第三十一話:儀式の中枢と『覚醒する力』
古の神殿跡の地下。巨大な魔法陣が不気味な光を放ち、ロード・オブ・シャドウとローブの魔術師たちが、魔王復活の儀式を執り行っている。
俺は、剣を構え、ロード・オブ・シャドウ目掛けて一直線に駆け出した。
「邪魔をするな、人間!」
ロード・オブ・シャドウが、闇の魔力を込めた掌を俺に向けて突き出した。
漆黒の魔力が、まるで津波のように俺に襲いかかる。
俺は、咄嗟に【危機察知】スキルで攻撃の軌道を読み取り、紙一重でかわした。
闇の魔力は、俺のすぐ後ろの壁に激突し、轟音と共に壁が崩れ去った。
(やはり、強力すぎる……今の俺では……)
ロード・オブ・シャドウの攻撃は、以前よりもさらに強力になっている。
儀式の魔力を吸収しているのか、あるいは、彼自身が本気を出してきたのか。
俺は、剣に魔力を集中させ、【魔力剣】を発動した。
蒼白い光を放つ剣で、ロード・オブ・シャドウに斬りかかる。
「はああああああああッ」
キィン!と、金属がぶつかり合うような音が響いた。
ロード・オブ・シャドウは、漆黒の爪で俺の剣を受け止めた。
その爪からは、闇の魔力が放出され、俺の剣の光を打ち消そうとする。
「小賢しい真似を……! 貴様のその力、どこまで持つか見せてもらおうか」
ロード・オブ・シャドウが、嘲笑を浮かべた。
その時、周囲にいたローブの魔術師たちが、一斉に俺目掛けて闇の魔法を放ってきた。
「クッソ!邪魔すんじゃねぇよ!モブ共が!!」
俺は【ファイアボール】を連射し、闇の魔法を相殺するが、その数はあまりにも多い。
俺は、多勢に無勢の状況に陥っていた。
(このままでは、儀式を止められないどころか)
──命を落とす。
俺は、どうにかして魔法陣を破壊する手はないかと考えた。
魔法陣は、数本の魔石の柱に囲まれており、そこから魔力が供給されている。
あの柱の一本でも破壊すれば、儀式を一時的にでも中断させられるはずだ。
俺は、ロード・オブ・シャドウの攻撃をかわしながら、魔石の柱へと視線を向けた。
目を見開き、【鑑定】スキルで柱を調べる。
【オブジェクト名:儀式用魔石柱(闇属性強化)】
【概要:魔王復活の儀式に魔力を供給する柱。闇の魔力によって強化されており、通常の攻撃では破壊が困難 】
やはり、簡単には破壊できないか……。
だが、困難なだけで破壊できないわけではない!
俺は、ロード・オブ・シャドウの攻撃を回避しつつ、魔石の柱へと近づいた。
「悪りぃな!小賢しさでは誰にも負ける気がしねぇんだわ!」
ロード・オブ・シャドウが、俺の意図に気づいたのか、怒りの声を上げた。
「なッ! ?──まさか!させん!儀式の邪魔などさせんぞおおおおおお!」
ロード・オブ・シャドウが、俺の前に立ちはだかった。
奴が放つ闇の魔力が、空間全体を歪ませる。
俺は、ロード・オブ・シャドウと対峙しながら、自分の持つ全てのスキルを頭の中で整理した。
(考えろ俺……目の前にいるのは魔王の幹部。コイツを倒さなければ、魔王を倒すなんて、夢のまた夢だろ)
俺は思考をフル回転させる。
(……って。何でモブである俺が勇者気取ってんだよ……)
【剣術】、【ファイアボール】、【魔力剣】……。
そして、聖女セレナとの接触で覚醒した【光魔法】。
まだレベルは0.5と低いが、闇属性の魔石柱には有効なはずだ。
俺は、右手に剣を構え、左手に魔力を集中させた。
【光魔法】の詠唱に入る。
(……頼む。今だけでいい!俺に力を貸してくれ、神様!)
