第六話:変化する村と、迫る影
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ダンジョンでの地道な訓練と、村での作業の積み重ねによって、俺の身体能力と魔力は着実に成長を遂げていた。特に知力はゲーム知識の活用と読書によって飛躍的に伸び、様々な隠しスキルを覚醒させている。
季節は巡り、あれから約半年が経った。
俺の体は、幼い子供の面影を残しつつも、明らかに引き締まり、動きにも無駄がなくなってきている。年齢で言えばまだ8歳か9歳といったところだが、その内側には三十路の社畜魂が宿っているのだ。
この半年で、俺のステータスは以下のようになった。
【名前:アルス】
【種族:人間】
【職業:なし】
【体力:4.0】
【魔力:4.5】
【筋力:4.0】
【敏捷:4.0】
【器用:4.0】
【知力:7.0】
【幸運:0】
【スキル】
毒物耐性 :2.5
サバイバル知識:3.0
薬草学 :3.0
ナイフ術 :3.0
モンスター生態学:3.0
魔力親和性 :2.5
魔法理論 :2.0
魔力操作 :2.0
ファイアボール:2.0
共感性 :0.5
【ユニーク能力:なし】
体力や筋力、敏捷といった身体能力は、ようやく成人男性の平均に届くか、それ以上になったと言えるだろう。魔力も着実に伸び、ファイアボールの威力も、以前とは比べ物にならないほど強化されていた。直径30センチほどの炎の塊を安定して撃ち出せるようになり、命中精度も上がった。
特筆すべきは、やはり【知力】が「7」に達したことだ。これにより、新たな隠しスキルが覚醒した。
【危機察知:未習得 → 1.0】
【交渉術:未習得 → 0.5】
危機察知は、文字通り危険を事前に察知する能力だ。ダンジョンでの魔物の気配や、森の中での不審な物音に、以前よりも早く気づけるようになった。これは生存率を格段に上げてくれるだろう。
交渉術は、地味だが意外と有用かもしれない。村の商人との薬草の売買で、わずかに値段交渉ができるようになったり、村人との会話で相手の意図を汲み取れるようになったりした。
「アルス、最近は顔つきも大人びてきたね。もうすぐ一人前の男になりそうだ」
長老が、目を細めて俺を見つめる。村人たちの俺に対する評価は、今や「働き者」どころではない。
子供なのに、大人顔負けの仕事量をこなし、危険なダンジョンから珍しい薬草を持ち帰る。
彼らの目には、俺がただの子供には見えなくなっているだろう。
しかし、そんな充実した日々を送る俺の心に、一つの不安が忍び寄っていた。
それは、ゲーム知識が教えてくれる、「魔物の大侵攻」の時期だ。
ゲームの設定では、この村が壊滅するのは、メインストーリー開始の約5年前。
つまり、俺が転生してから、あと4年後には、この平和な村が魔物の群れに蹂躪されることになる。
最近、村の周辺でも魔物の目撃情報が増えていた。
薬草採集のために森に入る俺も、以前よりも明らかに魔物の数が増えているのを感じていた。ゴブリンの群れや、普段は現れないはずのオークの偵察隊まで見かけるようになったのだ。
「これは……もしかして、ゲームの設定よりも、魔物の活動が活発化しているのか?」
俺は危機感を募らせた。
もしかしたら、俺がエルヴィーナ王女を救ったことで、歴史の歯車が少しだけ早まっているのかもしれない。あるいは、単に俺がモブで、本来知るはずのない情報を知ってしまったから、そう感じているだけかもしれないが。
いずれにせよ、現状維持ではいけない。
この村を出て、エメラルドの都へ向かう時期を、前倒しで検討する必要がある。
その日の夜、俺は決意を固めた。
冒険者として生計を立てるために、もっと実践的な能力を身につける必要がある。
特に、剣術だ。ナイフ術だけでは、いずれ限界が来る。
翌朝、俺は長老に相談した。
「長老、僕、この村を出て、もっと強い力を身につけたいです。いつか、この村を、そして大切な人たちを守れるような力を」
長老は、俺の言葉に驚いた顔をした後、深い眼差しで俺を見つめた。
「そうか……。アルス、お前がそう言う日が来るだろうとは思っていたよ。お前は、この村に留まるような器ではない」
長老は静かに頷き、俺に古い剣を手渡した。
それは、村の男たちが魔物から村を守るために使っていた、年季の入った片手剣だった。決して上等な品ではないが、俺の腕にはちょうど良い重さだ。
「これは、村の宝物の一つだ。お前の旅路の助けになるだろう」
「ありがとうございます、長老!」
俺は深々と頭を下げた。これで、本格的な剣術の訓練ができる。
村を出る前に、もう一つやるべきことがあった。
