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特殊部隊ハウンド隊隊長

 「リズっ、リズっ。無事なのか」

 リズに駆け寄るカナメの目の前には炎が燃え盛っている。

 この中には爆発に巻き込まれたリズが居るはずだ。決死の覚悟で手を伸ばそうとした瞬間だった。

 「待てカナメ、大丈夫だ」

 「コウタっ」

 傷めた腹を押さえながらコウタが近寄ってくる。

 「どういうことだ?大丈夫って」

 「この炎はとりあえず大丈夫だ。今は収まるのを待て」

 「しかしっ」

 「もう弱まってきてる。すぐに炎は消えるから今は耐えろ」

 コウタの言葉通り、リズを覆っていた炎が下火となり消失した。

 するとそこには、多角甲盾に覆われたリズが横たわっていた。

 水蒸気爆発の爆音でリズの状況を察知したコウタが、せめて追撃の炎だけでも防ぐために多角甲盾 を展開したのだった。

 「リズ、大丈夫か?」

 カナメが彼女を抱きかかえるが反応は無い。

 「最初の爆発をモロに受けたんだろうな。四肢が無事なだけマシってところか……」

 「畜生っ。リズ起きてくれ。こんなところで死ぬなっ」

 カナメが必死で何度も叫ぶ。するとリズが咳き込む形で反応した。

「良かった生きてる。ちゃんと生きてる」

 カナメの瞳にうっすら涙がこみ上げてきた。

 彼に修羅の道を歩ませた張本人でありながら、一番の理解者でもある。付き合った日数は少ないが、記憶を共有した唯一無二の存在だった。

 仲間から死者は出さないと強く思っていたが、考えなかったわけではない。おそらく一番最初に死ぬのは自分だろうと考えていた。

 しかし現実はそうではなかった。

 容易く傷つく仲間達を尻目に何も出来ない歯痒さ。そして、遂にリズが倒れたのだ。

 巨大な爆発に巻き込まれ、骨まで燃やすような炎に覆われた。

 決して死ぬことは無いと思っていたリズが死んだと思ったのだ。

 ホッとしたのも束の間、遠くで炎が上がる。また激しく水が舞っていた。

 ユリとシオリがハウンドを相手に激闘を演じている。

 「悪いがカナメ、お前にリズを任す。俺はユリとシオリを応援してくる」

 この場でコウタが出来ることは無い。

 「すまないコウタ。でもお前も怪我してるんじゃ」

 「寝ぼけたこといってんじゃねーよ。怪我くらい始めから覚悟の上だ。こんな状態の俺でもリズを守れたように、まだやれることはある。今はハウンドを倒すことが先決だ。お前は今出来ることだけをやってくれ。まあヘタレなカナメはそこで待ってろってことだ」

