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皆ノ想イ2

 リズが声を張り上げると同時に、無数の影が一斉に排出された。

 それは特徴的な形をした飛空機械。多翼可動式目オーダー2・通称ハチドリの姿だった。

 同時に都市地下から一斉に武装機械が迫出して来た。これは地上制圧を主とした多脚稼動式目オーダー1・通称アカグモだった。

 各所から悲鳴が上がる。

 それはこの広場に集まった人間を無差別に狙った銃撃の始まりだった。

 実弾。

 基本憲兵でさえも実弾兵器を使っていない。シネマや戦史でしか、知らないものであるが、その威力の前に誰もが直感で理解し、恐怖した。

 対人用に兵装された二種類の機械が、空と地上から人々を囲み機銃の雨を降らす。

 血しぶきがあがり、混乱し逃げ惑う人。

 虐殺。

 しかし逃げ場は無い。完全に囲まれているのだ。

 これは区画都市の防衛機能が動作した結果だった。有無を言わさぬ火力をもってしての制圧。それはOZEを操る者を確実に殺すために投入された、本当の区画都市治安維持システムであった。

 『みんな落ち着け』

 混乱した人々の頭に巨大な声が響く。同時に人々頭上に黄色の巨大なバリアが展開された。

 このバリアはコウタの多角甲盾をシオリの増幅で強化したものだった。

 「私の増幅は30秒が限界」

 「俺の多角甲盾も同じだ。それ以上は持たねえ」

 必死に力を振り絞る二人。治療されていた傷から再び血が溢れる。

 この2人が稼いでくれる時間は無駄には出来ない。

 カナメが感応を展開した。

 『みんな落ち着け。この盾はあと30秒持たない。その間に立て直すんだ』

 カナメの声に皆が我に返った。

 『この実弾を防御できる能力者は全力で防いでくれ。治療できるものは怪我人を優先。そして空中のハチドリと外縁のアカグモに攻撃が出来る者は、一斉に攻撃を開始する。いいか、ここで踏ん張らなければ全員死ぬことになる。それにここに集まったメンツを見回してくれ。みんな屈強な能力者たちばかりだ。絶対に勝てる』

 一瞬、皆が周りを見回した。

 そして気付いたのだ。自分達が今まで積んできた努力と、手に入れた能力を。

 それを本当の意味で使うのは今だと気が付いた。

 コウタの多角甲盾の光りが薄く明滅を繰り返す。

 限界の時だ。そしてこれが反撃の時。

 人類がまだ見ぬ黒幕に反撃の狼煙を上げる火蓋が切って落とされた。


 コウタの多角甲盾にかわり、ありとあらゆる能力を駆使した防御網が形成された。それは念動力もあれば、水が幕を張ったような盾も見受けられる。とにかく降り注ぐ鉛の弾丸を防ぐ数多の能力が展開された。

 同時に多くのハチドリが火花を上げる。

 地上からの一斉射撃が始まったのだ。

 その攻撃は空を埋め尽くすハチドリ、外縁を囲むアカグモを一気に攻め立てる。

 中には単身敵地へ突っ込み、次々と殺戮兵器を破壊する猛者まで現れた。

 次々と撃ち落されるハチドリ。墜落するハチドリは多くの人の能力によって軌道を修正され被害の無い場所へ落されている。

 たった30秒ではあるが、時間を作り、皆を纏め上げたカナメ達の見事な指示であった。今や数万の人々が力を合せることで被害は最小限に抑えられている。

 そして更に、この件を静観しようとしていた区画都市の住民達が外から援護に加わったのだ。

 カナメの放送、ネットで流れる広場の争い、強い不安を抱えたまま動けなかった人々がここに来て、この状況を見て、今、何をすべきなのかということに対して、答えを出したのだ。

