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哀色流星群

canta per me* 


2011.06.07


        麦茶。 

canta per me*


――私の為に詠って。



......*



『シャルロ。私、思うの。』


『?』


『貴方は私が死んだら……どうするかな?とか。』


『……………』


『シャルロ、人は死に逝く者よ』


『……………』



静かな、静謐過ぎる空間。

全てが抗菌的な白さ。

そこに座っている女性とその女性に膝枕をしてもらっている男性。

女性の声は、掠れた細い声で、男性はまだ一度も声を発していない。

その空間ではやけに声が反響したので女性も本当はこんな声ではないのかも知れない。


『ねぇ、シャルロ』


懇願するように女性は言う。

それを無視するように顔を背けるシャルロという男性。

女性は、シャルロの乱れた前髪を掻き分けてキスした。

屈み込むような体勢で。

段々、シャルロが深くする熱いキスは、女性の突然の言葉によって中断された。

優しい声で、


『貴方が詠えばいいのに』


と言うと、それと対照的な冷めた口調でシャルロは拒絶した。


「嫌だね」


初めてシャルロが口を開いた。彼の声は、反響せずにただ真っ直ぐに耳を貫く。

話が出来た事を嬉しがるように、彼女は笑った。


『強情なのね』


くすり、笑ってそう言うと彼女は()を閉じた。




......**



「起きて」


優しい声で俺を起こすのは、案の定、紫乃(しの)だ。


「起きてる」

「嘘……くすくす」



柔らかな栗色に染めた髪。

全体的に柔らかい雰囲気の紫乃は抱き心地が最高に良い。

温かいクマの人形を抱いているようだ。


「いってきます、シャルロ」

「ああ」


紫乃は大人の様に落ち着いているがまだ高校生なのだ。俺も行きたいが数学や科学はどうも理解が出来ない。


「朝ごはんは、テーブルの上ですよー」


出かけ間際にまで俺の心配をしてくれる紫乃の事が俺は大好きだ。

ぐしゃぐしゃと髪を引っ掻き回しながら、リビングへと足を運ぶ。紫乃は東雲しののめ財閥の親戚らしくこうして一軒家を与えて貰っているらしい。

紫乃は俺と暮らせるだけのスペースがあれば良いといってくれるが……。紫乃は無欲だ。


「くぁ……寝み」


欠伸を三回程したあとに、サンドイッチを食べ始める。


「美味い……」


紫乃は無欲で料理上手だ。


口を動かしながら、紫乃との出会いを思い出す。

一緒に住み始めてから一ヶ月たったが一ヶ月前の紫乃は夜の街に居た。

明らかに慣れてなかった。

でも震える手で必死に俺に奉仕する姿は中々そそられた援交なんてよく見るけどここまで下手くそな奴は始めてみた。

だから面白くなって本性を見せた。

紫乃も始めは驚いてたけれど、今では俺に笑いかけてくれる。住まう場所も与えてくれる。

最後のサンドイッチを掴もうとしてパンをあげるとそこには紙切れが一枚、折り畳んで置いてあった。


「なんだ……?」


かさり、と紙切れを開く。

俺はそれをみた瞬間に柄にも無く照れてしまった。きっと顔も赤くなっていた事だろう。


「不意打ちはねぇだろ」


そこには綺麗な字で、





――愛してます。


俺はテーブルに突っ伏した。




......***




(今頃、どうしてるかな?)


通学途中の電車の中で思う。


(吃驚してくれたかな?)


出かけ間際に思い付いた悪戯。成功していたがどうか……想像するだけで幸せな気分になれる。

一人でにまにまを抑えるのがとても大変だ。

あ、やばい。降りなきゃ。


今から帰りたいなんて思う私はおかしいのでしょうか?