 至って軽い口調のコウタは背を向けると歩きだした。

 掛ける言葉が見つからない中、それでも振り絞った言葉は、カナメの願いが込められた言葉だった。

 「……2人を助けてやってくれ」

 カナメは心のそこから悔しかった。

 自分には傷つく仲間を助ける力が無い。

 強敵を打ち砕く武器も、守る盾も無い。

 癒やす力も無ければ、人々の心を動かす力も無かった。

 本当なら、多くの人がここに集まる予定だった。

 経過した時間は、人が集まって来てもいい頃合を過ぎている。

 それでも誰一人、ここには来ていない。

 伝え方が悪かったのだろうか。

 今となっては、反省も意味は無い。

 ただただ、悔しかった。


 「無様だなあ」

 不意に声が響いた。

 甲高い男の声。特徴的な口調、一度聞いたら忘れない声だった。

 「参った、2人を助けに行けなくなっちまった」

 「コウタっ」

 「カナメ。どうやらここが天王山のようだ」

 コウタが歩みを止めている。その視線の先ではユリとシオリが死闘を演じているが、その合間を縫い、近づいてくる二人の憲兵がいた。

 超高度電離陽子砲のタツミと、ハウンド隊隊長のバショウだ。

 「これはこれは私の愛しいリズも一緒じゃないか。そうかそうか本部のロビーで暴れたというは本当だったか。そうかそうか。なるほどなるほど」

 不気味に冷静なタツミが笑い声を上げる。その声は次第に大きなものへと変化した。

 「ふざけるなよこのゴミクズがっ。俺の顔に泥を塗りやがって。俺の街を汚しやがって。俺からリズを奪いやがって。その汚い手で私のリズに触るんじゃない」

 タツミが叫ぶ中、コウタが口を開いた。

 「てめーこそ人を守る憲兵の大将なら、本当の敵を見極めやがれ」

 「誰だ貴様は。私は貴様なぞに用は無い。消えろ」

 「なんだとこの野郎。てめーが無能だから、リズやカナメが身体張ってるんじゃねーか。邪魔するならお前が消えろバーカ」

 コウタの罵倒に怒りをあらわにしたバショウがタツミの前に歩み出た。

 「タツミ様を侮辱するのは私が許さない。この者は私が排除します。タツミ様は首謀者を」

 「うむ、任せた。この汚物に地獄を見せてやれ」

 「かしこまりまして」

 「汚物だとこの野郎。貴様のケツの穴に拳叩き込んでガタガタ言わすぞてめえ」

 コウタの横を抜けるように、悠然とタツミが歩みを進める。

 「待てこの野郎。ただでここを通すとでも思ってるのか」

 コウタが腕を振り上げようとした瞬間だった。

 力を込めるが腕が動かない。そればかりか足も動かない状態になっていた。

 「どういうことだ畜生。いったいこれは……」

 必死でもがくコウタの横をタツミが通りすぎた。

 続いてバショウが側へと歩み寄って来る。

 「貴様如きでは私の鋼糸ワイヤードから逃れることはは出来ない」

 そう、コウタを拘束しているものは、遠隔物体操作テレキネシスで制御された鋼の糸だった。

 「鋼糸使い。そういえば聞いたことあるぜ。デスペラードたちを一人も逃さず拘束した凄腕の遠隔物体操作能力者、ワイヤードって奴が存在するってな」

 「ほう私を知ってるか」

 「ああ知ってるさ。その話で昔盛り上がったんだ。縛り上げるのが得意な憲兵が居るらしいってな。よっぽどSMが好きな奴だろうって皆言ってたぜ」

 真っ赤な顔をしたバショウが、コウタの傷めた脇腹に拳を叩き込んだ。

 「ぐっ。じょ、上司が上司なら部下も部下だな。どいつもこいつも短気で―」

 さらに拳がみぞおちに叩き込まれた。

 コウタが咳き込むが、両腕は広げるように縛られており、患部を抑えることも出来ない。

 「痛いか」

 「マ、マゾのお前と違って、殴られれば痛いに決まってるだろ」

 「減らず口をっ」

 さらに数発の拳がコウタに繰り出された。

 コウタの口から血が垂れ、表情も苦痛に歪んでいる。

 「どうだ。少しは反省したか?」

 「反省なんて生まれてこの方一度もしたことねえよ。てめーがしてろ馬鹿野郎」

 「呆れるほどに愚かだな貴様は。私としては今すぐにでも息の根を止めてしまいたいのだが、生憎タツミ様より地獄を見せろと賜っているのだ。簡単に死ねると思うなよ」

 手足を縛る鋼の糸が一層強く締め付ける。

 「痛いだろ。このままゆっくり力を加えて手足を千切り落とすことも可能だぞ」

 コウタの叫び声が上がる。

 肉に食い込む鋼糸が肌を裂き、血が滲み始めた。

 「どうだ少しは反省する気になったか」

 「は……ははっ……何を反省するかわかんねーのに反省なんて出来るわけないだろ。それに時期俺達に賛同してくるみんなが、絶対に来てくれる。たとえ俺が死んでも、世界は変るんだ」