 まだ10歳に満たない子供達は流石に戦闘に加わることは出来ないが、それでも都市住民七割り近い人々が一斉に蜂起した。

 地下から出てくるアカグモを潰し、空を飛ぶハチドリを撃ち落す。至る所で、自由の為の闘いが始まった。

 ここまで来ると、優劣は明らかだった。

 空から、地下から這い出てくる機械は無限じゃない。

 あっという間にすべての殺戮兵器を破壊したのだ。

 今まで聞いたことのないほどの歓声が区画都市に響いた。

 程なくして空を覆っていた天井がゆっくりと口を開き始めた。

 人々は固唾を呑んでその光景を凝視する。

 そして、おそらくその先に敵がいることを理解した。

 薄闇の夜空の中に黄色く輝く月が見える。


 「臥待月ふしまちづきと言うのだろ」

 リズが口を開いた。

 「何のことだ?」

 「コウタそんなことも知らないの?」

 「夜明け前に見える月のこと」

 シオリが答えを告げる。

 「へ~綺麗だな。初めてみたぜ」

 「奇遇ね。私もよ」

 「実は俺も初めてなんだ」

 カナメが告げる。冗談を言う余裕が欲しいところだがこれが精一杯だった。

 そしてそれは姿を現した。

 雲の隙間より強い光りを放ち近づくのは、巨大な空飛ぶ船。

 縦横数キロはありそうな鉄の塊が宙に浮き、次々とその姿を現したのだ。

 「リズ……」

 「大丈夫だカナメ。私を信じてくれ」

 都市の住民たちはその姿、その規模に目を奪われている。

 自分達の相手がどれほどの規模なのか想像も出来ないのだ。

 空飛ぶ船から次々と射出される光りは、この都市住民を殲滅するために送り出される強襲揚陸艇。

 また地上へ向けられた超ど級の砲身が、いつでもこの都市を破壊できるとばかりに姿を見せている。

 誰もが覚悟した。

 しかし、振り翳される暴力に対して、ただで屈する気持ちは皆無だった。

 ――その時だった――

 一番近くで揚陸艇を射出していた船に横合いから一筋の光りが奔ったのだ。

 轟音と煙を上げて傾く船。

 そして連動するように次々と空飛ぶ船から炎が上がった。

 多くの船が回頭し船首の向きを変えようとするが、反撃する間もなく次々と落とされていく。

 「どうやら間に合ったようだな」

 リズが呟いた。

 「あれはやっぱりリズ、君の――」

 その時、カナメ達一同が集う場所に、流線型の見たことも無いような航空機が降り立った。

 人々が恐る恐る見守る中、リズが単身航空機へと近づく。

 同時に中から、一人の男が現れ、リズの前で膝をついた。

 「よくやってくれた」

 「いえ、リリス様が居ればこその我々。どうぞこちらをお使いください」

 リリスと呼ばれたリズが、男が手にしていた小型の機械を受け取ると口を開いた。

 同時に空一面に巨大なリズの姿が投影された。

 「我はデルトレシス帝星、第一帝位継承者、アマリリス・デル・デルトレシスである。全ての戦闘行為を止め停船せよ。従わぬ場合は、帝星評議会及び、我が名の下に、正義の鉄槌が下るであろう。繰り返す――」

 リズの発言が周囲にこだました。

 人々は驚きの表情で彼女を見つめている。

 煙を上げる船の多くは、ゆっくりと水面へと着水を始めている。また従わない船は容赦なく攻撃が降り注ぎ空中で爆散した。

 リズの宣言は続いている。

 「ダーニシス・デル・デルトレシスに告げる。貴方を帝星法・領星域下知的生命体第七条への抵触と、我アマリリス・デル・デルトレシスへの暗殺未遂により、第二帝位継承権を剥奪の上、身柄を拘束する。また皇帝陛下に置かれては、貴方がこの惑星で行っていたOZE絡み全ての件ついて大変気分を害しておいでである。帝星領内に蔓延る数々の悪行は後に検めさせてもらう。諦めて降伏せよ」

 繰り返しリズの映像が空へ投影されている。

 その中で、宣言を終えてたリズが、従者らしい男と二言三言会話を行い、カナメ達に近づいてきた。

 リズを囲む全て者達が彼女の動向を注視している。

 「もう大丈夫だカナメ。地球は救われた」

 彼女が笑顔で告げる。

 それに対してカナメも精一杯の笑顔を返した。

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