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治安維持局中央本部5

 通路に出るとすぐ横に屋上へ繋がる階段があった。傍の扉には情報通信室というプラカードが掲げれている。

 放送設備用のスタジオも併設されているが、それは遥か階下であった。このフロアは、都市内で毎日放送される公報から、民間クランが申請し受理された映像を配信するための施設だった。

 ネットワーク配信とうい手段もあるが、やはり都市内の至るとこに設置されたパネルに映し出されるということで視聴者の桁が違う。

 また治安維持局が管理している映像システムを徴発することは、冗談や遊びでは無いことを示す手っ取り早い手段でもあった。

 ドアに張り付き感応を発動、中の様子を探る。

 「シオリ、中は手前に1人、奥に2人居る。手前を俺、悪いが奥の1人を速攻片付けた後、もう1人を抑えてくれないか」

 「まかせて」

 情けない話だが、スピードは遥かにシオリが勝っている。ユリとの実技でも見せたように体術もエキスパートレベルならば、この采配は当然の結果だった。

 2人が配置につく。

 扉を開けるのはカナメで、シオリはすでに臨戦態勢をとり、いつでも飛び出せる体勢にある。

 カナメはアイコンタクトで合図を送るとそっと素早く扉を開いた。

 手前に居たの男が開いた扉に気がつくも、声を発する前にシオリは奥へと突き進む。

 次いでカナメが男の背後へまわると、首に腕を回し強く締め上げた。

 声にならない声を上げ、男がもがく。

 カナメの腕を掻き毟り必死に抵抗するも40秒足らずでぐったり動かなくなった。

 「シオリ大丈夫か」

 急いでカナメがシオリの方へと駆け寄った。

 途中に男が腹部を押え前のめりに倒れているが、すでに意識は無い。

 さらに奥へ行くと、後ろ手にされ床に押え付けられた男が悪態をついていた。

 「クソアマ。こんなことしてただで済むと思うなよ。絶対に後悔させてやる。顔も名前も覚えたからな。この貧乳女」

 罵倒にも表情ひとつ変えず聞き流していたシオリが、最後の一言でピクリと反応すると、無言で彼の腕を捻り上げ始めた。

 「いたたたたたたた」

 苦痛の声を上げる男。シオリに手を緩める様子は無い。

 「シオリその辺で」

 「カナメ、この男が言った貧乳について私から釈明がある。客観的に見た場合確かにサイズが劣る部分は否めない。しかし片手で押さえるとほのかに指の隙間から溢れる質量。そしてハリのある弾力と、白い肌。感度も上々だと自負している。さらにこれは苦節16年の歳月でカナメの為にだけに、丹精込めて仕上げた一品もの。この場合は二品か。つまり私の胸はサイズの大小に関わらず、区画都市シリウスの頂点を極める品質のレベルに達している。この男が言った愚かな侮蔑に惑わされないよう注意してほしい」

 シオリが捲くし立てるが、その間も男は苦悶している。

 人は誰しも、絶対に触れてはならない事がある。

 この男はそれに触れたのだ。同情の余地は無いが、今は時間が無い。

 「シオリ分ったからその辺にしろ」

 捻りあげられた腕が緩和し、男の悲鳴がとりあえず収まると、カナメは男に問いかけた。

 「このデータカードに入れられた映像を都市全体に配信したい。方法を教えてくれ」

 「誰が喋るか。貴様らこんなことしてただで済むと思うなよ」

 「皆の命がかかってるんだ。頼む」

 「例え殺されようと俺は絶対に喋らん」

 取り付く島も無いとはこのことだろう。いきなり賊が侵入し暴力を振るわれれば当然といえば当然であった。

 「仕方ないな……シオリ代わってくれ」

 組み伏され、押えられた腕をカナメが掴み、抵抗されないよう最低限の力を込めたままシオリと立場を入れ替えた。

 「もう一度聞く。データカードの映像を配信するには、まず何をしたらいい?」

 「何度聞かれても無駄だ。俺は答えん」

 頑な態度はカナメになっても変らないが、しかしその抵抗は無駄なものとなる。

 「シオリ、そこの操作盤に取り付けられたコンピュータにこのデータカードを入れてくれ」

 手渡されたデータカードを受け取るとすぐに指示通りの動作をした。

 「準備完了」

 「あとはモニタに映ってるタイムラインと、その横の配信スケジュールが同期している。データを読み込んで書き換えればいいみたいだ」

 「了解した」

 「カナメ。変更許可にパスワードが求められてる」

 的確な指示を出すカナメに、憲兵が驚きの表情をとっていたが、ここに来て少し余裕が戻って来た。

 「俺は絶対に教えんぞ。諦めるんだな」

 勝ち誇った憲兵をよそに、カナメが言葉を紡ぐ。

 「Sirius101778」

 「了解…………解除完了。これでいつでも映像が切り替え可能」

 「貴様、なんでパスワードがわかる。ま、まさか俺の心を」

 慌てる憲兵。

 反面カナメは至って冷静だった。

 当て身を入れ昏倒させると、立ち上がりシオリのそば、操作パネルへと近づいた。

 時間は11時5分。

 第4目標クリア。

 嘘のように順調な事の運びだった。

 「おーっすカナメ。こっちは順調か」

 同時に息を切らしたユリとコウタがフロアに入って来た。

 「さすがに120階分駆け上がるのは疲れたみたいだな。こっちは順調だよ」

 「それはなによりね。もう準備は終わったの?」

 「今終わった。カナメ、このボタンを押せばいつでも映像は配信される」

 「よし、急がないとリズが大変だからな。みんな聞いてくれ。今から予定通り作戦を実行する。俺とシオリは屋上へ、ユリとコウタはリズとここで合流し、事が終わるまで踏ん張ってくれ」

 「おう」「了解」「まかせなさい」

 皆から返事が返る。もうこれで後には戻れない。偽物の楽園にピリオドを打つ刻が来たのだ。

ご覧いただきありがとうございます。

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