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彼女ができない大学4年生がSNSを始めた話

作者: @h-ar-u
掲載日:2026/06/09

 俺はモテたい。


 俺の名前は佐藤春人。

 地元の中堅大学の理系学部に通う大学4年生。


 生まれてこの方、一度も恋人ができたことがない。



 家族には「大学に入れば自然と彼女くらいできる」と言われていたが、そんな未来は訪れなかった。


 出会いが無いせいだろうか、良くも悪くも単位は順調に取れている。

 四年生になった今、大学へ行く日もずいぶん減った。


 気づけば学生生活も残りわずかだ。


 こんな話をすると、


「出会いがなかっただけじゃないの?」


 と言われることがある。


 だが、それは違うと断じて誓う。


 確かに理系なので学部は男性が多い。

 それでもサークルやアルバイト先には普通に女性がいるし、男女比だって偏っていない。


 よく話す?……少なくともいつも会ったら話す女性だっている。

 しかし、恋人ができないのだ。


 だからこそ、環境を言い訳にできず、女性がいる場でもモテない俺は、一生1人なのかもしれない。

……と、考えることが多くなった。


 


 社会人になってからの恋愛事情を調べない日はない。

 まだ卒業まで一年近く残っているというのに。


 別に手を繋いだり、ハグをしたり、はたまたそれ以上のことをしたいという欲求が強いわけではない。


 ただ、同じ価値観を持っていて、お互いがお互いを特別だと思える人と一緒になりたいだけなんだ。

 


 くだらないこと話をして。

 観たい映画が違って少し揉めて。

 夕飯を何にするかじゃんけんで決めたりして。


 そんな相手が欲しいだけだ。



 それはもしかしたら、恋人ではなく友達なのかもしれない。


 実際のところ、俺は今まで誰かを本気で好きになったことがない。




 出会いが少なすぎて、「好き」が何なのか分からなくなっているだけなのかもしれないが。


 恋愛のためのアプローチだってしたことがない。

 それを聞けば甘えだと言われるだろう。



 けれど、特別な努力をしなくても人に好かれる人間は確かにいる。


 一度でいい。


 自分を気にかけてくれる人が現れてほしい。


 そんなふうに思うことは、誰にでもあるはずだ。


 モテる人間とモテない人間は何が違うのだろう。


 性格か。

 自分への自信の有無か。

 話し方か。

 趣味か。

 やっぱり顔なのか。


 答えは分からない。


 

 多分顔の割合が高いだろうけど。

顔の良さを生まれつきや才能という形だけで片付けるには、とても惜しいくらい、そうで無い人との人生経験が異なる。



 昔、モテそうな趣味を始めてみたこともあった。

 だが長続きしなかった。


 結局、自分が本当に好きなものじゃなかったからだ。



 バイト先で夫婦のお客さんを見るたびに思う。

 この人たちは、どうやって出会ったのだろう。


 最近の俺は恋愛をしたいのか、人間を研究したいのか、自分でも分からない。


人間という、誰1人として同じ人はおらず、運命的な出会いをした2人がたくさん存在したおかげで文明が成り立っている「人間」という存在自体に恋をしているのかもしれない。




 そんな俺だが、何もしていないわけではない。


 SNSだ。

「#〜好きと繋がりたい」

と、同じ趣味を持つ者同士が友達になりたい際に付けるハッシュタグ。


 見る専だった頃の俺は、こういう人たちを少し冷めた目で見ていた。


 だが今は違う。


 出会いが少ないなりに、自分なりの方法で誰かと繋がろうとしている。


 その姿は、今の俺には少し眩しく見えた。



 詐欺やトラブルが怖くて避けていたが、思い切ってSNSアカウントをつくり、趣味の読書の投稿をハッシュタグと共に投稿した。


 恋人が欲しいなら、まずは友達からだ。



 自分からもフォローしていった。


 少しずつ通知が増えていく。


 フォロワーも増えていく。


 そして、一か月後。


 俺は読書好きたちのオフ会に参加することになった。


 明日は、そのための服を買いに行こうと思う。





 翌日、俺はショッピングモールに服を買いに来た。

 よく見る二大家庭的服屋の1つだ。


 決して、服を持っていないわけでは無い。

 外行き用の服がないわけでもない。


 結局、自分に似合う服なんて分からない。

分かるのは、清潔感が大事だということくらいだ。

だから俺は、ネットで見た王道の服を選んだ。


 自分のサイズの物を手に取り、試着室で着てみる。

 サイズはバッチリ。しかし、違和感がすごい。

それもそうだろう、普段とは少し様相が異なるんだ。違和感がないわけない。



 新しく新調した服を持って家に帰る。


 2階の自分の部屋にある大きな鏡の前で再び買ったものを着てみる。


 ーーガチャ!


