決意1
結局昨夜は寝付くことは出来なかった。
目を閉じると、プラントでの映像が何度もリフレインしたのだ。
それに今後のことを考えると、とても寝ることは出来なかった。
昨日、中央公園で感応を使ったあとの三人のショックは甚大なものだった。
誰もが口を開くことができず、呆然と立ち尽くした。
真偽の程は言うまでもない。
リアルな描写と生の質感が、現実にあったことだと強制的に認識させた。
しかしそれを認めることは、収穫までぶくぶくと肥えさせられているだけの畜生であることを認めることでもある。
自身の全てを形作ったこの社会、区画都市こそが、人間を飼育するためだけの箱庭。
その中で疑うことなく夢を追い、努力し、幸せを夢見続けてきた人類には受け入れ難い内容だった。
カナメはリズが、この役目を託した意味を理解していた。彼らに対する罪悪感は冷静になればなるほど増してはいくが、必要なのは一人でも多い仲間である。
一生ものの傷を負わせることを承知しながらも、真実と向き合うきっかけを与えなければならない。
自分が嫌われることで都市の人間を救えるのなら、という安い自己犠牲が無いわけではないが、感応で見せたものは、そんな自己陶酔から発せられるものではなく、もっと狡猾でしたたかな思いだ。
それは脅しに近い。
見た以上、知ってしまった以上、戦わなければ死ぬだけだ。
夢なんて無い。
幸せなんて無い。
未来に有るのは生か死か。
死にたくなければ共に戦えという本心が込められいた。
優しさとは何なのだろうか。
今のカナメには分らないが、友を放っといて死なせることではない。
彼は強くそう思った。
だからこそ生きるために多くの人間を巻き込み、打算的に行動することを胸に誓った。
あの場で最もショックを受けていたのはユリだった。いい意味で優等生であり、規範を破るような娘ではな無かったからこそ、反動が大きかったのだ。
抜け殻のようになったユリがようやく正気を取り戻したのは深夜を回った後だった。
他のメンバーもその場に居たが、誰一人文句を言うことは無かった。しかしまだまだ沈黙が続きそうだったので、カナメは話を切り上げ、皆で一路自宅を目指した。
帰りの道すがら、カナメは今後どうするかは各自で考えてほしいと告げた。当然約束を守ることを前提としてである。
そして協力してくれるならば放課後、公園に来てくれることを伝え、解散した。
食欲は無く朝食を摂る気分でもなかったので、少しめに自宅を出た。
しかしエントランスに差し掛かったところで、歩みを止めることとなった。
「よう。おはよーさん」
「カナメ、おはよう」
コウタとシオリが待ち構えていたのだ。すこしだけ気まずい思いをしつつも平静を保ち挨拶を返す。
「おはよう、二人とも早いな」
「眠れなかったからな!」
自信満々に答えたコウタの目は真っ赤に充血している。
シオリも普段どおりの印象だが、良く見ると少し目が赤くなっていった。
「カナメ。昨日のことで話がある」
「俺もだぜカナメ。放課後まで待つのは性にあわねえ」
「わかった。じゃあ歩きながらでいいな」
カナメはそう告げると、2人を連れて高等部へと足を進め始めた。
意外にも最初に口を開いたのはシオリだった。
「カナメ。結論を言うと私はカナメに協力する。今死ぬことも10年後死ぬことも許可しない。重要なのはカナメが無事なこと。カナメが死地に赴くのなら盾になり、刃を手にするのなら剣となる」
「ヒューヒュー。愛されてるねえカナメ。うらやましい限りだ。理由も単純でいいじゃないか俺はそういうの好きだよ。もうお前らその辺で子作りしてこい。許す」
「カナメ。じゃあ早速その先の路地で」
「するかっ!コウタは煽るな。シオリは冗談でも乗るな」
「私は本気。いつでも準備OK。カモンエブリバディ」
カナメから大きなため息が漏れる。
「もういい・・。とりあえず、ありがとな。感謝するよ」
カナメがシオリに頭を下げた。
これは後には引けない道に引きずり込んだことへ謝罪と感謝を込めた礼だった。
「私が決めたことだからカナメは気にしない」
「おうおうちょっと俺を忘れてないか。二人で空気作ってんじゃねーよ」
「なんだまだ居たのか」
「ひどっ、ひどっ!重要なことだから二度言ったけどもう一度ひどっ!」
「冗談だ。それよりコウタも返事きかせてくれるんだろ?」
「そうだ」
胸を張る仕草で立ち止まるコウタを無視しながら二人は歩みを止めることはなった。
「おいおいちょっと待てよ。協力する。俺もカナメに協力するよ。大体選択肢なんかないだろ。殺されることが分ってて対処しないやつはただのマヌケだ」
カナメが立ち止まりシオリ同様に頭を下げた。
「ちょっとまてカナメ。協力はするが、俺はシオリほど単純じゃないぞ。ラッキーパイルの記憶は本物だと思う。だがなんであいつが区画都市オリオンの外界で活動してるんだ?侵入用のアクセス許可も持ってたみたいだし、めちゃくちゃ怪しいじゃねーか。だからその辺の説明がほしい。あいつの立場や、この都市を管理している連中の正体を教えてほしいんだ。じゃないと戦えねーだろ」
コウタの疑問は当然のことである。
カナメもこのことについては突っ込まれるものと思っていた。
リズから記憶を貰った際にカナメは彼女の記憶全てを垣間見た。生まれてから今までである。だからこそ正体はおろか立場も理解していたが、それは敢えて伝えていなかった。
ある意味逃げたとも言える。
「それは放課後、本人から聞いてくれ。たぶん俺の口から話すような内容じゃないと思う」
カナメの視線がコウタからやや下に外れる。
「そうか……じゃあ本人に聞くまでだな。放課後が楽しみだ」
「すまない」
「気にするな。カナメは何も悪くないんだ。それよりも俺はユリが心配だな」
思い込みが強い性格であるし昨夜の落ち込みも人一倍大きかった。
「今日は学園にも来ないかもしれないな……」
まじめな性格だからこそ、治安維持局の人間、比較的話しやすい360学区高等部駐在のヒイラギに相談するのではないかという懸念がコウタにはあった。
その心配に対してのニュアンスをカナメは汲み取っていたが、この場で言及することは無かった。
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