プラズマブレス
身に起きた変化を理解するのに時間は必要なかった。
体に渦巻くOZEに違和感を覚えつつも急速に馴染んでいく感覚。
自分が得たものがどういうもので、どうやって使うのか、答えは全て頭の中にあったし、なにより見本が目の前にあった。
腰を落とし、唖然としていたタツミが憤怒の形相で尖雷を放つ。
しかしこの尖雷はタツミが翳した手の中で弾けた。
「貴様あああああっ」
幾つもの雷光が輝く。だがこれは全て同様の結果となった。
カナメがタツミよりも早く尖雷を繰り出し、彼の稲妻が奔る前に打ち消したのだ。
「無駄だ。あんたは俺には勝てない」
「下種が私の雷を真似るなああああ」
飛び起きたタツミの猛攻が始まった。尖雷、雷宮がまさに雨のように降り注ぐ。
何十、何百という閃光が2人を照らし、地面を削り周囲を破壊するが、カナメに届くものは無い。
「なぜ貴様が雷を使うっ」
「俺は解析、理解、解読を経て、対象者を自己に内包するに至った」
「貴様ごときが私のアビリティをコピーしたとでも言うつもりか」
「絶対的優勢世界。感応が昇華した最強の力だ」
「絶対的優勢世界だと・・まがいものが調子に乗るなよ。本当に私に勝てると思っているのか」
「さっきも言ったが、俺はあんたを理解し能力を得た。そしてさらに、俺にはあんたの行動が手に取るように解る」
「ふざけるなっ。だから私が負けると?この区画都市最強の私が、貴様のような下種に負けるとでも言うのかっ」
空を薙ぎ払うタツミの腕から電撃が伸びるが、同様にカナメから放たれた雷がそれを相殺する。
「俺の感応は、俺の前に立ちはだかる如何なる敵も打ち砕く」
カナメの両手にアイテールの集中が始まった。
「千の兵には一の将の矛を以ち、一の将には千の将の矛を以つ」
「貴様あああ、貴様如きが私のあれを真似するつもりかあああああ」
カナメの集中を察知したタツミが、驚きと怒りと恐怖が入り交じった顔で吼え、慌ててアイテールを練り上げる。
「さあ、あんたの好きな優劣を決めようじゃないか。あんたは自分の為、俺は皆の為に……いや結局は自分の為だな。俺と俺を取り巻く世界の幸せの為に力を振るう」
「糞野郎が……望みどおり殺してやる。骨も残らぬ塵と化すがいい。俺の思考が読めるだけでいい気になるなっ」
最初に動いたのはタツミだった。
地を這う雷を上げる雷陣が幾重にも放たれた。
彼は傲慢で選民思想が強く他者を理解しようとしないが、こと戦闘においては最強になる為に努力を惜しまい人生を歩んできた。
才能だけでは決して敗れぬ相手がアリーナには居たし、実際に前世代のランカー上位者たちは簡単に勝ちを譲るほど弱い相手ではなかったからだ。
この世界はOZEだけで評価される。
余りある才能を持った彼はその世界を愛した。
強者であるからこそ都合が良く、都合が良い世界であるために強者を目指した。自らが世界を求めたのではない。世界が自分を求めたと本気で思った。その為の努力はもはや、使命だった。憲兵に成り頭角を現すにつれ、激しい高揚感に襲われた。
その高揚感はまさに麻薬。
どれだけ名声を得ても、畏怖を抱かれても満たされぬ魂が、やがて世界の全てを渇望した。高揚感は尊大な功名心へと変わり、いずれは特大上位区画都市すらも管理者として君臨する気になっていた。
その道筋を邪魔する者は敵というよりは悪。
自らが統治者となることこそが、何ものにも換え難い正義だった。
そのタツミが唯一認めた能力と、美しさを兼ね備えていたのがリズであった。アリーナで舞う姿は華麗であり、底知れぬ強者の風格を漂わせていた。
それは彼がはじめて他人に抱いた興味であり、初恋であった。
すぐに当然の如く関係を迫ったものの、彼女が彼を受け入れることはなかった。
理解できなかった。
自分に自分を否定する要素が思い当たらなかったからだ。
しかし彼は、自己を鑑みるにあたり、一点のみをその要素と確定した。
強さだ。
当時アリーナランキングはようやく20位と成ったばかり。
最年少であり最速で登りつめていたが、本人は納得できなかった。
だからこそ更なる高みを目指し、結果的に名実共に区画都市シリウスの最強となったのだ。
並々ならぬ努力の影に得た実力だった。
だからこそ負けられない。誰一人として負けられないのだ。
特に、目の前に居る男にだけは絶対に負けられない。
エリートであるからこそ、
統治者であるからこそ、
恋敵であるからこそ、
絶対に負けられない相手だった。
カナメに雷陣が迫る。
無数の雷の柱が地面一帯を死の森と換える。
壁を背後にカナメが大きく跳ね上がった。
「私の思考を読んでも逃げられんぞおおお」
空中に飛び出したカナメへ向けて尖雷が疾る。
尖雷を迎撃するカナメ。
しかしその刹那、タツミの両腕が唸りを上げて輝いた。
それはタツミの必殺。
それはタツミのタツミたる所以。
破壊であり、最強を名乗るに相応しい業であった。
――超高度電離陽子砲――
「しねええええええええええええええええええええええええ」
網膜を刺激する閃光。
世界中の稲妻を一箇所に集めた轟音が爆ぜる。
受ければ対象物は一瞬にして灰。
タツミすらもアリーナではたった一度、わざと芯を逸らして使用した離れ業である。
空中で身動きが取れないカナメの影はその閃光の中で消滅した。
タツミはカナメに集中するアイテールを感じ取った瞬間、即座にカナメの自信の由来を理解した。奴が能力をコピーした事実。尖雷、雷宮、雷陣と一朝一夕で出来るはずの無い業を易々と使いこなした姿。
そして、自分がその威力の程を知っているが故に、恐怖と怒りが最高潮に達した。
ならば、本物による本当の超高度電離陽子砲を見せるまで。
絶対に逃げられない状況に追い込み叩き潰す。
相手に業を練る時間は与えない。だからこその先制攻撃からの超高度電離陽子砲だった。
勝利を確信したタツミに戦慄が走る。
消滅したはずの輝きの中心から、抗うように本来ありえない閃光が疾ったのだ。
光の先端が一層の輝きを放つ。
それはカナメから繰り出された光。
カナメの絶対的優勢世界が造り出した最強の矛。
もう一つの超高度電離陽子砲から放たれた閃光だった。
「負けねええええええええええ」
二つの力の衝突。
カナメはその反動から後方に圧され、壁に足を付け踏ん張っている。
対するタツミも地面を割るほどの力を込めて圧し留まっていた。
拮抗する力。
互いの矛先が唸りを上げ、辺りを巻き込む爆風を生む。
そしてそれは遂には誰もが予想できない結末を迎えることとなった。
相殺爆発。
広場中を襲う衝撃。視界を瓦礫と灰塵が舞う。
力を出し切ったタツミが視界ゼロの煙の中で気を抜いた瞬間だった。
眼前にカナメが現れたのだ。
対処が間に合わない。
高速で迫る右腕が酷くゆっくりと見えた。
鈍い音が響き、あたりは静寂に包まれた。
ご覧頂き有難うございます。




