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ガラスの花

街に着くと、朝市の準備に追われて慌たゞしく人々が行き交っていた。

「おぅ、ミリアム!今日も美人だな〜!」

商人仲間がからかいながらも、

「あの店の商品みたか?ありゃ手抜き過ぎてひどいもんだ。」

など、情報交換したり、相談したりしていた。ミリアムは街でも、一目置かれていた。

店の準備をしていると、となりの店のジークという中年の店員が、

「そういえば聞いたか?あの噂…」

と話しかけてきた。ジークは、ミリアム達の集落よりも、街に近い場所にある村の人間だ。

「噂?」

ミリアムは、商品を磨きながらジークの話に耳を傾けた。

「吸血鬼の話だよ。こえーよな、きっとあの山奥の方に潜んでるにちげーねーよ!」

ジークは、身体を震わせながら話す。

「吸血鬼って、何言ってんの?そんなのいる訳ないじゃない。」

ミリアムは、ステファンに言ったように返すと、

「そうみんな言うんだよ、ありえねーってな。でもよ、あの湖の辺り、人が寄り付かねぇだろ?」

ミリアムは、

「湖、ってあの大楠の先にある湖の事?」

「そうだよ。そういや、あの大楠、お前んとこの集落にちけえな。気をつけろよ。夜なんか、突然襲われるかもしんねーぞ。」

ジークはニヤニヤしながら話す。ミリアムは、何となく不快な気持ちがした。大楠は村の守り神。その先にそんなモノがいる訳がない。だが、この辺りで、たしかに吸血鬼はかなり噂になっているのだと感じていた。


お昼を過ぎた頃、ミリアムは休憩をとっていた。他の店の商品の偵察がてら市場を歩いていた。商人仲間は皆、気さくに声をかけてくる。

ある店の前で、ミリアムは足を止めた。あれ?この商品…。見たことのない綺麗な飾り物が並んでいる。

「おぅ、ミリアム!さすがだな、気づいたか?新商品だぜ。」

と、店の主人のアルバートが声をかけてきた。

「やっぱり!見たことないと思ったわ。」

ミリアムは、興味津々に商品を見る。色の発色もよく、細工もかなり繊細でこの辺りの工房では見かけないものだ。

「ねぇ、これ、どうしたの?どこで仕入れたの?」

ミリアムは興奮気味にアルバートに尋ねた。

「それがよ、俺はいつも市場に来るのは一番乗りなんだが、今朝、見たことない男が、これを持ってきてな。自分の代わりに売って欲しいって言うんだ。この市場に販売権を持ってないみたいでよ。販売権なら会長に言えばすぐに許可してもらえる、って言っても、いいって言うんだ。それでうちに並べてるって訳だよ。こんな良いもの、うちはありがてぇけどな」

アルバートは、嬉しそうに話す。

「その人、どこの人なの?」

ミリアムが尋ねた。

「名前も、集落も言わねぇんだ。頭からすっぽり黒いマントみたいなの被ってて、顔もわからねー。ちょっと、気味が悪いけどな…」

「素性もわからないんだ…」

ミリアムは商品を見ながら、不思議な気持ちになっていた。

これを、作った人に会ってみたい…

そう思い、商品を手に取り、胸が熱くなるのを感じていた。

「その人、今度いつ来る?」

ミリアムがアルバートに尋ねた。

アルバートは、

「売り上げ取りに、来週、来るって言ってたな。また、早くに来るんじゃねーかな?あの装束じゃ、人に見られたくないんだろ。」

というと、ミリアムは、

「ありがと!朝一ね!」

そう言うと、その商品の中の、青い美しい花をかたどった置物を買って自分の店へ戻った。

店へ戻るとステファンが仕事に追われていた。

「ミリアム、遅いよ〜。」

繁盛しているのは嬉しい事だが、一人では手に負えないらしい。

「ごめん、ごめん。」

ミリアムは、商品の包装を手伝う。だが、先程手に入れた、美しい青いガラスの花の事で頭がいっぱいだった。

夕方、市場での仕事も終わり、二人は帰路についた。ミリアムはずっと黙り込んでいた。ステファンは不思議に思い、

「ミリアム、昼くらいからあまり喋らないね。何かあったの?」

と尋ねた。ミリアムはステファンにいわれるまで自分が黙っていた事に気づかない程だった。ミリアムは、あの謎の男の話をした。

「謎過ぎて、怪しいよ、それ、盗品なんじゃない?」

ステファンお得意の、心配性が出た、とミリアムは思った。

「違うと思うわ。盗品なら、商品がバラバラなはずよ。だけど、あの商品は、同じ人が作ったものだった。細工や色味、何人もが関わって作ったんじゃなくて、一人の人が一つ一つ丁寧に作った、そう感じたわ。」

「それにしても、なんで顔隠してるんだよ。流れ者かな。どちらにしてもやましい事があるって言ってるようなもんだよ。」

「ステファンは何でもすぐ悪い方に話を持っていくね。本ばかり読んでるからよ。その人は怪しく思えても、商品は素晴らしいの!」

ステファンは部類の読書好きで、色々な本をいつも読んでいた。父親に似て博識だが、余計なことまで知ってるとよく言われていた。

ステファンの言葉にイライラしながら、自分が見たこともない作者を、何故か強く擁護していることに気づいた。何故そこまで、と自分でもわからなかった。それだけ、あのガラスの花は、ミリアムを惹きつけていたのだった。

村に帰ると、いつものように皆が歓迎して迎えてくれた。商品と帳簿の整理を終え、自分の部屋に戻ったミリアムは、あのガラスの花を部屋に飾った。ステファンから借りた花の本に、ブルーデイジーという花を見つけた。青く花弁がいくつもある、小さなその花がきっとモデルではないかと思った。ミリアムは、ブルーデイジーに懐かしさを感じていた。昔、どこかでたくさん咲いていたのを見たような、そんな気がしていた。

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