 母が入っってきた。


「あんた、どこか行ったの?」


「うん。新しく服を買いに行ったんだ」


「あら!確かに。……でもどうしたの?『そんなオシャレな服着たって彼女なんて出来ないのに』」

「まぁ……頑張ってね」


 こちらからの返答を聞くこともなく、すぐさま1階へ降りていく。

 これから夕ご飯の準備だろうか。



 しかし母上、さっきの一言が今の俺にどこまで深く突き刺さるのか、今一度考えた方がいい。


 高校生……いや、大学3年生までの俺なら笑って誤魔化せていた。

 が…しかし、4年生になって、大学に通う日も少なくなり、本当の意味での、「大学生は人生の夏休み」を経験している自分にとっては、とても刺さる一撃。


 せっかくの長期休みなのに、友人と一回も遊ばず、外に出ることもなく1ヶ月過ごす高校生を、1年近くできる環境なのは、ハッピーではない。


 ではお前も大学の友人と遊べば良いのでは?

 そう考える人もいると思う。

 しかし、現実は予想以上に厳しい。


 自分の性格が真面目すぎたのか、はたまた友人が不真面目すぎたのか、ほとんど同じ講義をとってきた友人たちは、取りこぼした単位のために大学に通っている。


 それに4年生。就活の時期だ。

就活の早期化が激しいこの世代でも、内定を持っていない者はもちろん存在する。


 俺自身はこの真面目すぎる性格ゆえなのか、3年生の4月には就活を始め、4年が始まる前にはメーカーへの内定が決まってたが、皆がそうではない。


 友人同士で就活状況を話し合うこともあるのかもしれないが、俺は怖くてできない。

 もしまだ進路が決まってない友人がいて、それに深く傷ついていたら、それを会話に出すことで余計に傷つけてしまうかもしれないからだ。

 だから、この時期は友人とも会いにくい。


 まぁ、彼らとは夏休みにでも集まれたら幸せだ。


 それに、この人恋しい時期だからこそ、オフ会に行くのだ。



 実は今日は服屋に行く前には実は散髪をした。

いつもはただのヘアカットだが、今回は違う。

個性だと思っていた、自分の強すぎるアフロのような天然パーマにストレートパーマをかけ、初めて前髪を手に入れた。


 おでこに髪がある状態が珍しく、居心地が悪い。ワックスもつけてもらい、同じものを帰りに買った。




 風に当てられるのを嫌がり、常に前髪を意識する男性女性を今まで見てきて、なぜそこまで気にするのか分からなかったが、今日初めて知った。

 これは確かにつらい。


 できるだけ良い状態でキープしている自分を、ただの風1つで無意味にされるこの理不尽さ。

ムカつきすぎて、余計インドアになってしまう。


 綺麗にした自分を維持するために、家に引き篭もってしまおうかと思ってしまう。まぁ……これでは本末転倒だが。


 どう過ごそうと、1ヶ月後にはオフ会だ。

あまり前髪を触りすぎるのはモテないと聞いたので、そこは意識してオフ会に臨もうと思う。




 1ヶ月後ーーではなく、3週間後。

オフ会を開催しようと誘ってくれたアカウントから連絡が来た。

 自分の勤めている会社の都合で、今回は集まりを中止にしたいとのことだった。


 スマホを机に置いた。

 思ったより落ち込んでいる自分がいた。


 別に恋人を探しに行くわけじゃなかった。もちろん、最初はそれが目的で始めたSNSであったが、今は繋がった皆と本について話せることがとても楽しかったのだ。



 俺はこれも経験と思い、違うコミュニティで似たような企画していないか、SNSを探る。


 ーーすると、1件のDMが飛んできた。

 初めてのDM。相手のアカウント名はHina。


 同じ作者が好きな大学生。

 性別は分からない。

 投稿された写真に写る手を見る限り女性にも見えるが、自信はなかった。


『オフ会無くなって寂しいですね。開催予定だった日に会いませんか? Haruさんと好きな小説について話したいです!』


とのことだった。


 自分のアカウント名はHaru。

性別も明記しておらず、大学生ということしか伝えていないため、おそらく彼女は自分の性別すら知らないだろう。


 それでも、自分の投稿を見て話したいと思ってくれた人がいた。ネット上の人と会うのは少し怖いけれど、これも経験。

 会ってみることにする。

 

『良いですね!ぜひ会いましょう!』


 と返事を書いた。



 送信ボタンを押してから、少しだけ笑ってしまった。

 1か月前の俺は、誰とも繋がっていなかった。


 服を買って。

髪を整えて。

 SNSを始めて。


 オフ会は無くなった。

 それでも今、会いたいと言ってくれる人が一人いる。

 それが少しだけ嬉しかった。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

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