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目標

 著しく消耗した体力、過度の疲労が負担となり午前中の授業を治療室で過ごしたカナメ。

 幸いにも大きな怪我も無かった為、休養をとるだけでよかったのだが、シオリが治癒能力者を無理やり連れて来てくれたお陰で、午後には日常生活に不自由しない状態になることが出来た。

 教室に戻ると、コウタやユリが出迎えてくれただけでなく、その他のクラスメイトも温かく迎えてくれた。

 あの超高度電離陽子砲の猛攻を長時間に渡り耐え凌いだのだ。もっと奇異な目で見られる者と思っていたが正直嬉しい誤算だった。

 自身の能力について隠していることがチクリと胸に刺さる部分はあるが、小中等部と基本的に慣れ親しむことを避けていたカナメにとって悪い気分では無かったのだ。

 しかしそれよりもカナメにとって良い効果があったのは、昨日のように、大挙してリズファンに追われることが無かったことだ。複数の視線は感じるものの、あの超高度電離陽子砲のタツミと渡り合ったという事実が全生徒に衆知されたのだ。

 この手の噂は得てして誇張される傾向が強い。

 本件も例に倣い広まったのだろう。

 正面きっての襲撃は命に関わるものと認識されたのだった。

 放課後4人は、中央公園へと向かった。

 もちろん今後の事について話し合いをするためだ。


 「ところでユリ。本当によかったのか?」

 カナメがユリへ問いかける。それはユリがまだ迷っているように感じたからだ。

 「くどい。私は自分で考えて決めたのよ。そもそも前提となるリズの記憶の真贋について全面的に信じてるわけじゃないけど、それならそれで、ギリギリまで考えて行動する。それに結局カナメは私が居ないと今朝みたいになるでしょ、皆を無鉄砲に暴走させない為にも私は必要だわ。」

 「真っ先に暴走するのはユリ」

 「うっさいわねシオリ。あんたなんてほいほいカナメについていって止めることをしないでしょうが。だから私が必要なのよ」

 「素直になれよユリ。カナメが好きだからついて行きますって言ったほうがポイント高いと思うぞ」

 「な、なんでそうなるのよ馬鹿コウタ。大体あんたはちゃんと考えたの?面白そうだからとか、ふざけたこと抜かしたらしばき倒すわよ」

 「失礼な女だな。俺がそう見えるか?みんなも何か言ってくれよ」

 「見える」「見えるわ」「見えるな」

 「ちょっ、ひどっ」

 崩れ落ちるコウタをよそに皆は中央公園へと足を踏み入れた。

 「まあ冗談はさておき、ユリもシオリもコウタもありがとうな。来てくれたことは感謝してるし心強く思ってる。これからが大変だがみんなで頑張ろう」

 はなから困難は覚悟の上、最悪全住民を敵に回す可能性だってある。

 しかしそうなったとしてもこの戦いは必勝の結果以外ありえない。失敗は許されないのだ。

 暫く歩くと、公園内部の中央広場が見えてきた。

 すぐそばの噴水の脇にはひとつの影。

 ラッキーパイルのリズが佇んでいたが、こちらに気がつくと手を振って迎えてくれた。

 「待ちわびたよカナメ。そしてユリ、シオリ、コウタも良く来てくれた」

 「まだあんたを全面的に信じたわけじゃないんだから、勘違いしないでよね」

 「そうだぞラッキーパイル。俺たちが置かれている状況は理解したつもりだが、お前が何者なのかハッキリしてもらおうじゃないか」

 ユリとコウタが隠すことなくリズに意見し不満を述べる。リズはすこし驚きながらも口を開いた。

 「カナメ。私は別に全てを伝えても構わなかったのだが、どうやら君は伝えてないようだな」

 「これは俺が言うよりリズが自分で伝えることだと思ったんだよ」

 含みのある笑いを漏しリズが長い髪を掻きあげた。

 「そのまま私の記憶を全部見せれば良かったと思うんだが、カナメがそういうなら、そういうことにしておこう。まあ私の正体については作戦会議の後にたっぷりとしようじゃないか」

