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終章


終章


 それから、帝国との国交が開かれた。皇帝はたまにお忍びで島へ遊びに来ている。島の者はクローネスが皇帝だと分かっていても、特別扱いはしない。どうやらそれが居心地良いらしい。

「本当に嫌になったら、シェインの言うように解体してしまえばいいかと思ったら気が楽になった」

 兄は似合わない南の服を着て、ガロの店のサンドイッチを頬張って笑った。父のように壊れる前に息抜きが出来るのならば、その方がいい。

 竜神とリノは相変わらず喧嘩をしたり、いちゃいちゃしたり、忙しいらしい。ああいうのは犬も食わないと言うのよ、とフィフィが教えてくれた。そのフィフィはフォーレンの代わりに皇帝の秘書官として帝国へ出向している。帝国では未来の正妃かと噂されているそうだが、フィフィ側はノーコメントを貫いている。いまは仕事が楽しくてそんな場合ではないし、男女で親しげにしているとすぐにそういう邪推をされるのが腹が立つから、けむに巻いているのだそうだ。

「俺はお似合いだと思うけどなあ……」

「そう言うアンタはどうなのよ。ラザに告白はしたの?」

 シェインは笑って、返事をしなかった。

 実の所、ラザのことが好きだなと思いながら、いまだにシェインは何も言えないでいる。初めて会った時からシェインはラザのことがうっすらと好きだった。多分、一目惚れなのだろう。

 現在シェインは、フィフィの後釜としてラザを補佐する役目を仰せつかっている。仕事にも慣れはじめて、ラザの凄さを実感する毎日だ。なにせ九歳の頃から頭領を務めていたのだ。

 ラザとの関係はこのままでも良いような気もするし、玉砕覚悟で進んでみたいような気もするし――要するにまだ勇気がないのだ。

 両親のことは、いまだに棘として自分の胸に刺さったままでいる。母がなぜ自分を連れて逃げようとしたのか、何故その後で自分を置いて自死を選んだのか、もしくは父はどうして母を自死に追い込んだのか、それなのにどうして自分を引き取ることに決めたのか。考えてみても分からないことだらけだ。けれど、それで良いのだろう。全部分かる必要などない。

 父のことを哀れだと思いはするけれど、だからといって許すつもりはない。竜神が花嫁を選ぶ仕組みにも納得はできないけれど、本人同士が納得しているならばそれはそれで構わない。他の人が自分と違う考えを持っていることなんて、当たり前のことだ。自分は嫌だと思うことを行わないよう、未来を選んでいけばいいだけの話なのだから。

「ラザ姫」

 名前を呼ぶと、風をはらんだ髪を手で押さえながら、ラザが振り返った。ラザは島全体の頭領なので、別の集落へ視察に出向くこともある。今は高台の草原を越えて、北の集落へと向かっているところだ。

 薄い羽を震わせながら、地面からスカイフィッシュの群れが溢れ出した。リノが島に戻ってからというもの、スカイフィッシュの群れがあちこちで見られるようになった。リノに与えた力を取り戻したのか、それとも単純にリノが戻ったことによって元気になっただけなのか――竜神さまのことなので後者のような気もするが、本当のところはよく分からない。

「そのうちに休暇をもらって、両親の墓参りに行こうと思ってるんですよね」

 シェインはラザに追いつこうとして、小走りに駆け寄った。隣に並んで、再び歩き出す。

「何となく区切りがついたら、ちゃんと好きだって伝えますから」

「……あ、うん」

 ラザはまばたきを繰り返した。足が止まる。今度はシェインがラザを振り返った。

 風が強い。空は青く澄んでいる。

 燃えるような赤毛が風になびいて、ラザが無造作に髪を払う。

 シェインは思わず目を細めた。とてもきれいだ。

「君は迂闊なのかしたたかなのか、一体どっちだ?」

 ラザは怒ったような声を出した。これは怒っているのではなく、照れているのだろう。シェインはとぼけて首を傾げた。

「なんのことですか?」

「いや、別に」

 ラザは唇を尖らせて、不貞腐れているようだ。シェインは微笑みを浮かべた。可愛さに負けて、思わず白状してしまった。

「……計算は得意だって、言いましたからね?」

 ラザはシェインの背中を思い切り叩いた。

 シェインは声を上げて笑ったあと、改めてラザに自分の気持ちを伝えたのだった。

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