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序章

毎日1話ずつ更新していく予定です。

序章と終章を含めて17章あります。

初心者なので何も分かりません…。おいおい覚えていきたいと思います。


序章


 シェインが帝都を出発して三週間が過ぎた。大陸西端の街ですこし休んで、小型船に乗り換える。目的地である島の周囲は岩礁が多いので、帝都の港から乗ってきた大型帆船ではたどりつけないのだそうだ。

 空はいまにも降り出しそうな曇天だ。湿度の高い潮風が、シェインの黒髪をねっとりと撫でていく。薄く靄がかかっていて、視界はよくない。もっと晴れた日に改めて出航した方がいいのではと思ったが、どうやらこの地方では秋から冬にかけてずっとこんな天気が続くらしい。

 シェインは豪華な調度品があつらえられた船室には興味を示さず、外套を着込んで甲板を歩くことを好んだ。今も朝食を済ませたすぐ後に甲板の散歩を楽しんでいるところだ。船首に近い場所は水夫たちの邪魔になるので、船尾近くを歩くようにしている。森で生まれ育ったシェインにとって海は珍しい。南の海は碧く明るかったが、北へ進むにつれて黒く粘度を増しているような気がする。同じ海と言っても随分と違うものだ。

 船は波の上を跳ねながら、北西へ向けて進んでいく。丸一昼夜の船旅を終えると、目指す島に着くはずだ。

 島は、ただ「島」とだけ呼ばれている。まだ帝国領ではないので、名前も与えられていない。街ではあまり良い噂を聞かなかった。呪われた竜の島だとか、それは海賊が本拠地を隠すためのカモフラージュだとか、物騒な話を多く聞いた。

 シェインに与えられた任務の最終目的は、島を帝国の領土とすることだ。街から島へ渡ろうとする者はいないが、島から街へは来る者があるらしい。島民は魔道具の動力源となるキューブと呼ばれるものを売りにきて、それで得た金銭をもとに、生活に必要な道具や嗜好品を買って帰っていくのだそうだ。

 この、キューブというシロモノが帝都では不足しているらしい。動く階段や洗濯道具、冷やしたり温めたりすることの出来る箱など、魔導王朝が栄えた旧時代からの骨董品を動かすために必要なものであるというのに、帝国内では造り手が絶えてしまったそうなのだ。かろうじてこの街でキューブの取引があるため入手不可能となってしまった訳ではないが、帝国としては安定供給を得るためにどうしても島へ干渉したい。そのために、まずは視察として、シェインが単独で島へと派遣されている、という訳なのだ。

 ただ、視察というのは表向きの話だろうとシェインは考えている。シェインは前皇帝の末子であり、現皇帝の腹違いの弟である。しかも、成人したばかりの十七歳だ。そんな自分がわざわざ使者として選ばれるにはそれ相応の理由が必要だ。――つまりは、生きて帰ってくるなということなのだろう。少なくともシェインはそう考えている。

 兄である皇帝陛下は島に攻め入る口実をご所望だ。属国にしてしまえば島をキューブを作り続ける工場にしてしまうことも、製作法を島外の職人に伝授させることも可能だろう。シェインが実際に島民に殺される必要はなく、暗殺した後で島民に罪をなすりつけてしまってもいい。むしろ本当の狙いはそれなのかもしれない。シェインさえここで死んでくれたら、涙を流しながら弔い合戦として攻め込むことが出来るという寸法だ。えげつないが、一手で複数の成果をあげられる上手いやり方ではあるだろう。

(俺、まだ死にたくないんだけどなあ……)

 シェインはうんざりと溜息をついて、顔を上げた。森の奥で、ごく普通の子供として育てられたため、貴族のような喋り方にはいまだ慣れない。おかげで、社交界ではボンクラとして扱われている。先帝から現皇帝への政権交代を生き延びたというのに、何が悲しくて殺されるのを待つだけの旅をしなければならないのだろうか。

「――シェインさま」

 背後から声がかけられて、シェインは飛び上がるほど驚いた。振り返ると、従者であるフォーレンが表情を固くして周囲を警戒していた。腰に下げた長剣を、いつでも抜けるように身構えている。

 シェインはとうとうフォーレンに殺されるのかと思って肝を冷やした。だが、どうやらそれは誤解だったらしい。巨大な何者かに見下ろされているかのような威圧感を感じて視線を上げると、靄の中に大きな船の帆が見えた。帆に使われている生地は黒く塗りつぶされている。禍々しいものを感じて、シェインはごくりと息を飲んだ。

 どうやらこの船は海賊船に囲まれているようだ。水夫たちが怒号とともに甲板を駆け抜けていく。

「ここは危険です。船室に戻りましょう。さあ、早く」

「う、うん。分かった……行こう」

 シェインはぎこちなく頷いた。これが想定外のトラブルなのか、元々の予定に組み込まれたものなのか、フォーレンの顔色を見ただけではうかがいしれない。

 フォーレンは従者と言っても、元々は兄の直属の部下だった人だ。目鼻立ちがはっきりとした童顔で、面長でのっぽのシェインよりもかなり若く見える。だが、実は十歳近く年長であるらしいことが旅の間に判明した。フォーレンは社交的で、腕っぷしも強く、判断力にも秀でている。頼りになる人物だが、元が兄の手の者だから、どこまで信用していいのか図りかねてしまう。

「あ、あー。そこの商船、聞こえているか」

 唐突に、低い女の声が暗い海に響いた。魔術かなにかで拡声しているらしい。フォーレンがハッとしたように顔を上げる。その表情を見て、これは想定外の出来事なのだろうとシェインは見当をつけた。

「沈められたくなければ、この船で一番価値のあるものを寄こせ!」

 シェインはハッとした。

 生き延びるチャンスをものにするならば、今しかない。

 潮風に飛ばされないように、シェインは腹から大声を張り上げた。

「分かった、ならば私がそちらに出向くことにしよう!」

 いつの間にか船が接舷された。船が揺れる。高さの違う船のへりに長い板が渡されて橋が出来る。シェインはその橋に向かって歩き出した。

「シェインさま! おやめください!」

 フォーレンは揺れに弱い。おそらく柱に掴まっているのだろう。フォーレンの叱責の声が背中を打った。本気の声だった。少なくともシェインにはそのように聞こえた。では、今まで親切にしてくれたのは、嘘ではなかったということなのだろうか。フォーレンは口調こそ丁寧だが、気のいい、愉快な男だった。こんな出会い方でなかったら、きっと良い友達になれただろうに。

 シェインは板に跳び乗ると、切なく笑って振り返った。

「遅かれ早かれ、俺は殺される予定だったんだろ? フォーレンの手をわずらわせるまでもないさ。今までありがとう、楽しかったよ!」

 手を振ると、フォーレンは絶句して棒立ちになってしまった。

 前方に向かって大砲が放たれた。シェインが乗っていた船の主砲だろう。振動が響いて、板の上で足を滑らせそうになってしまった。よろめきながらも、シェインは駆け足で渡りきってしまう。

「よせ! 撃つな、皇弟殿下に当たるだろうが!」

 フォーレンの悲鳴のような声が風に乗ってきれぎれに聞こえてくる。

 船が離れた。渡されていた板が外される。

 シェインはこうして、自ら囚われの身となったのだった。

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