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ユリとシオリ

 狙撃をしていた憲兵を倒したものの、3人に囲まれる事態となったリズであったが、ハウンドの失策で状況は彼女の望む展開へと成っていた。

 それは敵の各個撃破。

 たとえ、疲労から正確な読みが出来なかったとしても、まだ攻撃が衰えているわけではない。3人が手数に任せて一斉に襲い掛かって来ない限りは、十分勝機がある。

 一呼吸を於いたリズが、端で構えるハウンドへ肉薄する。

 有無を言わさぬ速度。反抗させる余裕を与えぬ速度で顔面を殴り飛ばした。

 華麗で優雅と称されてきた彼女からは、考えられない程の荒い攻撃。それはつまり、それだけ彼女に余裕が無い状態を示している。

 残された2人がリズへと迫る。

 1人がやられたことで自らの失策に気がついたのだ。

 炎に巻かれた剣が振り下ろされる。

 しかしリズを捉えることはできなかった。

 決定的な隙が生まれる。当然それをリズが見逃すことは無く追撃に出たと同時に、突如として彼女を水弾が襲った。

 腹部に激痛が走る。注意してなかったわけではない。

 しかし死角を有効に使ったハウンドたちの見事な連携であった。

 炎使いの突出は、後ろの水使いの攻撃を隠すための囮だったのだ。

 炎と水の連携。

 水使いの攻撃は二撃三撃と小粒ながら次第に数を増し、雨のように周囲を覆った。

 この瞬間リズの脳裏にある単語がよぎる。

 「まずいっっっ」

 しかし時既に遅し。

 炎の剣は地面に食い込みながらも燃え盛っているが、当の炎使いは全力で地を蹴り現場を離脱していたのである。

 「消し飛びなさい」

 水使いのハウンドが叫んだ瞬間だった。

 炎剣が四散すると共に、白煙を伴って大爆発が発生した。

 水蒸気爆発。

 水が高温度の物質と接触することで生じる爆発である。

 咄嗟に取れた行動は、芋虫のように丸くなり身体を守ることだけだった。

 弾き飛ばされたリズが受身も取れずに地面に崩れ落ちる。

 反応は無い。

 そこへとどめを刺さんと追撃の炎が伸びた。

 「リィィィィィィィィィィィズ」

 爆発音で状況に気づいたカナメが全力で駆ける。

 しかしその足は間に合わなかった。

 彼女が灼熱の炎に包まれたのだ。

 ユリとシオリが2人のハウンドへと迫る。

 「ふざけんじゃないわよっ。リズはあんたも含めてこの都市を救う気だったのよ。それをっ、それをっっ!」

 「知ったことか。あの様なまやかしで無用な混乱を産んだテロリストが」

 「分からないの、あんたたちは騙されてるのよ。本当に闘うべき相手は私達じゃない」

 「いや、私が戦うべき相手は貴様だ。争いを賛美し自らの快楽のため、1000万の住民の未来を潰そうなどと考える輩は悪だ。悪はタツミ様と我らハウンドが処理してくれる」

 「違う。私達は皆を救いたいだけよ」

 「誰も助けてくれとは言ってない」

 「その時はすでにプラントの中なのよ。分からないの」

 「だからそれこそまやかしに過ぎん。これ以上は無駄だ。貴様もラッキーパイルと同じように焼き殺してやる」

 「この分からず屋ああああ」

 激昂したユリが放つ炎の塊が、ハウンドの炎使いへ向けられる。

 「馬鹿がっ。ハウンドきっての発火能力者の俺には効かん」

 同様の炎の塊を放ち、相殺しようとするハウンド。

 二つの火球は衝突すると、当たりを巻き込むように炎を散らせた。

