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四季  作者: 佐方仁優
4/8

autumn ①

すみません、最終話の秋の章が長くなりそうなので2分割することにしました、なので今回でなく、次回が最終です

「今晩は友達が家に来るからうるさいと思う」


私の部屋で、梨をフォークで突き刺していた彼が唐突に言う

起きて間がないからまだ頭が回っていないのだろう

緩慢な動きで、ゆっくりと梨を咀嚼している


聞いた途端に悲しい気持ちになった

いけないと思いつつも、紅茶もお茶も兼用で使っているガラスの急須から湯飲みにお茶を入れる手をつい止めてしまう


「友達・・・前に会った人?居酒屋で」

でも、悲しがっている姿は見せたくなくて、なんでもない風な声を出す


「そいつと後数名、朝には解散になると思うけど」


「ふうん」


今日はじゃあもう会えないんだ、

いつもだったら、彼が起きてからは、一緒にテレビ見たり、スーパーに買い物に行ったりした後、晩御飯食べたりするのに・・・

週末に2人でいる時は、特別なことはあまりしない、そこに不満は感じない、世の中の女性は恋人にいろいろプランを練ってもらったり、彼からのサプライズを受けたりすることで喜んだりするみたいだけど、私達が恋人ではないせいだろうか、一緒にいられるだけで幸せで、もっといえば、外出なんてしたくないくらいだ

広くはないこの部屋から出なければ、ずっと2人きりでいられるし、ここなら2人がそれぞれが違ったことをしていても身近に彼の気配を感じることができる

第3者と出会って、2人の間に入ってくることもない、同じ部屋にいるだけで、彼をしっかりと観察することも、彼との会話をゆっくり堪能することもできる

いろんな彼のクセもしぐさもたくさんここで発見してきた

眠いとすごく不機嫌になるから動きが少し荒い、起きてしばらくはじっとしている、ごはんを食べるときは嫌いなものから食べて好物は最後に取っておく、テレビはフィクションの世界よりクイズ番組とかニュースの方が好き


私を抱きしめながら眠りに落ちる時、彼は私の頭に口をつける

いつもそこが定位置でそこに唇をつけないと落ち着かないみたいだ

そうやってしばらくしていると頭に彼の寝息がかかり始める

暖かくてくすぐったい

そんなこと、外で一緒にいるだけではわからないから私は用事がないときに無理に外出しようとは言わない


でもこれだけ、彼との時間を守ろうと思っているのは私だけなのかもしれない

こういうことがあると、そんな気がしてますます悲しくなる

今はまだ昼の16時、冬になればもう夕方並みに暗くなってるかもしれないけど、今は10月だからまだまだ明るい。

今日の残りの時間はまだ長い、どうやってこの時間を明日まで消費すればいいんだろう


「ごちそうさま」


梨を食べ終え、出したお茶を飲み終えると席を立ってかばんを持って玄関に彼は向かう。

隣の部屋に住んでいるから別に送り出すことなんて全然しなくていい感じなんだけど

つい後ろからついていく

玄関の前で振り返った彼が、ふと私の頭に視線を移す

なに?


「髪、ここが浮いてる」


小さな声で彼はいうと指で私の髪を頭の上から下へとすいていく

彼のすいた手の先が時々私の首筋に触れてどきっとする

だんだん彼との距離の近さに、落ち着かなくなってきた

本当は言いたいのに、と思う

心の言葉が口をついてしまいそうになる


『帰らないで、もっと一緒にいて欲しい』と


そういえるのならどんなに楽かと思う

でも絶対に言えない、そんなことを言ったら私は壊れてしまうだろう

彼が真面目に受け止めるかわからない、今までいい加減といえばいい加減な関係を続けてきたから・・・

彼がそれにどう答えてくれるか、それも未知の世界で怖くなる

彼の事が好きすぎるから、態度ひとつ、表情一つで私はきっと傷ついてしまう

そうしたらもう彼の前には二度と姿を現したくなくなる

彼のいない世界、そんな世界は絶対に来て欲しくない


髪をすく彼の手が止まった瞬間、私は視線を下げた

少しだけあいてしまった間

空けはなれた窓から子供達の声と自転車を漕ぐ音が急に静かになった部屋の中に入ってくる


「じゃ」


そういうと、彼はさっと玄関から出て行ってしまった。


ああ、行ってしまった・・・これから彼は私とは別の世界で過ごすことになる

なんとなく止めてしまっていた息を吐き出した。


私ってまるで現地妻みたいだ・・・

彼は独身で別に彼が女の人と一緒に住んでる訳でもないし、彼が週末の夜勤明けに私のところへ来たところでそれだけで、そういう関係になったわけでもないんだけど・・・

でも、週に一度部屋にやってきて私のベッドで眠る・・・私をしっかりと自分の腕の中におさめて・・・

なんでこんなことするんだろうっていつも思ってた

最初は私が片付けてしまったコタツ代わりに私で暖をとっているんだって思っていた

でも夏になる頃には、部屋のエアコンの設定温度をかなり下げて、私を抱き枕がわりにして寝る

最初はそんな彼に面食らっていたけれど、でも、結局は彼は人恋しいのな、と思う

親元離れて都心でのひとり暮らし、私と違って彼は勤務日が不規則で休日も出勤することが多い。きっと友達と休みをあわせて出かけるのもたやすくはないだろう。

私だってそうだ、1人暮らしをして初めての頃は誰にも束縛されない自由な生活を楽しいと思っていたけれど、怖い思いをしたときとか、気分が落ちたときとか、誰もいない家が心細くて寂しくなる

何もない時だって、仕事が終わって駅から家までの帰り道、通り道に立つ家の窓の向こう側が明るくて、楽しそうな声や、生活の物音がするのを聞いただけで、うらやましくなる


彼もきっとそうなのだろう・・・それで何故かベッドと生きた抱き枕を提供している隣りの私の部屋にずるずるといるのかもしれない

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