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ラッキーパイル2

 未だかつてこんなに放課後が待ち遠しいことがあっただろうか。

 これからが本番というのに、カナメはひどく疲れた表情をしている。

 リズの言葉の件については、考えれば考えるほど深みに嵌っていく気がしたので、会うまで考えるのをやめた。

 そもそも彼女が何をいうか判らないので、考えるだけ無駄だと悟ったのだ。

 それよりも問題だったのが、事後処理である。

 例えるならリズが食い散らかしていった後片付け。

 悪食もいいところである。

 始業前にはキスの件が全生徒の耳に入り、休憩時間は見世物状態。

 ネットワーク検索サイトのワード別検索ランキングでは『360学区 カナメ』がトップテンにランクインしていた。

 一日にしてリズのファンから貰った果たし状は三桁を超え、さらに『ユリ嬢とシオリ嬢を魔の手から守る会』などという組織から連名で呪いの手紙が届いた。

 まあそれすらも前哨戦である。

 本当に辛かったのはユリとシオリからのプレッシャーだった。

 隠していることを洗いざらい話せという脅迫が一日中続いたのである。

 頼みのコウタは口を開くと「裏切り者」「モテ男」「種馬」「エロ貴族」などと暴言を吐くばかりで、聞く耳を持ってくれなかった。

 そしてやっと訪れた終業のベルは、四面楚歌のカナメにとって、悦びを告げる最高の報せではあるが、試合開始を告げるゴングでもあった。

 校内に鳴り響くチャイムと同時に教室を出るカナメ。

 終業が近づくにつれ、増していく全方位からの殺気。

 各団体、組織、コミュニティの連中がばっこして襲撃をかけてくることが予想された。

 廊下に出ると、早くも各教室から飛び出してきた戦士たちの挟撃に遭遇した。

 後ろはすでにユリとシオリが塞いでいる。

 捕まると私刑とまでは行かないだろうが、リズとの接触を禁じられ一晩中の尋問が待っている。

 考えている暇は無い。

 前もって空けていた窓に足を掛けるとアイテールを充満し一気に跳ね出した。

 教室の窓からの脱出も考えたが、グラウンド側はより危険だと判断し、中庭を突っ切る裏門からの脱出を選択した。

 4階からの跳躍、溜まりに溜まったストレスを風が洗い流す。

 アイテールによる身体強化をまともに出来る者であれば、この高さからの落下は造作も無いことだが、アビリティに頼り切っている者はえてして練度が低い。

 まあこの高等部の生徒であればおそらく全員可能だろうが、実際にこの高さから跳んだことのある者は少ないだろう。つまり出来る実力を持ちながらも、怖くて出来ない者が多いということだ。

 背後からカナメを呼ぶ声が響く。

 決して振り返らない。

 幾つかの気配が近づくのを感じるが、このまま逃げ越すまで。

 走る足に力を込めた瞬間だった。

 直後に迫る気配。

 「シオリかっ」

 「カナメ、選択は2つ。このまま私の部屋へ行くか、連れて行かれるか」

 「選択になってない。どっちも断る」

 「そう残念。なら連れて行くまで」

 シオリの手が伸びる。懸命に逃れようとするが、彼女の足は速い。

 距離はすでに一歩分、まさに捕まる寸前だった。

 「カナメエエエ。ここは俺が引き受ける。お前は行くんだ」

 「コウタッ!? どうして」

 間に割り込んできたのはコウタだった。

 一日中悪態をついていた彼が窮地を救った。

 「俺は気づいたんだ。本当の友ならば、真の友ならば旅立ちは祝福してやるべきだってな」

 カナメは目頭が熱くなる感覚に襲われた。

 「これが友達ってやつなのか……、本当にすまない。恩に着る」

 身体を張って送り出してくれる友に心からの感謝を述べる。

 「なあに気にするな。その代わりリズに友達紹介してくれるように計らってくれよ。男同士の約束だからな」

 急速に冷める友情。

 「おいっちょっと待て。それは」

 「黙れカナメ。こんなところグズグズしてる暇は無い。ユリもすぐそこまで来てるんだ。だから俺に構わず先に行けえ」

 「いや、そうじゃな」

 「バカヤロウ!最期の別れってわけじゃないんだ。だからサヨナラは無しだ。分かったらさっさと行けええええ」

 コウタがカナメとの間に巨大な多角甲盾フォースアーマーを展開した。

 半透明のバリア越しにコウタの口が動く。

 『イ・キ・ロ』

 ここまでされると行かざるをえない。彼の身勝手な約束に後ろ髪を引かれつつもその場を後にした。

 程なくして男の叫び声が辺りに木霊した。

 「コウタ……成仏してくれ」

ご覧いただきありがとうございます。

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