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四季  作者: 佐方仁優
8/8

早春に思うこと

ごろん、と寝転がっていた彼の重たそうな体が動いて、ああ、目が覚めたのかってわかった。

水の入ったやかんに火を入れると居間に行く。

彼の顔を覗き込むと、ひとつしかない枕の上に頭を乗せてこたつのむこうに見えるテレビをまだ意識の戻らない顔で見ている。

まだ、眠いんだろうな、でも彼はせっかくの休みだから勿体ない、夜勤から帰ってきて、2、3時間だけ寝たら、いつも無理矢理目を覚まそうとする。

しゅーしゅー音の鳴るやかんから急須にお湯を移してしばらく置いて、綺麗に色が出たお茶をマグカップに入れると、こたつの上においた。


「ありがとう」

どんなときでもお礼の言葉が口から出るしつけの行き届いた彼はそういうと、マグのお茶を一口飲んで暑さを確かめた後、一気に残りを飲み干した。

こたつで寝ると喉が渇くしね。

彼がお代わりを欲しがる様子がないのを確認すると、私もこたつの中に入った。

起きぬけの彼はすぐには頭が回らないから、声をかけてもまともな返事は返ってこない、だから最初は自分からはあんまり声をかけない。

調子が戻ったら、自分から話し出すから。

それまで、待つ。


案の上、だんだん意識が戻ってきた彼はテレビのクイズ番組を見ながら、確認するように私の手首をつかむとテレビの問題に答えながら、私の手のひらを自分の頬にあててみたり、指や手のひらをなでて感触を楽しんだりする。


「これって、やっぱこっちを先に書くのが正解だよな」


解答を私に確かめたりするときはちょっと疑心暗鬼になってるのかな?

自信があるときは即答するし。

今の問題は簡単な漢字の書き順なんだけど、小さいときに意外に間違って覚えてたりするのよね。


「う~ん、私もそう習った気がするんだけど・・・」


そういいながら、テレビから目を離して彼のほうを向くと、すっかり目が覚めた彼が私を見ていた。

迷っているような、確かめてるような、試しているようなあいまいな視線だ。

クイズの答えにまだ迷ってるのかな?と思いながら見つめ返していると、彼の手が再び伸びて私の肩をつかむとぐいっと彼の胸に引き寄せられた。

私の手の感触では飽き足らなくなったのだろう、彼が私の体あちこちに触れたり、なでたりしはじめた。




・・・さっき、寝る前にしたばっかりなのにな・・・





こういう性急な態度をとられたとき、なんか複雑な気分になる。

若いと思うんだ、彼。



彼が会社で働いてるは知ってる。

夜勤がある仕事、独身だから、という理由で休みの日に彼のシフト表に夜勤が入れられていることも前に彼から聞いた。

でも、彼の年齢を私はまだ聞いてない、聞くのが怖い。

もしかしたら彼、ものすごい年下かもしれないから・・・


過去に彼女はいたなぁっていうのはわかる

なんか『一緒にいる女の子にはこうするべき』みたいなのが彼の頭の中では確立されてる。

普通に手を繋ぐとか、肩とか腰をよせるとか、デート中、ドア開けてくれたり、重い荷物持ってくれたり、車道側歩いてくれたり・・・そういう扱いを受けるのは大切にされてる感じがして嬉しい。

でも、なんていうか構いたがりすぎというか、まだこなれてないというか、なんとなく学生の雰囲気がまだ幾分か残ってるような気がするのだ・・・


恋愛を楽しむ、というよりも相手を思い、追いつめていくような態度

どこか、彼の中のどこかの部分が必死に私との間の隙間を埋めようとする。


起きている時も、寝ているときでさえ、彼は私の体に触れていないと落ち着かないようだ。

彼の眠りがまだ浅いときに体を離そうとすると、ものすごい不機嫌な顔で再び捕まえられる。


まだ彼と一線を引いていたころはそうでもなかったけど、今は体だけでなく、心まで求められる。

私のことで気になることがあると何度も問い詰められる。

思っていることを話して欲しい、今何を考えていたのか聞きたい。

君の今の気持ちが知りたい、と。


そんな時、半分本気で思ってしまう。

そのうち私は自分のすべてが彼に乗っ取られてしまうのではないか、と。


そしてまたその次に思うのだ。

彼のその少し狂気じみた態度にすっかり馴らされてしまった私は、そのうちそれを失うことを恐れるようになるのではないか、と。

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