左手に意識を集中させると、瞬く間に光を放ち始める。
「光よ、集え……!」
ロード・オブ・シャドウが、俺の行動に気づき、驚きの声を上げた。
「光の魔法だと!? 馬鹿な、貴様のような人間が、なぜ……!?」
彼の動揺は、俺にとってチャンスだった。
俺は、詠唱を続ける。
「俺はモブ……ただのモブだ。本来、なんの力も見せ場も無い、メインキャラクターにすら関わる事も無い作中の背景に過ぎないモブ──」
「させるかああああああああッ」
ロード・オブ・シャドウは俺の元に叫びながら近付いてくる。
「──けど。モブかどうかを決めるのは、俺自身だ」
それは詠唱というより、
「……【ライトニング・ボルト】!」
ただ、自分を奮い立たせるための──願いの言葉だった。
「やめろおおおおおおおおおおおおッ」
俺の左手から、細い光の矢が放たれた。
光の矢は、ロード・オブ・シャドウの隙間を縫うように、魔石の柱へと向かっていく。
(……遅せぇよ、バカ)
パチィン!と、小さな音を立てて、光の矢が魔石の柱に命中した。
魔石の柱は、わずかにひび割れた。
……
…………
………………
……しかし、破壊には至らなかった。
やはり、レベル0.5の光魔法では、この程度の威力か。
「…………くそっ、結局俺はここでもモブなのかよ……」
俺は地に膝をついた。
「……フ……フフフフ……フハハハハハハハハハハハハハッ!……今のは流石の私も焦ったぞ?だが、貴様程度の力では、石柱にヒビを入れる事しか出来ぬようだな」
奴の言う通りだ。俺はもう……。
──その時、俺の脳裏に、あの古の勇者の声が響いた。
『……光は……闇を穿つ……。信じよ……己の力を……』
勇者の声が、俺の心を、体を奮い立たせた。
「…………そうだ……まだだ。まだ俺は負けてない」
フラつこうが、関係ない。
俺は立つ。何度でも。
「無駄だというのがまだ分からぬのか」
俺は勇者でも、ゲームの主人公でもない。モブ。無色透明。何も持っちゃいない。
「フハハハハ……アハハ…………なんだ貴様……その力は」
そんな俺でも、この世界に転生した時……いや、する前からたった一つだけ持ち合わせていたものがある。
「社畜……根性……ふぅ……」
口から吐息が漏れる。
そして、俺の黒い瞳が、強く輝き始めた。
体の中から、今まで感じたことのない、強大な魔力が湧き上がってくる。
【ユニーク能力:勇者の魂の残滓:未習得 → 1.0】
【ユニーク能力:光の加護:未習得 → 1.0】
【魔力:9.5 → 10.0】
【知力:12.0 → 12.5】
【光魔法:0.5 → 1.0】
【経験値を得ました】
【ステータスポイントを5獲得しました】
俺に新たなユニーク能力が覚醒した。
「勇者の魂の残滓」……やはり、俺の瞳は、古の勇者と繋がっていたのか。
俺はモブじゃなかったのか……?
そして、「光の加護」。これが、光魔法の力を増幅させているのか……?
俺の体から、まばゆいばかりの光が溢れ出していた。
その光は、地下空間に充満する闇の魔力を、一時的に押し返す程。
「な、なんだ!? この光は……!」
ロード・オブ・シャドウが、驚愕の声を上げた。
彼の顔に、初めて真の恐怖の色が浮かんだ。
俺は、その光の力を最大限に引き出す。
【光魔法】の詠唱を、再び行う。
今度は正真正銘の詠唱だ。
「光よ──古の盟約に従い、天よりの光を乞い願う」
(……なんだコレ……頭に情報が流れ込んでくる……)
「闇を払う聖なる矢よ、今こそ、我が命に応えよ! 『ホーリー・ボルト』!」
俺の左手から放たれたのは、先ほどとは比べ物にならないほど、強大な光の矢だった。
光の矢は、空間を切り裂き、ロード・オブ・シャドウの隙間を縫って、魔石の柱へと向かっていく。
ドォォォォン!
