第三十八話:鉱山跡への道と迫りくる嵐
北の古城で得た衝撃的な真実──魔王の魂片。
実はかつて勇者が世界を救うために切り離した「聖なる媒介」であり、それが闇に染め上げられ変質したものだという事実に、俺の心は揺さぶられた。
これは単なる魔王討伐ではない。歪められた歴史を正し、勇者の魂を取り戻す、壮大な使命が俺に課せられたのだ。……多分。
「……勇者ねぇ……俺がねぇ……」
自嘲気味に呟きながらも、足は止まらない。
次の目的地「忘れ去られた鉱山跡」へと向かう。
道は次第に険しくなり、岩肌が剥き出しになった山道が続く。
周囲には、背の低い灌木しか生えておらず、風が吹き荒れるたびに砂塵が舞い上がった。
【危機察知】は、常に微弱な反応を続けている。この地域は、魔物の活動が活発なだけでなく、鉱山特有の不安定な地形も加わり、危険度が高い。
途中、何度か魔物との遭遇があったが、アビス・スライムやシャドウ・ウォッチャーといった強力な眷属とは異なり、この地域の魔物は比較的弱かった。
「俺が強くなった……って、思考は辞めよう。常に警戒重視!よし!」
実際、強くなっているのは事実。
だが、慢心していてはいずれ命を落とす。
(……命を第一って言ってた俺が今や、世界を変えるなんて事を考えてる……不思議な話だ)
ゴブリンの群れや、ロックゴーレムの亜種といった連中を俺は、【剣術】や【ファイアボール】で効率的に仕様し、撃退し、無駄な消耗を避けていく。
「経験値稼ぎにはなるけど、時間を食いたくねぇな」
【知力】が13.5まで伸びたことで、今後の行動計画をより効率的に立てられるようになった。
無闇に戦うのではなく、目的達成のための最短ルートと最善策を常に考える。まさに社畜時代のプロジェクトマネジメントだ。
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数日後、空の色が不穏な気配を帯び始めた。
鉛色の雲が広がり、強い風が吹き荒れる。
【危機察知】が、一段と強く警告を発する。
(嵐が来る……それも、ただの嵐じゃない)
空気中に、微弱ながらも不自然な魔力を感じた。
これは、自然現象としての嵐に、何らかの魔的な影響が加わっている証拠だ。
嫌な予感がする。
俺は、急いで嵐をしのげる場所を探した。
幸い、近くに小さな洞窟があった。
「良かった……流石に魔物とか出ないよな……?」
岩肌にぽっかりと開いたその口は、一時的な避難場所としては十分。
洞窟の中は、ひんやりとしていて、わずかに湿った土の匂いがした。
奥は暗く、どこまで続いているのか分からない。
「ここでいいか」
俺は、入り口付近で焚き火を熾し、リュックから簡単な食料を取り出した。
「ふぅ……間一髪だったな」
外では、風が唸り声を上げ、叩きつけるような雨音が響き始めた。
「危機感知、着実に進化してるな」
視界はほとんどなくなり、嵐の猛威が洞窟の入り口からでも伝わってくる。
──その時だった。
ゴゴゴゴ……と、洞窟の奥から、不気味な音が響いてきた。
それは、地鳴りのようでもあり、何か巨大なものが動いているようでもあった。
「……おいおい、嘘だろ」
【危機察知】が、洞窟の奥から迫りくる明確な「危険」を告げている。
その反応は、これまで戦ったどの魔物よりも強い。
(まさか……こんな洞窟にまでいるのかよ……もしかして俺、知らずのうちにフラグでも立てちまったか)
俺は、剣を構え、洞窟の奥へと視線を向けた。
闇の奥から、赤い光が二つ、ゆっくりと近づいてくる。
それは、まるで巨大な獣の目のように、不気味に輝いていた。
ズシン、ズシン、ズシン……。
地面が、その足音に合わせて揺れる。
洞窟の奥から現れたのは、想像を絶する巨体だった。
その姿は、巨大な岩と鉱石が組み合わさってできたような、異形の魔物。
全身は硬質な岩で覆われ、その間からは、まるで溶岩のように赤く光る鉱石が覗いている。
そして、その顔の中心には、一つだけ、巨大な赤い眼が輝いていた。
「こいつは見なくても分かる……」
しかし念の為【鑑定】スキルで、
その情報を読み取る。
【種族:アビス・ゴーレム】
【特徴:忘れ去られた鉱山跡の深部から現れた、強大な闇の属性を持つゴーレム。周囲の魔力を吸収し、物理攻撃を無効化する特性を持つ】
【危険度:極高】
アビス・ゴーレム……!
(やはり……)
ゲームでもラスボス級のダンジョンにしか出現しない、超重量級の魔物だ。
しかも、「物理攻撃を無効化する特性」を持つと来た。
俺は、その事実に絶望しかけた。
俺の主力は剣術と【魔力剣】による物理攻撃だ。
それが無効化されるとなれば、どう戦えばいい!?
「クソッ、よりによってこんな奴が……!勘弁してくれよ、マジで……!」
アビス・ゴーレムは、その巨大な腕をゆっくりと持ち上げた。
その腕には、鋭利な岩の爪が生えている。
次の瞬間、洞窟全体が揺れるほどの轟音を立てて、ゴーレムの拳が俺目掛けて振り下ろされた。
──ドォォォォン!
俺は、間一髪でその場から飛び退いた。
「うぉっ」
ゴーレムの拳が叩きつけられた場所は、地面が大きく陥没し、俺がいた場所は完全に砕け散っていた。
(一撃でも食らったら確実に死ぬ……!)
洞窟の内部は、ゴーレムの動きによって瓦礫が降り注ぎ、崩落の危険が増していた。
外は嵐。中は超重量級の魔物。
完全に絶体絶命の状況だ。
俺は、逃げ道を確保しようと周囲を見回した。
しかし、洞窟の入り口はゴーレムの巨体でほとんど塞がれている。
(…………行くしかねぇ)
俺は、僅かな希望を胸に、洞窟の奥へと駆け出した。
アビス・ゴーレムが、俺を追って、重い足音を響かせながら迫ってくる。
背後からは、轟音と共に岩が砕ける音が聞こえる。
(くそっ……こんなところで死んでたまるかよ……!)
俺は、自身のスキルをフル回転させ、この絶望的な状況を打破する方法を模索した。
物理攻撃無効……。ならば、魔法攻撃しかない。
俺の主力魔法は【ファイアボール】。そして、覚醒したばかりの【光魔法】。
アビス・ゴーレムは闇属性。ならば、【光魔法】は有効なはずだ。
だが、俺の【光魔法】のレベルはまだ2.0。この巨体を相手に、どれほどのダメージを与えられるというのか。
俺は、逃げながら、頭の中で戦略を練る。
このアビス・ゴーレムを倒す、あるいは、一時的にでも足止めする方法は……。
その時、俺の脳裏に、隠れ里の老人が語った伝承が蘇った。
「地の底より湧き出ずる聖なる雫……」
この洞窟は、鉱山跡の近くにある。
もし、この洞窟が鉱山跡へと繋がっていて、その奥に「聖なる雫」とやらがあるのなら……。
「賭けは嫌いじゃない……!」
一縷の望みをかけ、俺は闇が支配する洞窟の奥へと、さらに深く踏み込んだ。
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