 「無駄だ無駄だっ」

 接近を試みるユリを数多の火線が襲う。

 「邪魔よっ」

 振るった腕から放たれる炎が、襲い来る火線を打ち消した。

 「小癪なあああ。ならば我が業火を受けよ。火蛇ラミアアアアアア」

 振り下ろされる拳から地を這うように炎が走る。

 それはさながら蛇のような動きでユリに迫った。

 「こんなものっ」

 ユリはリズやシオリのようなスピードも体術も持ち合わせていない。

 しかし彼女にはだれにも負けない、負けられないと自負する火力があった。

 「私の炎は地を這い空を焼き尽くす」

 「消えろ女、飛べっ不死鳥フェニックス

 ハウンドからさらに炎が現れる。

 それは地を這う火蛇の上を、不死鳥が疾駆するように迸る。

 「私の炎は万物全てを呑みこむ龍と成る」

 「死ねええええええええええ」

 「力比べは嫌いじゃないわ。手加減できるほどエリートじゃないから覚悟しなさいっ」

 対するユリが両手を正面に翳した。

 「いっけええええええー、一極集中収束爆熱砲スタブフレアァァァァ」

 双方から放たれた必殺の炎が、互いの意地を賭けて衝突した。

 ユリから発せられた炎は一片の乱れもなく、紅い光を放ち灼熱の炎を纏う。

 その切っ先は鋭利に尖り、襲い来る凶暴な魔物を貫く矛である。

 対するハウンドの炎も負けじと業火を散らす。

 一極集中収束爆熱砲を不死鳥が受け止め、火蛇が駆け抜ける。

 ユリに炎が迫る。しかし彼女には引く素振りも、目を逸らす素振りも見られない。

 「そんな鳩で私の炎を止められると思うなああああああああ」

 その瞬間、不死鳥を貫くように一筋の光が突き抜けた。

 「なっっっ!?」

 驚愕の表情を浮かべる彼の瞳が最後に見たものは、眼がつぶれるような真っ赤な光だった。

 二つの爆発が巻き上がる。

 炎使いのハウンドは完全に戦闘不能、生死すらもわからない状態となっているが、それはユリも同様だった。

 ハウンドが放った火蛇がユリを巻き込み破裂したのだ。

 炎の勢いは未だ衰えない。それは双方の能力者を失ってもなお激しく燃えていた。


 ユリが炎使いのハウンドを相手にしている頃、シオリは水使いと相対していた。

 普段ならば先手必勝の構えで敵の懐に入るのだが、この相手からは何か嫌な予感がした。

 「おやおやあちらは激しいですねえ」

 水使いの足元を中心に大きな水溜りが発生している。

 通常水を操作する能力者には2つのタイプがある。

 水をあらかじめ用意しているタイプと、空気中から水を発生させるタイプである。

 この水使いは後者で間違いない。地面を濡らす水の量が暗にそれを告げていた。そしてそれは前者よりも強敵であることを意味している。

 「だんまりですか……私とは会話をしたくないと?まあそれならそれで構いません。あなた方はここで処分されるのですから。見たでしょラッキーパイルの末路を」

 「あなたはカナメの共感を受けて何も感じなかったのか?」

 「おや? やっと口を開いてくれましたが、そんなことあなた達を始末して、じっくり時間を掛けて調べればいいじゃいですか。なんてたって10年も時間があるんですから」

 「今回のマイグレート対象者は見殺し?」

 「もしあなた方の主張が正しかったとしても、それは運命です。しかるべき調査もせずに言いたいことだけを言って、暴れまわるとは笑止千万です。自覚してますか?あなた方のやり口は、民衆を扇動して戦争を行った独裁者と同じ手口ですよ」

