中央公園2
何がおきているのか分らないまま、都市に住まう大人や少年少女達はカナメの声に耳を傾け、映像を食い入るように眺めていた。
カナメの主張の真偽はさておき、外の世界の映像は十分興味を引かれる内容だったからだ。
都市外での生存は24時間が限度。
大戦で使用された有毒ガスやバイオ兵器また核兵器の影響は甚大なもので、1000年は修復不能な地獄の惑星に変貌したと教育されてきたからである。
しかし、どこからとも無く声があがる。
「これって、仮に外が汚染されて無かったとして、何か俺達の生死に関わることなのか?」
「まあ外に出られるなら出たいけど、都市の生活も快適だしな」
「落ちこぼれの戯言じゃねーの」
「マイグレートしたら、外の世界も詳しく教えられるって聞いたことあるけど」
多様な意見が飛び交うが、現時で点でカナメの真意を汲み取れる者は居なかった。
モニタ上では美しい映像から、区画都市を至近で撮影ものへと変わり、レンズは次第に横へとスライドする。
そして映されたのは、都市に隣接された建造物、プラントを捉えた映像だった。
あれは何だ?という声が各所から上がる。
『皆さん。今モニタに映ったこの建物、これがなんだか判るでしょうか?これはマイグレート時に、対象者が全員この建物に収容されます。しかし上級区画都市への移送船などではありません』
ざわついていた観衆が少し静かになった。
少なくとも都市の放送施設を占拠してまで伝えたい事の核心に触れる部分だと、多くの者が気づいたのだ。
カナメの深呼吸、そして鼓動までもが、皆に伝わる。彼の強い緊張までもが伝播し、観衆の興味と不安を駆り立てた。
そして震える唇から言葉が紡がれた。
『これは人間から死ぬまでOZEを搾取し続ける為の施設です』
静まり返る観衆。
衣擦れの音さえ聞こえないほどの静寂が区画都市を支配した。
『にわかに信じがたい内容なのは理解しています。なのでこの映像を見てください。これは内部の映像です』
モニタの映像が切り替わる。
そこにはリズが撮影したあの区画都市オリオンの光景が映し出されていた。
巨大な空間に並ぶ無数のカプセル。
青白くも全体的に暗い照明の下、浮かび上がるのはガリガリに痩せ細った人間の顔。
幾多のチューブに繋がれ生かされている無残な光景が画面を覆う。
その瞬間、都市のいたるところで悲鳴が上がるが、全体的には冷静な状況だった。
食い入るように、注意深く観察する者がほとんどで、取り乱した者を回りの人間が支え介抱している。
そういう状況の中で、多くの者がこの映像を真実とは受け止めて居ない。
それもそのはずだろう。
今まで信じてきた社会が全て嘘だとは思うことが出来ないからだ。
しかし映像はリアルに場景を捉えており、完全に偽物の映像だと一蹴出来ない迫力があった。
『この施設では人間をカプセルに収容し、1年間に渡りOZEを搾取し続けます。搾取が終わると、生きていようが死んでいようが纏めて処理され帰ってくることはありません。これが地球に設置されている全区画都市で行われています。110基ある都市で毎年11基から、6000万人近い人間がこういう形で処理されているのです』
再び静寂が都市を襲う。
『黒幕の目的は人間の持つOZEです。そのために区画都市を作り、人間を繁殖させてきたのです。だから今私達は戦わなければならない。この世界は創られた偽物の世界。本当の幸せを手にするためには戦って勝ち取るしかない。だから一緒に戦ってほしい。人類を救うために、友や愛する人を守るために戦ってほしい』
カナメの懇願に比例して、ぽつぽつと辺りに喧騒が戻り始める。
しかしそれはカナメ達が切望する賛同の声などではなく、非難や罵倒に近い言葉だった。
「証拠だ。証拠をだせ」
「良く出来た映像だが偽物だろ」
「頭が狂ってるんじゃないのか」
「住民の不安を煽って楽しいのか。恥を知れ」
各所から上がる声が大きなうねりとなって都市を包み込む。
『信じてもらえないか・・では、今から皆さんにある記憶を見せたいと思います。これは10年前のマイグレートから、1年間に渡り私に届き続けた、マイグレート対象者の叫びです。感応を通じて伝わる彼らの恐怖と、助けを求める声。全てを伝えるにはあまりに悲痛。だから私があの日から続いた声の一部だけを皆に届けます。辛く苦しい内容になることは重々承知しています。拒否したい方が多数いることも理解しています。でも今逃げたらダメだ。これは確実に訪れる未来、自分の姿なのだから』
全住民の脳裏にある情景が映りだす。
戸惑い困惑する人々の意思とは無関係に、彼らは幼い少年の、記憶を追体験することになった。
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