「おはよう、紫乃」


私立大学付属の高校は、私が通っている学園。

教室のドアをからりと開けると仲の良い友達が話し掛けてくる。

「おはよう」


こちらもにっこり笑って返す。この人達は、私が一ヶ月前までは夜の街をうろついて援助交際してたなんて知ったら、軽蔑するだろうな。

それだけの関係。


席に着いて朝学習のプリントを解く。しん、とした朝の教室にカリカリとシャーペンの音が反響した。


早く帰りたいと切実に思った。



......****




『ねぇ、お願い。シャルロ』


「嫌だね、絶対、いや」


モノクロの世界で二人きり。

二人は洒落た二人がけの赤いソファに座っていた。

モノクロの世界で熟れた林檎のような赤だけが異様に目立った。


『お願いよ……詠って、シャルロ』


「やだ……嫌だかんな」


泣きそうな顔で必死にか細い声をひねり出す女性。

それを痛ましげに見ながらも女性の願いを叶えない彼。


『っ……もう…永くはないものね。私』


「紫乃は死なない」


『くすっ……強情ね』


「信念を曲げない、と言ってもらおうか」


明るい会話なのかもしれない。

しかしいくら見ても女性が回復するとは思えなかった。


『ぁ……かはっ……!』


「紫乃!?」


 いきなり幸せそうに微笑んでいた彼女が咳き込んだ。

 手には血がべっとりと付いていて、それは少ないとは言い難い量だった。

 シャルロは自らの指を長く尖った刃で切り裂くと、とぷりと湧き出た淡く光る薄黄色の液体を――、


『シャルロ……』


 諌めるような口調で……。

 半開きになった紫乃の唇に液体を押し付けた。


『んっ……やめっ……』


 必死に拒否して舌を動かす紫乃の舌を細い指で掴み、そのまま紫乃の喉がこくり、となったのを確認して、舌を解放した。


「あと六週間は持つな~」


にっ、と子供の様に笑った。それに深い溜息を吐いた。


『もぅ……シャルロ』


「しししっ……死なせねぇよ」


明る過ぎる声が、少し不気味な程だった。




......*****




「ただいま帰りました」


馬鹿丁寧な口調は未だに直ることがない。

靴を脱ぐのに手間取っている紫乃にひとつ、キスをした。

案の定、頬を真っ赤に染めて、


「―――っ!?な、なにをっ!」


と怒ってくるので――いや照れ隠しも含まれるかも知れないけど――にしし、と笑って、


「朝のお返し~」


そう言って見た。





俺が詠うのは、彼女が死ぬ時。


でもそんな日は訪れない、訪れさせない。


何度でも、何百回でも血を飲ませ、甦らせて……。


彼女を一人にさせない。(俺は一人になりたくない)




『いい加減。殺してよ……疲れたのよ』


「あれから何年?」


『100年は余裕で経った』


あれから……そう紫乃が大学生になり、社会人、高齢者…段々と年を重ねるごとに紫乃の大切さは浮き彫りになって行く。


『知り合いもみーんな死んじゃった』


「俺は紫乃が死んだ後も生き続けなきゃいけないんだよ?」


『貴方は死ねないの?』


可哀想に。彼女は目を伏せて自分の爪を見つめた。


「俺の先祖は死の神と契約したんだ、喧嘩して赦してもらう代わりに」


憎々しげに、彼は虚空を睨みつける。


『どんな?』


小首を傾げて彼女は言う。


「“死”という安息を与えない代わりに、死を司れる」


いらねーよなぁ、と彼は笑う。

それはどこか諦めたような、儚い笑みだった。


『私……貴方となら死んでもいいよ』


「だから、死ねな……!!」


彼が呆れたように言い終える前に、彼女は何処からか取り出した鈍く、光るナイフを、彼の腹に突き刺した。

そしてナイフでぐちゃぐちゃと傷を抉ったまま、口づけをした。

まるで何かを吹き込むように。


『私の無理に伸ばされた寿命を貴方と半分こしただけよ』


それは本当は死んでいるはずの彼女の死のエネルギー。


「お、れ……あと100年は死ねないな」


『ふふ、そうね。それまで待ってあげるわよ』







結局、俺は歌を詠ってしまったのである。


永遠の眠りについてしまった彼女の屍を抱えても、詠い続けたのである。


彼女の死の寿命をもらったところで俺にはそんなもの関係ない。


意味ない。


それでも一時の夢を見せてくれたことに変わりわない。


嗚呼、死は安息だ。


あとがき。



はじめまして、お久しぶりです。

麦茶です。


お風呂に入って死について考えたらこんなネタが……。

つまり彼は詠うことで相手を殺せてしまうという。

彼女には死んでほしくないから寿命が延びる自分のの血を飲ませて人間では有り得ない時を共に過ごし……彼女が“死”を望んだとき、愛しいのに殺す、という。

彼女は結局これでシャルロを殺せると考えましたが結局はシャルロには何の影響もありませんよー、という。

可哀想な勘違いを正さないまま、幸せな気分のまま彼女を逝かせた優しい彼の話。


完璧自己満足です。


ありがとうございますたww

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