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第15話:魔法の特訓③

 アーノルドと小春がルークとイリスを見るが、二人とも手から炎は出ない。


「炎、出ないね…」


 ルークは眉に力をぐっと入れ、何とか力技で炎を出そうとしている。イリスは全く炎が出せなくて、今にも泣き出しそうだ。取り合えず落ち着いてと小春はルークには力を抜くように、イリスは泣き出しそうだったので頭を撫でた。

 焦った様子のルークに、アーノルドは目線を合わせる。


「心配することはない。初めて使用する者の多くが、使う魔法のイメージを浮かべられない。何度も練習することが重要だ」


 ルークは頷くが、二人は変わらず落ち込んだまま。何か良い案は無いかと考えて、小春は「魔法を変えてみるってのはどうかな?」と提案してみる。


「自分の色は精霊の加護の色なんだよね?自分の得意な魔法の色が分かってるなら、もしかしたら自分の色の魔法の方がやりやすいんじゃないかな?」


 なるほど、とアーノルドは頷く。通常、初級魔法の炎や水と言った魔法から、どんどん難易度を上げていくものだから、自分の色から分かる得意魔法からという発想がなかった。

 アーノルドはルークとイリスの髪を見る。それぞれ黒が混じっているが、割合はそれぞれの色の方が断然多い。黒と自身の色、2対8だ。


「ルークは土系、イリスは精神系だな」


「せいしんけい?」


「相手の心に訴えかける…例えば、イライラしている人の心を優しくする、といった感じだろうか」


 しかし精神系の魔法は高度な魔法だそうで、イメージが付きにくいらしい。それこそ中級に分類される魔法だと。


「中級…それは難しそうだね…」


 不安げなイリスに、小春はニッと笑いかける。


「とりあえずやってみよ!まぁ、なんとかなるよ!アーノルドもさっき言ってたけど、練習すればできるようになるんだし!それに初級すっ飛ばして中級出来たら、カッコよくない…?」


 想像したのか、イリスはキラキラした目で小春を見て頷いた。


 それぞれの魔法の一番簡単な魔法をアーノルドが手本として見せてくれる。

 土系は[土]と言って、先程の[炎]と同じ初級魔法だ。上手く扱えるようになれば土壌の質向上や、土の固さを調節できるようになるらしい。

 精神系は[マインド]と言って、中級魔法だ。相手の気持ちを揺らがせる魔法で、上達するにつれて対象の感情をコントロールできるようになるらしい。


 いざ実践を始めて見るが。


「「………」」


「うーん。できない、ね…」


 イリスから魔法をかけられている小春だが、可愛いと思うだけだ。イライラやムカムカは別にしない。イメージが難しいのだ。

 これは練習あるのみかな、と小春は落ち込む二人の頭を撫でる。ふと気になって、アーノルドに尋ねた。


「ねぇ、アーノルド。土系と精神系の色って、何色なの?」


「土は黄色、精神は紫だ」


 黄色、紫色、と言われて、小春は再度二人の髪を見る。お風呂に入って汚れを洗い流したことにより、出会った時よりもその色は鮮やかに変わった。昨日の夜も思ったが、やはり綺麗な色だと思う。


「うーん。私には、ルークの色は金色で、イリスの色は赤紫色に見えるんだよね」


 頭にクエスチョンマークを浮かべるルークとイリス。二人とは別に、アーノルドは手を顎に持っていく。色が違えば魔法は変わってくる。


「金は光や聖霊系、赤紫は物体系だ」


 金色の人間が使える魔法は、光魔法と聖霊魔法の二つに分かれる。”魔”と反する”光”の魔法は、”魔”を遠ざけ消滅させる魔法だ。一方、聖霊魔法は”魔”を消滅させることはできない。ただ、護る魔法である。


「まもる…」


 光魔法は生まれ持った才能で、幼少の頃より使える人間がほとんどだ。しかし聖霊魔法は習得する魔法。その習得はとても難しく、初級の魔法でも最低三年はかかると言われている。国内でも使える人間は少なく、今はわずか三人のみ。ルークは今まで魔法を使ったことがなく、小さいころから無意識で使える光魔法を使えないと言うことは、可能性があるなら聖霊魔法だ。それに黒持ちである自分が、”魔”を消滅させる光魔法を使えたら、自分自身が消滅してしまう。


 物体系は物に関わる魔法だ。一番簡単な魔法は物を浮かす魔法。上達していくと、自分の体さえ浮かせて、飛べるようになる。


「おそら、とべますか…?」


「まだ分からない。しかし、いずれは可能になる」


 二人の色が小春の見立て通りであれば、の話である。しかし舌足らずな言葉で蝶のように空を飛んでみたいと伝えてくるイリスには、ぜひ飛んで欲しいと小春は思った。もしイリスが難しいなら、小春が意地でも魔法を習得して、イリスを空へ飛ばせてあげたい。


 特訓開始となり、イリスの前には一枚の紙が用意された。浮くイメージを持って欲しいので、小春は抱っこしてみる。


「イリス、浮くってこういう感じだよ。地面から足が離れてる状態」


「あし?かみさんにも、あしあるですか?」


「うん。紙さんにもね、この地面を踏む足があるんだよ」


 イリスは小春に抱っこされたまま、紙に手を伸ばす。下ろして欲しいのかなと思って地面に近づけようとしたが、その前にイリスは口を開いて呪文を唱えた。


「[うけ(フロート)]」


 紙が持ち上がる。一秒ほどですぐ地面に落ちてしまったが、確かに浮いた。

 小春は嬉しくなって、抱っこしていたイリスをギューッと強く抱きしめて、グルグルと回った。


「すごい!すごいね!イリスは天才だー!」


 首にしがみついていたイリスだったが、それはグルグルに恐怖を感じたわけではなかった。それは顔を覗き込んだ時、頬を赤く染めて嬉しそうに笑っていたからだ。まだ子供らしく自分の感情を表に出せないイリスだが、徐々に表情が明るくなって来ているのが、小春は嬉しかった。


 ルークの魔法は、アーノルドも使えない。彼が知っているのは詠唱だけ。聖霊魔法という魔法も、火や水と言った目に見えるものではないので、イメージが付けられない。

 そこからしばらく特訓を続けたが、ルークは魔法を使うことはできなかった。


「よし、お昼にしよう!」


 ちょうとお腹が鳴ったので、昼食を取ることにする。

 シンプルなサンドイッチで、トマト&キャベツと、卵のみといった、二種類。どちらもパサついておらず出来立てほやほやで大変絶品だった。魔法鞄最高である。

 しかしルークだけは、しょんぼりとしていた。


 小春はフワフワの卵サンドを頬張り、飲み込んだ後、隣に座るアーノルドに耳打ちする。


「ねね、アーノルド。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」


「…どうした」


 心臓の辺りを抑えながら、それでも何とか耐えて小春の言葉に耳を傾けるアーノルド。小春は目を光らせた。


「街に行きたい!」

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