再び冬が来て・・・
一応、『四季』の番外編です。でも私意外にも、この『四季』が気に入ってしまったので、間をあけて、ちょくちょく話を足していくかもしれません。ですので今回完結はなしです。
気がつくと窓の外は雪が待っていた
風に乗って白い破片のように見える雪が舞い上がっている
これほど軽い雪ならば積もりはしないだろうけど
外がいかに寒いかを想像すると身震いがする
ベランダに干していた洗濯物を部屋の中で乾かそうかと思ったが、もうすぐしたら彼が帰ってくるからと思い直してそのままにしておく。
さすがに洗濯物を吊るしている部屋へは彼を上げられない
お風呂場に退避させるというのもあるけど・・・シャワー使うかもしれないし・・・
こたつに電源を入れ、昨夜ベッドに入るまで読んでいた本を寝室から取ってきてこたつに入りながら読み始めた。
最近、好きになったサスペンス系の小説
前はハッピーエンドの恋愛ものしか読まなかったのに、今はこういうものも読むようになった
それは彼と刑事物のテレビドラマを毎週見るようになって、こういう類のものを面白いと思うようになったせいだ
ニュース番組も前はチャンネルを適当に変えてみていたのにが今は彼の定番のものに決まってしまった
家で作るごはんも前はパスタだけで済ますことが多かったが、今はしっかりとしたおかずと白いごはん、それに味噌汁まで作るようになった。
納豆やタッパに入った煮物は彼がいつでも食べられるようにと常備してある。
変わったのは小説や冷蔵庫の中だけじゃない。
洗面所においてある歯ブラシも増えた
寒くなった時の為に置いてある男物のフリースのカーディガンの色も私の家のインテリアとは相容れない青と黒の大柄だ。
所々に感じる彼の気配を・・・それを何の悩みも持たずに享受できるようになって私は幸せだった
ピンポーンと玄関から音がしてドアを開ける音がする。
立ち上がって向かうともうすぐそこに彼が来ていた
外気の冷たさで鼻を真っ赤にしている、上気した頬、目には喜びが現れていて、口の端は緩むのを抑えているのがみてとれる。
「ただいま」
そういった彼の声はやはり明るい
どうして夜勤明けで疲れているはずなのに幸せそうなんだろう
去年の今頃は、そう思っていた
でも今はわかる
こうやって顔が見られただけで嬉しくて仕方ないんだ
私も本当はそうだった、でも、そんな態度必死で隠してた
軽い女だって思われてしまいそうで怖かったからだ
でも、あの時、そういうことを気にしないで、もうちょっと自分に素直になっていればもっと早く彼の気持ちにも気づけたのにね、今はそう思う
私は彼の首の後ろに手を回そうとして背を伸ばす
「おかえり」
彼の体に身を預けると冷たいコートが顔をなぶった
彼の匂い・・・
顔を上げると赤いマフラーがあって彼の唇がかくれている
2人でついふきだしてしまった後、私は丁寧に彼のマフラーをほどいた
そのままキスを受けていると彼が私の背中をさぐって手を服の中に入れようとするからあることを思い出して綿者慌てる
「今日、ダメなの・・・あの・・・アレで・・・」
「・・・あ・・・」
週に一度、夜勤明けに私の部屋にやってくる生活を続けて一年になるけど、そういう関係になったのはつい先月のことで、だから今までこういうことを言う必要はなかったから良かったんだけど・・・
「・・・そうか・・・じゃあこっち」
私の手をぐいっと手を引っ張るとベッドに連れ込まれる
「何もしないから・・・このまま寝かせて・・・」
そういいながらぎゅっと体を押し付けるようにして抱きしめられる
こうなってしまうと彼が完全に眠りに入るまではここからは抜け出せない
私も観念して目をつぶって眠りの中に入っていった・・・
結局3時間くらい眠ってしまって目が覚めたころにはもう少し外は暗くなっていた
私がもそもそと動いたせいか、彼も目が覚まして大きく伸びをする
お茶でも入れようと台所に行って戻ってくると彼はコタツに座ってなんとなくテレビを眺めていた
「アレの時ってやっぱ普段と違うの?」
「前はね、結構痛かったんだけど・・・今はあんまり感じない」
「痛いってどういう感じなの?」
「・・・うーん、胃壁がはがれていく感じ?」
胃壁がはがれた経験はないけどね、とつけたして彼の顔を見るとテレビを見ている顔がゆがんでいた
「今はね、あんまり痛くもないし、なんていうかこう気持ちのいいくらいダバダバって出てる感じでね、トイレでもなんかすごく血の匂いがして、わぁって思ったりするの」
昔はめんどうだって思ってたけど、今はなんとなくそう言い切ることはできなくなった。
血が出るのは女の印、赤ちゃんが作られる体であるという印
・・・なんでだろうか、彼と知り合ってからはこういうことが大切に見えてきたんだ
彼の事を時々、子供みたいに感じるからだろうか・・・
それが母性本能をくすぐるのか・・・
彼は告白してからのこの一ヶ月、それまでの態度が信じられないくらい私に甘えるようになった
もともと有無を言わさず私を添い寝に持ち込ませていただけあって、強引なほうではあったけど今は拍車がかかったみたいにべったりとくっついて離れないし、声も甘い
「・・・血の匂い・・・それだけ血が出ても痛くないんだ」
「うん、なんでだろうね、考えると変だよね、怪我してるわけでも無いのにね、でもそれいうと、女って本当に変、だって、子供できた途端にいきなり牛みたいにおっぱいから乳が出てくるわけだし・・・だってそれまでは体の中の液体って血しかなかったんだよね、急になにがどうなってそんなものが発生するのかわかんないなぁ」
そういって顔を上げると、何かが止まったような表情の彼が見える。
ちょっとディープな話だったかな、と後悔しはじめた時、彼が動き出して「座って」と私をベットの上に持ち上げて腰をつかせる
そして私の前にしゃがむと私の腰を両手で引き寄せる
そのまま顔を足の間にうずめて深く息を吸う
「えっちょっと」
あわてて、逃げようとするのをしっかりと押さえつけたまま動かない状態に半分おびえる
とまどったまま、でもどうすることもできなくてそのままでいると、下からくぐもった声が聞こえる
「・・・血の匂いって・・・甘いんだな」
ゆっくり顔を上げた彼の顔をみるとうっとりとした顔をしている
「ここも」
私の胸のあたりをじっと見る
「子供ができたらミルクがでるのか・・・」
口元をほころばせながら憧れのまなざしで見つめたままそっと服の上からふくらみをなでる
「いいなぁ」
・・・これは子供と言うより赤ちゃん帰りしていない?
なんとなく微妙な気分になった私の気持ちをよそに彼は幸せそうな顔で私のお腹の上に頭をのせるのだった