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四季  作者: 佐方仁優
3/8

summer

『夏』です。これは最初が彼女で後が彼視点

「暑い・・・」

耳元で彼の声が聞こえてうとうとしていた私は目を覚ました

ベッドがきしむ音がして、隣に寝ていた彼の手が私の上を越えてベッドサイドに置かれているリモコンを取るとボタンを押す。

すると静かに稼動していたクーラーが急にうなり声を立てる

リモコンを置いた手が今度はその手で私の首の後ろをつかんで自分のほうに引き寄せる

もう片方の手が私の背中に回ってぴったりと2人の体が重なり合う

そのままがっちりと私をホールドしたまま、また眠りに落ちようとしているのだろう

つむっていた目を薄く開けたら、しっかり目を閉じて深く呼吸をしている彼の顔が見えた

汗で髪が湿ってぴったりと額にくっついている

鼻の頭にもうっすらと汗が溜まっている


なんだかなぁ

彼はくっついたら暑いのに母親から離れようとしない幼児のようだ

暑いんだったら抱きしめなければいいのに

そうすれば少しは暑さがやわらぐ筈なのに

そうしないでクーラーの設定温度を下げるんだ

まだ熱い彼の体を受け止めていたら私の体も汗でじんわりとしてきた

熱くて苦しい、早くクーラーが効いて欲しい

私は彼の肩に顔を寄せると体の中に溜まっていた息を吐き出した


ねえ、私のことどう思ってるの?

単なる抱き枕?

それともあなたの日常生活に彩りを添える為だけに存在する花の中の一本なの?

少し体をずらそうと身をよじるとすると怒ったような態度で引き戻される

浅い眠りだと意識が残っていて離してもらえない

前に一度むりやり彼の体を引き剥がしたら

ものすごい怒った顔で睨みつけられたので、怖くなって自分から布団に戻った

その時、彼は少しびっくりした顔をしてたけどそのまま無言で目をつむって寝てしまった

それからは週末ごとにずっとこんな状態が続いている


でも、今日はいつもとちょっと違うんだ

夜になったら学生時代の友達と飲みに行くけど一緒にどうかって誘われた

どうやって私を紹介するんだろう・・・恋人・・・はないか

でもお隣さんってだけじゃ寂しいな

もしかしてその友達と私をくっつける気とかないよね

・・・ないよね、まさか

このからみあった言葉にあらわせない関係のままではそういうことはできないはず




「で、ライバルとかいるわけ?」


昔からの親友と彼女を会わせて、3人で居酒屋であらかた食べて飲んだ後

トイレに行く、と彼女が姿を消した後、開口一番に友人は言った

普通に感じのいい娘じゃん、お似合いにも見えるしなんで付き合ってないの?



「ライバルはいるよ、彼女自身だよ」


「はっ?意味がわかんねえ」


「彼女と長い時間一緒にいてもさ、そういう恋愛ってことに関しては心を開こうしてくれないんだ、隙が無いっていうか、そらされてるっていうか、俺の男として部分に関心を向けないようにしてるんだよ、仮に無理やり俺が彼女に関係を迫ってもびっくりするだけで、なんにも反応を示してこない気がする」


「友達としてしか見てないんじゃねえの、お前のこと」


「・・・そうでもないとは思うんだけどさ」


夜勤帰りの土曜の午後は彼女は必ず部屋にいて俺の帰りを待ってる

抱きしめられることに抵抗はしないし

何より俺の世話を焼くのが・・・嬉しそうだ


でもいつも彼女と自分の前に壁があって

なかなかそれを越えられない

その壁は彼女が越えたいと思わなければ越えられない壁で

今の彼女にはそうしたいというそぶりは全然ないんだ

俺はため息をついた

いつまでこんな状況が続くのだろうか・・・


居酒屋からの帰り道

お酒を飲むと笑い上戸になるのか

ケラケラ笑いながら彼女は商店街を歩いていた


「ねぇ、どうして機嫌悪いの?」

甘えたような声

飲み足りないから、とさっきコンビニで買ってきたチュウハイをさっそく袋から取り出してプルトップを開ける


「ここで飲むのか?歩きながら?」


とあきれたら、ぐいって一口飲んだ後、空いたほうの手を差し出してきて


「ねっ手を繋いで、体ふらふらするから」


と半分目が据わった顔でいう

飲むとこんなに気安くなるんだ

半ば驚きながら彼女の手を取って2人の住むアパートのほうに向かう


生暖かい空気と蛍光灯のパレードが彼女と俺を照らす

気持ちよさそうに隣で彼女が鼻歌を歌う

じんわりとした彼女の手

鼻歌の少し音程がずれているのがおかしくて笑ってしまう

そんな俺を彼女は見て、フフフと満足そうに笑う


ああ、いいなと思う

このままずっとこうしていたい

部屋に帰りたくない

別々の部屋のドアの前でお休みなさいっていいたくない

でも酔った彼女の体力は多分今がギリギリで

無事に家まで自力で歩いて帰れるかも怪しい



・・・それとも、このまま彼女の部屋に上がってしまおうか・・・

朝目が覚めたときの彼女の顔がみたい、そんな悪戯心がわいて来た・・・

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