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アリーナの戦い

 バトルは、アリーナ上部に設置された巨大パネルにモニタされているが、カナメは小さく見える本物の光景を見つめていた。

 開始と共に走り出したのはリズだ。まっすぐ突っ込むと、右腕を振りぬいた。

 危険を察知したタツミが後ろへと逃げる。すると彼の軌道を辿るように連続した3つの槍痕が地面に発生した。

 疾風三槍しっぷうさんそう

 リズは躱されることを予期していたように、振りぬいた右腕を納める前にはすでに左腕を振りぬいていた。

 さらに3本の見えない槍がタツミを襲う。

 しかし繰り出された槍の軌跡が、彼に交わることはなかった。

 「ぬるいぞおおおっ」

 紙一重でタツミが身体を捻り回避した。地面だけを射抜いた槍の音が響く。しかしリズが攻撃の手を休めることは無かった。

 次々と放たれる無数の槍がタツミを襲う。

 距離を詰めるように近づくリズと、間合いを確保しながら距離を作るタツミ。

 見事な体捌きと反射神経で躱し続けるのは、伊達ではない実力の証だった。

 怒号の勢いで地面や壁に傷痕が刻まれるが、未だその身体にかすめる事は出来ない。見る者が見れば、追い詰めているはずのリズが、逆に追い詰められている光景に見えるだろう。