 ユリとコウタそれぞれから今すぐ説明をするように抗議がでるが、話しが長くなるという理由で後回しにされた。

 それでも抗議の声を上げる2人だったが、カナメに諌められ渋々納得する形となった。

 「早速これから私たちのやるべき事を説明するけど、その前に一応自己紹介を。私はリズ。ラッキーパイルと呼ばれるのはあまり好きじゃない。それと敬語は無しで、是非リズと呼んでくれ」

 「言われなくてもあんたに敬語なんて使わないわよ。それより話を進めてちょうだい」

 「協力的で嬉しい限りだ。それじゃあまず、私たちのやるべき事。最終的に成すべきことは、全人類の解放だ。そのためにはこの区画都市シリウスを解放しなければならない」

 「区画都市の解放っていうけど、何を持って解放になるんだ?俺たちは誰が敵なのかもしらないんだぜ」

 コウタが口を出した内容は皆が思っていることでもあった。

 「そうだな。まず解放の定義として、都市住民が実際に置かれている立場を理解するということ。理解した上で、マイグレート用の東側ゲートを破壊し外に出てもらう。外界は汚染なんかされてない。綺麗で豊かな世界なんだと知ってもらう」

 「そんなにすんなり行くものなのか?」

 「そうだな、説得に応じなかった治安維持局の憲兵達はゲートの破壊前から熾烈な邪魔をしてくるだろう。でもそれを退けて壁に穴を空ける」

 「そこではじめて本当の敵が出てくるわけだな」

 カナメの発言にリズから笑みが漏れる。

 「そのとおりだ。大軍で鎮圧に来るだろう。その時はこの都市の人間たちが全員で協力しないと皆殺しだろうな」

 「皆殺しってマジかよ……いくらなんでも」

 「何のために区画都市を百十基に分けて作ったと思う?それはこういうことも見越した上でのリスクヘッジさ。疫病や災害もそうだが、人間の全滅を防ぐ措置。このシリウスがダメだと判断された場合は、他都市へ飛び火する前に処分されるだろう」

 重い沈黙が場を支配する。中途半端な状態でズルズルと計画が進めば作戦は皆殺しという結果で終わることになる。

 「どのみち……」

 沈黙を破ったのはカナメだった。

 「どのみち、辿る未来はプラントでの死だ。だからこそ絶対に成功させよう」

 「その通りだ。用意されている道は地獄。私たちが抗うことだけが新たな道を作る」

 「生か死」

 「それだけじゃなさシオリ。生きるということはこれから俺たちが無限の可能性がある未来を作るということだ。そうだろカナメ」

 「分ってるじゃないか」

 「コウタにしてはいいこと言うじゃない。少しだけ見なおしたわよ」

 「コウタにしては、は余計だ」

 場に笑いが起きる。

 困難な状況を前にして暗い気分のままでは先が思いやられるが、これなら心強い。

 「よし、それじゃあ具体的な説明を頼むよリズ。そこまで考えてあるんだろ?」

 カナメがリズに問いかける。士気は十分。後は段取りを詰めるだけである。

 「当然だ。作戦開始は2日後、マイグレート前夜祭の23時に開始する。前夜祭は都市を上げての盛大な祭りだ。この公園を中心として中央区に殆どの人間が集まる。零時を迎えるカウントダウンが終われば、丸3日をかけてマイグレートが始まるんだ。だからこその人が集まる時間を狙い、カウントダウンが始まる前までに真実を伝える。その為には行かなければならない場所がある」

 「場所・・俺が感応を効果的に使う事が出来る場所か・・」

 リズが頭を上げ、一点を指す。

 それにつられるように皆が、その先へ視線を移した。

 「ま、まさかあれか?」

 コウタの乾いた笑い声とカナメの震える声が重なった。

 それは中央公園のすぐそばにそびえるシリウス一番の高層ビル。

 「私達は区画都市治安維持局。その中央本部を占拠する」


ご覧いただきありがとうございます。

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