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第3話:恋のキューピッドの誕生③

 これまでにかかった時間は約一週間。靖乃との打ち合わせ時間も合わせると、計二週間も使ってしまった。なるべく宏太君が転校するまでの間に、宏太と靖乃の恋人時間を作りたいところ。だから一か月で計画を完了させたいのだが、焦りは禁物だ。


 落ち着いていこうと計画完了を改めて決意する二人。

 そこから一週間待った。

 噂が広まってもそこに信憑性が無ければ、噂など75日で簡単に消えてしまう。定着させ、「赤野間は危険!小田は可哀そう!」という考えを、宏太を含めた皆に植え付けるには、最低でも一週間は必要だと判断した。


 また靖乃と宏太の親密度を上げるためにも時間が必要だ。小春の考えだが、誰も来ないような非常用階段で休んでいるということは、女の子や付きまとってくるような人間があまり好きではないのではないか。


 疲れている宏太の前に現れたのは、いじめられつつも強く頑張る女の子。だが彼女は本当はそこまで強くなく、涙を流す弱さがあった。気丈に振る舞っていたのだ。

 守りたい、可愛い、そう思うきっかけは作った。しかし人の気持ちは分からない。

 ここからは靖乃の頑張りどころだ。一週間で宏太の意識を恋愛方向へと確実に向ける。


 一週間が経過したところで、小春はそれぞれに現状を確認した。

 まずは友人の男の子たち。


「噂は良い感じに広まってる。小春のこと悪者って思ってないやついないんじゃね?」

「宏太の方も良いよ。口に出しては言わないけど、雰囲気が大分柔らかくなってる。小田のことを目で追ってたりしてるし」

「ただ噂が広まりすぎて、いつ教師たちに伝わるか分からないぞ」


 次に靖乃。


「もうね宏太君カッコイイの!この一週間、毎日非常階段に来てくれて、私が泣いてたらそばにいてくれるし、話の内容も面白いの!最高!この時間が続けばいいのに!」


「ちょちょちょ、靖乃ちゃん!落ち着いて!まだ恋人になってないからね?」


 それはもう、延々と、宏太とのことを話された。うんざりするほどに。

 声をかけると我に返ったようで報告を始めてくれた。


「実際に、皆の前では話さないんだけどね、目が合ったときとか、手をこっそり振ってくれるの!あとあと、いじめられたって噂を人から聞いたあとは、必ずお菓子をくれる!それとハンカチで、涙を拭いてくれる!これがチョーかっこよくて、」


 また話が長くなりそうなので小春は早々に話を断ち切った。

 しかし友人たちからの報告とも合致している。宏太は靖乃のことを気になり始めている。


(どうする…?ここで勝負に出る…?それとも、まだ時間をかける…?いや、時間をかければかけるだけ二人の親密度は高くなるだろうけど、その分先生たちにいじめがばれる危険が増す。それは避けなきゃ)


 準備は整っているのだ。今行動を起こしても、大丈夫。

 小春はまだ夢見心地の靖乃の肩を掴んだ。


「靖乃ちゃん、決戦は明日よ」


「…え?ちょ、待って!待って待って!明日って、本当に?でも、計画じゃ後一週間はあるでしょ?別に、一週間待って、それからでも遅くないんじゃ…」


 夢から覚めた靖乃は慌てる。それはそうだ。一世一代の告白。失敗を避けたい気持ちは分かる。

 しかし、小春は首を振った。


「うん、計画じゃ一週間ある。でも他の人からの報告によると、先生にバレちゃう危険性が結構高いんだ。そうなれば今までのことが全部ぱあになっちゃうんだよ。靖乃ちゃんはそれでも良いの?私はいや。成功させたい。成功して、靖乃ちゃんに幸せになって欲しい」


 靖乃は一瞬迷いに顔を曇らせたが、小春の想いが伝わったようで、直ぐに迷いを吹き飛ばす。そこには初めて会った時の、決意をした目があった。


「分かった。私、やるよ!明日、宏太君に告白する!」


 当然怖いはずだ。好きな人から拒絶されるかもしれない。しかしそんなことは絶対にさせない。小春は靖乃の心細さを消すために、彼女の手を強く握った。


「絶対に成功させよう!」


 翌日の昼休み。決戦の日だ。

 教室にも、教室がある階にも、教師はどこにもいない。小春たちの学年含めて職員会議を行っているのだ。議題は「校舎内の危険個所について」。最近天上の一部が落ちてきていたのを使ったのかもしれない。流石立花先生だ。


 つまり今は、生徒しかいない、絶好のいじめ時間。


 小春は息を整えて、覚悟を決める。嫌われる覚悟ではない。

 元々嫌われているのに、嫌われる覚悟などない。


 成功させる覚悟だ。


 靖乃の告白大作戦を成功させる覚悟を決め、小春は教室の自分の席から立ち上がる。

 女友達はその場に残して、靖乃という、いじめている最中の相手へと足を向けた。


 小春は頑張って意識して、いじめっ子みたいな声を出した。


「ねえ、小田さん。一人でお弁当食べてないでさ、私たちの所に来たら?寂しいでしょ。入れてあげるよー?」


 上から目線で恩着せがましく。それでいて、何か企んでいそうな顔。

 完璧な悪者だ。

 靖乃は怯えたように瞳を振るわせて、それでも負けないと胸を張った。


「あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です!」


 完璧だ。完璧な、ヒロインだ。

 ちらっと廊下に目をやると、友人の男の子たちと宏太君がいる。彼はこちらを見て顔をしかめているようだ。


 小春はよしと胸の内でほくそ笑み、仕上げに入る。


「そんなに警戒しなくてもいいよー。ね?」


 そう言って、靖乃の手を引く。

 すると彼女は転んだ。もちろん演技だが、傍から見ている人にはこれが、小春が足を駆けたように見えたはずだ。


「えぇ、ちょっとー。大丈夫?」


 小春は床に座り込む靖乃に、クスクスと小さく笑って言う。

 教室のドアが開かれる音が聞こえた。


「おい」


 ようやく来てくれたと、顔に出さないよう努める。


 王子様の登場である。

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