皆ノ想イ1
入り込む余地の無い、まさにこの都市の運命を決める闘いを前に、コウタたちは近づく事も出来ず、唯々見守り、そして静寂が訪れた。
気絶していたリズはコウタが背負っている。巻き込まれる可能性があったからだ。
強い閃光と爆発から結果どうなったのか分からない。激しく荒々しい闘いに圧倒され、動くことも出来ずにいると、薄れいく灰塵の中から一つの影が現れた。
余力はとうに尽きているが、コウタたちが身構えた瞬間だった。
聞き覚えのある声が届いた。
「俺だよ、みんな」
一同が喜びに染まる。
「てめーこの野郎、心配掛けやがって」
「カナメ、無事でよかった」
「生きてるなら生きてるってちゃんと言いなさいよ。心配しちゃったじゃない」
よろよろとカナメが煙の中から現れた。左腕は酷く負傷し痛々しいが、無事命と笑顔を携えている。
「勝ったよ」
「観てたわよバカ」
「流石カナメ。惚れなおした」
「やるじゃねーか。びっくりしたぜ、なんでタツミの能力を使えたんだよ」
「ああ、それは――」
「感応の究極進化。対象を理解し相手の脳を自己に造り上げた」
不意に発せられた言葉はコウタの背中から響いた。
「リズっ。お前起きてたのか」
「あれだけの爆音と衝撃はいい気つけになった。ありがとうコウタ、もう大丈夫一人で立てる。それにしてもカナメ、よくやった。本当ならば私が相手をするはずだった」
「結果オーライだよリズ。それよりも大丈夫なのか」
「ああ、みんなと同じくらい大丈夫だ」
「それって大丈夫じゃないじゃない」
「俺はもう糞する力もねーぞ」
一同が自然と笑いに包まれた。ギリギリのギリギリでなんとか最大の山場を越えることができたのだから。
しかしまだ終わっていない。誰もがそれを解っていたが笑わずには居られなかった。
「さて、水を差して悪いが本番はこれからだ」
リズが場を締めなおすように口を開いた。
「そうだな。これからだ」
皆がゲートを見つめる。
この壁を破壊するという難関が残されているのだ。
そのために一同が踏みしめるように、ゲートへと足を向けた時だった。
大きな歓声と共に、三方の広場出入り口から人々が雪崩れ込んできた。
その中には憲兵服に身を包んだ者も多い。
一同が期待と不安を胸に抱き覚悟を決める。
受け入れられるか否か、その結果が出るときが来たのだ。
あっという間にカナメ達を多くの市民が取り囲んだ。
そして驚くべきことに、我先にとゲートを目指した人々が、その鋼鉄の壁を破壊し始めたのだ。
「君がカナメだな」
一同を取り囲む住民達の中から一人の男が歩み寄ってくる。それは前世代アリーナのトップランカーであり、本来なら今日から始まるマイグレートの参加者でもあった人だ。
周りを良く見ると、新旧アリーナの上位ランカーたちが多数見受けられた。
「君達の闘いは観させてもらった。そしてその気概が並々ならぬものであり、真に迫っていることも理解した」
「観たって……」
「前もってここでの攻防がネットで観れる様に仕込んでいたんだ」
リズが告げる。
「マジかよ……」
「伊達や酔狂でこんなことやってると思われるのは心外だし、私達の本気を見せるには当然の手段さ」
「我々、ここに集まった住民達はみんな迷っていた。それは憲兵も、そして明日から始まるマイグレート対象者も同じだった。君が皆に伝えたあの放送を拒否しようと思った者ばかりだが、同時に本当だったらどうするのか、という不安が強かった。真っ先にここ場に向かった者達も結局は同じで、この広場の外縁でどうするか迷っていたんだ。だからネットでここの映像が流れていることが解り、食い入るように注目した。そして君達は命を掛けてハウンドとタツミを退けた。その瞬間俺の、そして皆の迷いは吹っ切れた」
「信じてくれるんですね」
「全面的に信じるわけではない。ただ、何もしないまま結果を享受するよりも、まず自らの目で見ようと思ったんだ。だからもし、嘘だったらここの連中は君達を許さないだろう」
「十分です。その言葉は十分過ぎるほど、俺達の想いが届いたとの表れだと思います」
「まあ私は今、君の目をみて真実なのだと確信しがたがな」
「ありがとうございます」
照れたように頬をかくカナメ。ここまで死闘を演じた彼らは心底嬉しかった。
そして治癒治療のできる能力者が傷ついたカナメ達に治療を施し始める。
その時だった。
割れんばかりの歓声が上がった。
清々しい風と、今まで嗅いだこと無い不思議な香りが辺りを包む。
ゲートに開いた穴が広く拡張されていく。
数百人による作業によってあっという間に大穴が開けられた。
「潮の香りだ」
どこからともなく声が響いた。
それは外気に有毒な成分は無いという事実。
能力者の中には大気の成分を操る能力者も居る。おそらくその者が何か告げたのだろう。
一層大きな歓声がこだました。
真実が次々と伝播する。
外へと雪崩れ込む人々の表情は複雑であるが、何か吹っ切れたものがあった。
「どうやら、我々は君達に感謝しなければならないようだ。命を救ってくれてありがとう」
「感謝は必要ありません。これは絶対にしなければならないことだったんですから。それに本当の闘いはこれからです」
「それは区画都市を作った連中との戦いということだな」
「その通りです」
「どんな奴らなんだ」
「それは――」
その瞬間だった。暗く夜空を映していた天井パネルが、警報を知らせる赤い点滅に切り替わったのだ。
動揺する人々。その中で一同が見たものは、天井に多数設けられた排気口のカバーが稼動し、大きく口を開く姿だった。
「みんな気をつけろおおお」
リズが声を張り上げると同時に、無数の影が一斉に排出された。
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