エルヴィーナ王女との再会だ。
いや、再会というより、彼女の現状確認だ。
エルヴィーナをゴブリンから救った日以来、彼女の姿を村で見かけることはなかった。
彼女は王女だ。当然、護衛もついているだろうし、身分を隠して村に滞在していたのかもしれない。
「あの時、彼女は無事に王都に戻れたのだろうか……」
【共感性】スキルが、微かに胸の奥で疼くような気がした。
俺は、あの時の彼女の恐怖と、安堵の感情を、なぜか鮮明に思い出せる。
俺は、念のため、ヒロインが滞在していたであろう村外れの屋敷の周辺を調べてみた。
屋敷はひっそりとしており、人の気配はない。どうやら、すでに王都へ戻ったようだ。
「無事でいてくれればいいが……」
安堵しつつも、どこか寂しさを感じる。
これで、俺とヒロインの接点は一旦途切れた。次に会うのは、きっと彼女が王立学園に入学してからだろう。
それまでに、俺はもっと強くならなければならない。
彼女が危機に陥った時に、今度こそ、胸を張って助けに行けるように。
剣を手に入れたその日から、俺の訓練はさらに加速した。
ダンジョンでは、ナイフ術とファイアボールに加え、剣の素振りを始めた。
最初こそぎこちなかった動きも、【筋力】【敏細】の向上と、ひたすらの反復練習によって、徐々に形になっていく。
【剣術:未習得 → 0.5】
新たなスキルが覚醒した。
これで、俺の戦闘スタイルは、遠距離の魔法、近距離のナイフ、そして中距離を補う剣術と、多様な選択肢を持つようになった。
さらに、ダンジョンの奥深くへと足を踏み入れることを決意した。
これまでは、比較的安全な第一層周辺で活動していたが、より強力な魔物を倒し、効率的に経験値を稼ぐためには、第二層以降への探索が必要だった。
【危機察知】と【モンスター生態学】を頼りに、慎重に、しかし大胆にダンジョンを進む。
その道中、俺は偶然、ダンジョンの壁に隠された、ひっそりとした小部屋を発見した。
ゲーム知識にはない場所だ。
恐る恐る足を踏み入れると、部屋の中央には、古びた革の袋が置かれていた。
「これは……もしかして、アイテムバッグ!?」
革の袋を手に取ると、脳内にメッセージが流れる。
【マジックバッグ(小)を獲得しました】
【アイテム収納量が増えました】
信じられない。まさか、こんなところでマジックバッグを手に入れるとは!
これは、見た目以上の容量を持つ魔法のアイテムだ。これで、薬草や素材を大量に持ち運ぶことができる。
ダンジョン探索や長距離移動において、これほど心強いアイテムはない。
【幸運:0 → 0.1】に上昇しました。
なんと、【幸運】まで上がった!
やはり、ゲームにはない隠し要素が、この世界にはたくさん隠されているようだ。
マジックバッグの入手は、俺のエメラルドの都への旅立ちを、より現実的なものにした。
準備は整いつつある。
だが、その一方で、俺の知らない場所で、運命の歯車はより大きく回り始めていた。
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王都の一室。
煌びやかな装飾品に囲まれた部屋で、一人の男が報告を聞いている。
その男の鋭い眼差しは、ただならぬ威圧感を放っていた。
「……そうですか。ゴブリンの出現範囲が拡大し、オークまで確認されたと」
「は、はい。例の森の僻地にて。周辺の村にも、警戒を強めるよう指示しました」
報告する騎士が、冷や汗を流しながら答える。
「それに、気になる報告もございます。先月、森の僻地にて、第一王女エルヴィーナ殿下が魔物に襲われそうになった、と」
男の顔が、わずかに歪んだ。
「エルヴィーナが……? 護衛は何をしていたのだ!」
「それが……何者かが、事前に魔物を退けていたようです。王女は、その人物の顔を覚えておらず……ただ、黒い瞳の子供だったと」
男は沈黙した。
黒い瞳の子供。
それは、この世界では珍しい特徴だった。
「ふむ……。いずれにせよ、魔物の活発化は看過できない。騎士団の派遣と、原因の調査を急がせろ」
「はっ!」
騎士は深々と頭を下げ、部屋を後にした。
一人残された男は、窓から夜空を見上げた。
「妙な気配がするな……。まるで、世界の歪みが、加速しているようだ」
その男が、物語のキーパーソンとなる、若き騎士団長アシュレイ・フォン・グラントだとは、まだ誰も知る由もなかった。
遠く離れた村で、俺は来るべき旅立ちに向けて、黙々と剣の素振りを続けていた。
知らぬ間に、物語は、俺が思っていたよりも、ずっと大きく動き始めていたのだ。
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