轟音と共に、光の矢が魔石の柱に直撃した。
魔石の柱は、先程までと違い、まるでガラスのように砕け散った。
そして、魔法陣に供給されていた魔力が、途絶えた。
「ぐ、ぐあああああああっ!」
ロード・オブ・シャドウが、苦悶の叫び声を上げる。
魔法陣の光が消え、儀式が中断されたことで、彼もまたダメージを受けたようだ。
ローブの魔術師たちも、魔法陣の停止に動揺し、詠唱を止めていた。
「……くそっ、この小僧め……! 許さんぞ!」
ロード・オブ・シャドウが、怒りに震えながら、俺に襲いかかってきた。
彼の爪が、俺の顔目掛けて振り下ろされる。
俺は、剣を構え、ロード・オブ・シャドウの攻撃を受け止めた。
「言ったろ?小賢しさなら負けねぇってさ」
【魔力剣】と【光の加護】の力が、俺の剣に宿っている。
剣が、闇の魔力を打ち消すかのように、まばゆい光を放つ。
ロード・オブ・シャドウは、俺の剣の光に怯んだ。
彼の爪が、俺の剣に触れた瞬間、ジュワァ……と、肉が焼けるような音がした。
「ぐあああああああっ!」
ロード・オブ・シャドウが、悲鳴を上げて後退した。
「なぜ貴様にこれ程までの光……が……」
彼の爪からは、煙が噴き出し、まるで溶けていくかのように、その形が崩れていく。
「……馬鹿な……この力は……まさか……」
ロード・オブ・シャドウは、俺の黒い瞳を凝視した。
その瞳には、恐怖と、そして、かすかな「絶望」の色が浮かんでいた。
「……勇者……だと……?」
ロード・オブ・シャドウが、震える声で呟いた。
「…………小僧。今回は引き分けとしてやる。だが、必ず魔王様の復活は果たす。必ずだ!それまで震えて待っていろ……ぐっ」
そして、彼は、再びその姿を煙のように消し去った。
ローブの魔術師たちも、ロード・オブ・シャドウの撤退と共に、地下空間から姿を消した。
静寂が、地下空間に訪れる。
「………………終わった」
俺は、剣を納め、深く息を吐いた。
魔石の柱を破壊し、儀式を中断させることに成功した。
正直、もう戦う力が無い。もし奴が撤退していなければ俺は今日ここで確実に死んでいた。
「……少しだけ……休ませてくれ……」
俺はその場に寝っ転がった。
結局奴を倒すまでには至らなかった。
けど、新たな力を手に入れた。
俺のユニーク能力が覚醒したのだ。
(勇者の魂の残滓……光の加護……。俺は、本当に勇者なのか……?)
モブとして転生したはずの俺が、まさか「勇者」と呼ばれる存在になるとは。
この世界の運命は、俺が思っていた以上に、複雑に絡み合っている。そして、俺が知っているゲームと異なる点が多々あるのも事実。
「メインストーリー……まだ始まってないんじゃ無かったのかよ……」
これがメインストーリーでないと言うのなら、十年後どうなってんだ……。
しかし、ロード・オブ・シャドウは、まだ完全に倒したわけではない。
儀式は中断されたが、完全に阻止できたわけではないだろう。
まだ、他の二つの場所が残っている。
俺は、古の神殿跡の地下で、新たな力を手に入れた。
この力を使って、俺は、この世界の運命を、どこまで変えられるのだろうか。
「……少し寝る」
誰に言い聞かせる訳でもなく、そう呟き俺は目を瞑った。
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