スクールライフ1
遥か昔、時は西暦2012年12月。
史実では、第三次世界大戦が勃発した。
きっかけは世界恐慌だった。失業率の低下だけでなく、地球規模の異常気象により食料不足も人々の危機を煽りアメリカ、欧州で暴動が頻発。呼応するかのように中国経済もバブルが弾けた。
あとは雪だるま式に連鎖する負の感情がテロリズムを呼び、世界を巻き込む戦争へと発展した。
それから1年に満たない時間で世界は核の冬を迎えることとなり、なし崩し的に終戦へと落ちついた。
80億の人口は2億人まで減少し、さらにその中でも厳しい地球環境を生きぬけたのは1000万人未満だった。
残された人類は確実に訪れる滅亡を実感し、一丸となってあるプロジェクトを実施した。
それが区画都市計画。
生き残った人類をドーム状の敷地内で生活させる計画である。
外界の劣悪な自然環境から、種の保存と新たな繁栄を目的として施行された。
世界最初の区各都市は山をくり抜いて作られ、ノアの箱舟と呼ばれた。
今ではその箱舟も老朽化に伴い廃棄されている。
大戦から100年近くたった現在、西暦2110年でも、人類は区画都市に住み続けている。
この極東の洋上に位置する区画都市、通称シリウスも例外ではない。
都市外部へのアクセスは完全に禁止。外界へ出ることは許されない。
大きな理由は地球環境がまだ高濃度で汚染されていることが挙げられる。区画外界へ出ることは自殺行為、初等部の1年生でも知っていることだ。
しかし人々がこの区画都市を出る日が訪れるのも事実である。
それは10年毎に訪れる。
今年は、その10年に一度のマイグレートの年。
20~29歳の人間全てが、上級区画都市へと移行されるのである。
マイグレート後の生活は、現在の成績や実績に反映される。従って学生はより成績上位を目指している。
高等部教育を修了した者は、何かしらのかたちでOZE研究に時間を費やすことになる。
ではOZEとは何か?
それは生体エネルギーのことを示している。
戦後、抑圧された閉鎖空間で長い時間を過ごすうちに、人類が得た新たな能力だった。
ちなみに例外として研究員に属さない者も存在している。
それは主に女性で、高等部卒業後の19歳から出産の義務が課せられるからだ。
恋愛関係者、つまり異性のパートナーがいない者には体外受精による妊娠が施されている。実際多くの者がこの方法での妊娠を行っているのが現状だ。
義務によって女性が子を成すことについては、過去に揉めた事実があるが、現在当の女性達は至ってドライな思考をしている。表立って拒否することが出来ない社会であるのも関係しているが、批判している者を見ることは少ない。
課せられる義務に対する評価が正当に行われているということもあるだろう。
マイグレートのタイミングによるが、最長で29歳までをこの区画都市で過ごすことになる。その間に子を成せば成すほど、実績としてその後の生活に影響を与えることが約束されているのだ。
生まれた子供は例外なく全て、『PreINS Institution』通称ピーアイアイと呼ばれる施設で2歳までを過ごし、その後6歳までは幼等部と呼ばれる施設で過ごす。
その後は全寮制で四人部屋の初等部、二人部屋が与えられる中等部、そしてやっと一人部屋が与えられる高等部へと進学することになる。
進学先の学校は成績とOZEの能力で振り分けられる。
成績上位者の中でもさらに一部の者だけがエリートコースに選抜され、区画都市の治安維持を担当する憲兵隊へと配属される。
この時点でマイグレート後の生活は死ぬまで安泰である。
しかしこの世界について不信感を抱く者が居るのも事実。
それは上級区画都市への道が一方通行であるからだ。
マイグレートの特性上、ここに帰ってきた者はいない。
それともう一つ理由を挙げるならば、区画都市の運営をしている人間を見ることが無いからだ。
比較的人口の少ない区画都市でも、1000万の人口を有しているが、全ての運営をコンピュータで制御している。
育児を行うのも機械。マムと呼ばれるアンドロイドが数万体規模で配備されている。
とても穏やかで優しく、誰もが母性を感じる存在であるが結局は機械。プログラムであって心はない。並列処理されるマム達の思考回路は、一体がすべての子供の母であり、また全体が一人の子供の母でもある。
育児だけじゃない、食料や衣類といった生活必需品の生産、交通や運送といったインフラ整備に至るほぼ全てを機械に頼っていた。
この区画都市シリウスは円形に作られており、直径35キロメートル程の密閉された空間だ。
天井は外界の光を取り入れることが不可能な為、発光パネルが張られているが、基本的に外環境に合わせた昼夜を演出している。
また定期的に散水も行われており、人工的に雨を作り湿度管理も行っていた。
とても暮らしやすく、平和な環境が整えられている。嵐や地震といった天災も克服している。ここはすでに理想郷なのだ。
しかし多くの者が何の疑問も抱かずマイグレートを行い、更なる理想郷を求めている。
すでに完璧である世界を捨て、さらに優遇を求めるのだ。
この都市にある全ての情報発信クランは、間近に迫ったマイグレートのニュースを一面に持ってきている。
普段は下世話な話題を連ねる芸能ニュースクランでさえも300万人がどのような手順と順番でゲートを越えるかを説明しているくらいだ。
そう、街はどこもかしこもお祭りムードとなっていた。
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