 「真実から目をそむける事はできない。それに300万人の命を見捨てることも」

 「話になりませんね。私はそういうことを言ってるんじゃないんですが。まあ、もうそれはどうでもいいことです」

 水使いの足元に張られた水に強い波紋が幾重にも発生した。

「それじゃあ綺麗な声で鳴いてください」

 その瞬間、シオリを目掛けて一直線に水線が走った。

 速い。

 しかもアビリティを繰り出す挙動が無かった。

 頭部を狙った水線が髪と耳を掠める。ギリギリで躱すことができたが耳からは血が流れ首筋を汚す。

 超高圧水。

 極限まで圧縮された水であり、その威力は鉄板も容易く切り刻む水のカッターであった。

 シオリが回避できたのは、始めから足元の水を警戒していたたことと、唯一の前兆である水溜りの不自然な波紋に気づいていたからである。

 「アッハー避けました避けましたね。すごいです。テロを起こすだけの実力はありますねえ」

 水使いの笑い声と共に、幾重もの水線がシオリを襲う。刺すように放たれていた水も次第にバリエーションを増し縦横斜めと、あらゆる方向から迫ってきた。

 「くっ」

 紙一重で身体に傷を作る水の刃。

 すでに増幅を発動し、身体能力を極限まで高めた上でこの状態だった。

 少しでも気を抜けば首を飛ばされ、胴体は分断され、手足を裂かれてしまう。

 圧倒的な手数を、圧倒的な反射神経で躱していた。

 「ほらほら。我慢しないでもっと鳴いてください。ひいひい言ってください。泣いて許しを請ってくださいよ」

 頬に飛沫が当る。これは身体のどこからか噴き出した自らの血液だった。

 このままではやがて体力が尽きてしまう。その前になんとかこの状態を脱しなければならない。

 相手との距離は15メートルといったところだった。

 シオリが大きく距離をとる。

 およそ倍。今は30メートルほどの位置である。

 「逃げるんですか?確かにこの距離ならば、あなたは避けてしまうでしょう。でもそれで私を倒す術はあるんですか?みたところあなたは身体能力上昇系の能力者。飛び道具が在る訳でも無しどうするおつもりですか」

 水使いの指摘どおりシオリには一切の飛び道具は無い。

 在るのはその身一つである。

 「制服」

 「んっ、なんですか?」

 「私の制服、ボロボロになった分は弁償してもらう」

 「制服って何を今更いってるんですか。私は死に装束のリクエストを受け付けるほど、お人好しじゃありませ―」

 シオリが飛び出した。

 30メートルの距離を一気に詰め、懐に潜り込む作戦に出たのだ。

 「小娘がっ死になさい」

 迫るシオリを撃ち落さんとばかりに水線の一斉射撃が放たれた。

 肩を、腹を、高圧縮の水が貫く。

 しかしシオリは止まらない。頭と心臓だけを死守し、捨て身の覚悟で突っ込んだのだ。

 そして遂に水使いへと肉薄した。

 渾身の一撃が放たれる。

 それは見事相手の頬を捕らえたかに見えた。

 「お馬鹿さん」

 シオリの腕を水が巻きつき捕まえたのだ。

 足も同様に、水が触手のように伸び動かないように拘束している。

 相手は目と鼻の先に居るが、完全に動くとが出来ない。

 「この水のフィールドに居る限り私は最強。特にあなたの様な体術馬鹿は最高の相手。もうこれであなたは動くことは出来ない。嬲って嬲って嬲り倒して殺してあげましょう」

 水使いの勝利の高笑いが木霊した瞬間だった。

 シオリの強烈な一撃が水使いの頭に炸裂した。

 完全に不意打ち。まともな防御も取れていない会心の一撃だった。

 白目を剥き崩れ落ちる水使いと共に、シオリを拘束していた水が力を失い流れ落ちた。

 「あなたの敗因は私の首を拘束しなかったこと」

 そうシオリが放った一撃は、唯一自由に動かすことが出来る首であり、頭であった。

 つまりは頭突きによる勝利だった。

 「制服代、あとで請求しとくから」

 シオリはそう告げると、腹部の傷を押さえアイテールを集中させた。

 治癒は専門外であるため出来ないが、増幅による肉体強化の延長線で止血くらいは可能なのだ。

 能力を使いながらユリの元へと向かう。

 彼女の決着はすでについており、辺りには業火の残滓が粛々と炎を上げていた。

ご覧頂きありがとうございます。

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