよ~」
「フィル~、私、メルル、だよ」
「私、ウルル、だよ~」
「ラウル、だ」
メルルとウルル、似すぎ。
もう分りません。
「私達、5歳、だよ」
「2歳、だ」
「フィル様、始めまして。ブラッテと申します。・・・45歳です」
「ふぉ~」
ノーリアクションは失礼だろうから、赤ちゃんぽく振舞ってみたがいかがでしょうか。
必要の無い演技?このままで大丈夫?さて、どっち?
「今日は止まって行ってください」
「そうね~。もう夜だし、ゆっくりしていってね~」
「はい。ありがとうございます」
「フィルちゃんは、これからご飯食べて寝かせるからちょっと待っててね~」
え?
ボクチンの交流は?
いつもの訓練ですか?
あ、そうですか、そうですか。
いや、寂しいとかそんなことは無いよ?
夜のお勤めは大事ですから。
あ、いつもの気絶する訓練の話です・・・。
うちのオカンは厳しいな~。