 震える声でコウタが声を絞り出した。痛みに耐えながら細く笑っている。

 「へへっ……俺は楽しく過ごしたいだけだ。それにはまず真実ってやつと戦う必要があった。てめーは何と戦ってるんだ」

 「私はこの都市の為に戦っている。だからこそ私は貴様を悪だと判断した」

 不快感をあらわにバショウが答えた。

 「都市って何だよ。都市って人じゃねーのかよ。ここに暮らす人間が殺されるのを黙って見過ごすやつが何を守るってんだっ」

 「黙れ下種がっ」

 さらに手足の締め付けが強くなる。しかも新たな鋼糸が首に絡みついた。

 「ぐっっ」

 「よく聞け、この都市は今後10年で世界一の区画都市となる。タツミ様がそれを実現するのだ。完全な治安と完璧な住民。それを創り上げる。シリウスに理想郷有りと謳われる最高の区画都市だ。そのスタートを穢した罪は重い。上級区画都市は存在しない?マイグーレトで虐殺される?そんなことあるはずが無い。たとえあったとしてもタツミ様が解決してくれる。貴様らが杞憂する問題じゃない」

 「やっぱりじゃねーか」

 首を締め付けられながらもくぐもった声でコウタが笑い声を上げる。

 「何がおかしいっ」

 「これが笑わずにいられるか。結局てめえはタツミに惚れてるだけじゃねえか。奴が言うこと成すことが最重要の問題で、結局他人のことなんか一切考えちゃいねえ。それどころか自分のことすらも考えられない唯のガキだってんだから、堪えても笑いがでるってもんだ」

激昂したバショウがさらに鋼糸に力を込めた。

「冥土の土産に教えてやる。この東区ゲート広場はすでに我々治安維持局によって封鎖された。いくら待っても助けなんて来やしない。貴様らは世界から孤立したのだ。絶望を抱いて死ね」

 腕を、足を、そして首を切り落とす為に鋼糸に力が加わった。

 ――その刹那――

 バショウの脇腹に衝撃が疾った。

 「がっっっっっ」

 吹き飛ばされる身体。意識が遠くなる感覚を気合で捻じ伏せ、立ち上がる。

 「ぐっ……き、きさまら……」

 コウタを拘束していた鋼糸が弛緩した。

 今までバショウが居た位置にシオリが立っている。

 遅れてきたユリが鋼糸に炎を翳しコウタを解放した。

 「お、お前ら、遅せえじゃねえか」

 「うるさいわね。生きてるうちに助けたんだから感謝しなさい」

 「死んだら助けたことにはならないだろ」

 「ホント細かい男ね。こっちもボロボロなんだからっ、うだうだ文句言わないでよ」

 「へいへい。助かったぜサンキューな」

 「言葉が軽いわね」

 「生きてたらあとで感謝の土下座でも何でもしてやるよ」

 「二人ともそこまで。はやくカナメを助けないと」

 「分かってるわよ。という事だからハウンドの隊長さん。ここ通してくれないかしら」

 「ふざけたことを。私の部下達を傷つけた報い、タツミ様に刃向かった罪を、ここで断罪する」

 「だそうよシオリ。というわけだからさっさと片付けてあの馬鹿助けるわよ。コウタは動けるの?」

 「ああ、なんとかな……。むしろお前達の方がヤバそうに見えるが」

 辛うじて立っているという状態のユリ。火蛇ラミアの直撃は避けたものの酷くダメージを負った。防御のアイテールを超えた炎により右腕が酷くヤケドしている。

 「さっきとても綺麗なお花畑を見たわ。あれが死後の世界ってやつかしら。でもどうせ死ぬなら前のめりって決めたの。あんたもそうでしょ」

 「そりゃそうだ」

 苦痛が走る身体とは裏腹に、コウタに笑みがこぼれる。

 「よっしゃ。じゃあそういうわけだから3対1で仕切りなおしだ。恨むなよ」

 「手負いの猿が図に乗るなよ」

 「もう言葉はいらねえな。それじゃあやるとするかっ」

 この言葉が合図となり、満身創痍の3人とバショウによる、激しい攻防が始まった。

ご覧頂き有難うございます。

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