 カナメも同様の感情を抱いた時だった。

 乾いた爆発音と共に、眩い光が爆ぜた。

 それはタツミから放たれる一筋の稲妻だった。

 煙にまかれ吹き飛ばされるリズ。

 追い討ちを掛けるようにもう一筋の稲妻が彼女に直撃した。


 「嬉しいだろうリズ。強すぎる私に出会えて」

 静まり返るアリーナにタツミの笑い声が響く。

 誰の目から見ても、直撃であり、再起不能に見えた。はじめてみるリズのダウンが負けに繋がったことに落胆している観衆も多い。

 しかしリズは何事も無かったかのように立ち上がると乱れた髪を整え、埃に汚れたスカートを払う。

 「無傷だと……」

 驚きの声が漏れると同時に、大歓声が上がった。

 「この程度か?」

 「なっ!?」

 「君の力はこの程度なのか?」

 リズの挑発にタツミが紅潮し、憤怒の形相で叫んだ。

 「調子に乗るなよ、雑魚があああああ」

 「私が雑魚なら君はまだ稚魚だな。公園の池で頭を冷やしてきたらどうだ?」

 「ふざけるなよ。私を誰だと思っている・・・」

 怒りに震える自身を抑え、タツミが呟いた。

 しかしリズは吐き捨てるように「ただの子供じゃないのか」とそう告げた。


 その瞬間だった。

 タツミから4つの光球がリズに向かって飛び出した。

 バリバリと弾ける音をたてる光球は電気の塊で、周囲に電撃の雨を撒き散らしながら突き進む。

 とっさに疾風三槍で迎撃できたのは3つ。

 最後の一つが至近に迫るが、振りぬいた右腕の流れを活かし、その場でスピンすることで、左腕から疾風三槍を繰り出した。

 見事全ての光球を迎撃したリズだが、タツミはすでにリズに向かって駆け出している。

 あえてリズの間合いでねじ伏せてやるという彼の気概の現われでもあった。

 彼の両手を覆う電撃の爪が黄金の光を放つ。

 地面を這う様にスイングされた電気の爪が地面を抉りながらリズを襲った。

 しかしリズはダンスを踊るように、軽やかに攻撃を避ける。

 これはリズが今までのバトルで観客を魅了し、ラッキーパイルと呼ばれる由縁となった、難攻不落の回避の舞だった。

 まるで攻撃の手が判るかのようにタツミの猛追をかわす。

 これはリズの安っぽい挑発に乗り、自らの間合いを捨ててしまった彼の失策だった。

 リズは数秒もたたないうちに、相手の攻撃の癖を読み取り、攻撃を避けながらも舞いのタイミングで疾風三槍を繰り出している。

 相手が相手だけにクリーンヒットは与えてないが、至るところに切り傷が出来はじめていた。


 カナメはタツミが発する愛憎を超えた黒い感情をひしひしと感じていた。

 それはアリーナの熱気をかき消してしまうほど強く、嫌でもその気持ちが流れ込んでくる。

 心の底から嫌悪したくなる負の感情は、嫌でもカナメをリズ寄りの気持ちにさせた。無意識のうちに自分をリズに投影することで、カナメは彼女の不自然な動きに気が付くことができた。

 タツミが繰り出す攻撃の位置、タイミングを正確に把握している動きなのだ。

 その証拠にリズは死角から襲い来る攻撃を難なく回避する動きを見せていた。

 疾風三槍を邪魔に感じたタツミが彼女の腕を狙うと、リズは攻撃のタイミングをずらし、それを回避した。またタツミにかける反撃も、完全な間合いとタイミングを理解した超人的な動きだった。

 リズの動きと自分を重ね、無意識下で追体験をしているカナメは、見れば見るほど彼女の動きに魅入られた。

 タツミが繰り出す会心の攻撃から、フェイントを交えた連撃。

 疾風三槍後の隙を狙った電撃。

 両手を覆う電撃の爪をスパークさせた目潰し。

 伸縮可能な電撃の鞭での不意打ち。

 彼の思考が全てカナメに流れ込んでくる。

 そして次に感じたタツミの策は、身体全体から放出される、全方位に向けた雷撃だった。


 『危ない!』

 カナメがとっさに叫んだ。

 見開かれるリズの瞳。

 そして彼女も全てを理解した動きをとった。

 タツミが見せた絶好の隙を追撃に使わず、足にアイテールを纏い全力で距離を取ったのだ。

 アリーナ全体を襲う激しい雷光。

 至近距離で直撃すれば即死も有り得る強い威力だった。

 衝撃で弾かれたリズが遠く離れた位置で倒れている。勝利を確信し歓喜の叫びを上げるタツミ。

 しかしそれはつかの間の喜びだった。

 またしてもリズが立ち上がったのだ。ゆっくりと埃を掃い、髪をかき上げ、視線を上げる。

 その視線の先はタツミでは無い。

 アリーナ最北端。

 偶然にもカナメたちが陣取るスペースを見つめていた。

 喜びの顔は驚愕の表情へと変り、直ぐに怒りを伴い弾けた。

 「リィィィィィズゥァァァァァァァァァ。私を倒せると思うなあああああああ」

 タツミが怒声をあげる。

 しかしリズは彼を一瞥すらせず、険しい表情で遠くを見つめていた。

 「私を無視して余所見とはいい度胸だああああああ」

 この惨状がエリートとしてのプライドを傷つけ、激しい怒りがこみ上げる。さらに自分を見ていないリズに、最大級の殺意が沸いた。

 彼を金色のアイテールが包み、そして跳ね上がるアイテールが両手に凝縮されていく。

 アリーナに集う全ての者が、その名の由来となった、絶技を連想した。


 超高度電離陽子砲。


 放射状に広がるプラズマは触れたものを容赦なく破壊する必殺の技である。

 初めて披露した際にアリーナを激しく破壊したため、運営側が特別に施設対応させられたほどの技であった。

 「もう貴様でも容赦はしない。泣いて謝っても許さんぞおおおおおおおおおお」

 怒りに任せアイテールを練る彼に、リズがゆっくりと視線を合わせた。ゆっくりと中央へ歩むリズ。

 観客は息を呑み、彼女の動向を注視する。

 そしてリズは険しかった表情を崩すと、笑みを浮かべ宣言した。


 「私の負け。降参だ」

ご覧いただきありがとうございます。

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